第5話:久々の本邸

事件の翌日、謁見室に全使用人が集合していた。当主の座にはリュウが腰を下ろしており、もちろんその横にはセバスが立っている。


重い雰囲気が漂う中、リュウは口を開いた。

「まずは皆よく集まってくれた」


使用人達は冷や汗を流しつつ、無言で頷く。


それもそのはず。彼等はリュウ達が長い間不遇な扱いを受けていた事を知っていたにもかかわらず、その間誰も助け船を出さなかったのだ。むしろこの状況で堂々とできるような空気の読めない人間は、貴族の使用人という上級職には就けないだろう。


「昨日、前当主グレイ・アードレンは領地視察の最中、橋の崩落という“不慮の事故”に巻き込まれ、命を落とした。現在騎士団が調査中だが、おそらく結果は変わらないだろう。あまり関係性は良くなかったとはいえ、息子である身としては非常に残念だ。というわけでセバス、続きを頼む」


「はい。アードレン男爵家のしきたりにより、当主は長男であるリュウ様が引き継ぐこととなります。皆の者、これからはリュウ様に誠心誠意、その身を捧げるように」

「「「「「「「はっ」」」」」」」


セバスは立派な髭を擦りながら、皮肉を言う。

「まぁ本来であれば、リュウ様が誕生なされてから今までの間も、ずっとお仕えしなければいけなかったのですが……ねぇ、リュウ様?」


ここで、使用人等の顔色がいっそう悪くなった。


(ナイスパスだ、セバス)


「その件については不問とさせてもらおう。お前達にも養わなければいけない家族がいるからな。数年前、もし俺達に付いて来ていれば、前当主に即座に首を切られていた可能性が高い。当時の状況であれば、誰でも同じ判断をするだろう。だから気にするな。先ほどセバスが言ったように、これから俺の下で精一杯男爵家を支えてくれれば、それでいい」

「「「「「「「……!」」」」」」」


その言葉に、皆ホッと息を吐いた。

(まさかお咎め無しとは思いもしなかった)

(なんと懐の深いお方だろうか……)

(こんな素晴らしい方を今まで旧邸に追いやっていたなんて)

(私たちは全員リュウ様の事を勘違いしていたのね)


リュウは幼い時から、ずっと人目のつかない場所で活動していたため、使用人たちは彼のことをあまり知らないのだ。それどころか、皆口にはしていないものの、彼を遊び好きの無能令息だと考えていた者が多い。


リュウはコホンと咳払いをし、声の抑揚を少しばかり上げた。

「で、真の問題はここからだ。そこのお前、現在の男爵領の状況を端的に説明してみろ」

と言い、一人の執事を指さした。


「は、はい!しかし、あの……」

「はっきりでいい。事実はきちんと受け止めなければならん」

「えっと……財政的にかなり危うい状況です」

「続けろ」

「領民や冒険者・商人ギルドからの信頼もすでに地に落ちているため、今から全てを回復させるのは、至難の業かと」

「その通りだ」


謁見室の空気が再び重くなった。


セバスが問う。

「リュウ様、どうなされますか?」

「二年だ」

「と、言われますと?」

「今から二年の間に、必ずアードレンの全盛期を超える。復興計画については、すでに練ってあるから心配するな」


「「「「「「「???」」」」」」」


「だそうですよ。では皆さん、一丸となって頑張りましょうね……ふふふふ……」

セバスは悪い顔をした。


「あと皆の知っている通り、母さんの身体は今も病に蝕まれている。だからメイドを常に五人付けろ。それと妹のレナにも三人メイドを付けろ。そして最後に……」


「この一週間、セバスの指示の下、領内の情報をかき集めてくれ。どんな些細なものでもいい。重要な鍵というものは、案外“そういうところ”に隠されている。わかったか?」

「「「「「「「はっ」」」」」」」


「では、解散」


それからセバスの号令により、領内のありとあらゆる情報が集められ、今まで無警戒だった問題が次々と浮き彫りになり、本邸内はかなり騒がしくなった。


その後。

「セバス、あとは頼んだぞ」

「はい、お任せを。また一応の確認なのですが、まだ“あの件”については、通達しない方向でよろしいのですよね?」

「ああ。今までの流れを考慮するに、内側に裏切り者が潜んでいる可能性はゼロじゃないからな。アードレンが真っ白になるまでは、俺達だけで進める予定だ」

「承知致しました」


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