第30話 再戦
気づけば俺は真っ暗な場所にいた。俺は慌てて微光暗視眼鏡を召喚し、目元に装着した。幸いなことに視界が確保できた。微光暗視眼鏡はわずかな光を増幅する装置だ。真の闇では効果が無い。文字通り、星明りのおかげで視界を確保できているようだ。奴の口ぶりからてっきり闇の世界にでも連れていかれるのかと思ったが、どうやら野外のようだ。
周囲を見渡すと、はるか彼方に光源が見えた。おそらく要塞だろう。するとここは平野部のどこかか? ……マズい! 俺を軍団から引き離して殲滅させるのが目的か! 急がないと皆が……ライアが危ない! 焦る俺にザルトスが闇から姿を見せ話し始めた。
「どうしたサカキコータロー。何を焦っている。……面白い格好をしているな。それで暗夜を克服しているのか……」
「ザルトス! 貴様これはどういうことだ! 王なら家臣の前で堂々と一騎打ちしたらどうだ!」
「生憎だがお前の戦技は我が神のお告げにより把握している。守るべき者が多いほど強くなるのだろう? 厄介な能力だからな、封じさせてもらったぞ」
奴は俺の『献身』を把握しているようだ。くそ! 闇の神め! 贔屓しすぎだろ。だが正確には理解していないようだ。俺の能力は戦闘意思のないものや弱者にしか効果が無い。先程の状態でも変わらないはずだが……。とにかく急いで奴を倒して戻らないと!
「御託はいい! サッサと片をつけるぞ!」
「舐めるな! 今日は新月だ、前回の余と同じだと思うなよ!」
クソ! 俺と違って奴は前回よりパワーアップしているのか! そういえば前回は満月だった。奴の加護は闇。新月の夜こそが奴の真骨頂か! だがやるしかない! おれはろくよんを構えて安全装置を外した。
「ザルトス! 今度は銃剣でなく、ろくよんのナマリ玉をお見舞いしてやる!」
俺が機先を制して単発射撃で撃つが、銃口が火を吹いた瞬間、奴の姿が消えてしまった! 魔法で姿を消したか!
「ザルトス! 王の癖に隠れるか! 正々堂々と戦え!」
「ハハハハハ! 子供の決闘ではない! 種族の存亡を掛けた戦いよ! 当ててみるがいい!」
奴は俺を挑発するが、姿を表しては消えてしまう。俺が撃つたびにだ。だが奴も姿を消したままでは攻撃できないようだ。奴の狙いは時間稼ぎか……俺は引き付けている間に要塞に残ったライアたちを皆殺しにするつもりか! そうはさせんぞ!
こうなれば、所かまわず乱射してやる! 下手な鉄砲数うちゃ当たるだ! 俺は弾倉を取り替え、連発に切り替えた。そしてぐるぐる回転しながら撃ちまくった! どうせ弾倉はいくらでも出せる。これが躱せるか!
「ぐお!」
「やった!」
マヌケな戦法だったが、効果はあった。奴は下腹部にろくよんを喰らい、倒れていた。今がチャンスだ! 弾倉は空になってしまったが、着剣済みだ! あの時と同じで銃剣で仕留めてやる! 俺は奴に向かって突撃した!
「
「……いまだ! ドビーやれ!」
「何だと!」
俺が跳びかかったその瞬間! 今まで地面に伏せていたのか、大弓を持った小柄のゴブリンが姿を現した! クソ! これが本命か! 一騎打ちなど大ウソか!
俺は回避を試みたが、ゴブリンの射撃の方が早く、足に矢を受けてしまった! 異世界に来て初めて大ダメージを受けてしまった! だが怯んでいる暇はない! 奴が次弾を撃つ前に俺は銃剣を手元に召喚し、投げナイフの要領で奴に投げた!
銃剣は奴が弓を放つ前に喉元に命中し、すぐに絶命したようだった。
「ドビ―見事! 流石、狩猟神の加護を持つ男よ! お前の犠牲、必ずや末代まで語り継ぐぞ!」
ザルトスが大声で家臣を褒めたたえた。あのゴブリン加護持ちだったのか。通りで俺を射貫くほどの力を持つ訳だ。だが傷は致命傷ではない。ザルトスの傷も浅くは無さそうだ。一気に方をつけてやる。
「この野郎、何が一騎打ちだ! 恥を知れ!」
「やかましい! これが軍略だ! 加護の力に頼る貴様に言われる筋合いはない! さて、俺の傷もなかなか深いようだ。前回と同様にな。俺は引かせて貰うぞ。ところで、そろそろ毒が回るころだな……お前の死にざまを見てやりたいが、捨て身のお前は怖いからな。お前は一人でこの荒野で朽ち果てるのだ! さらばだ! サカキコータロー!」
「く、くそ! また毒か! こっちの弱点を知り尽くしてやがる! これも神様の入れ知恵か! ふざけんな!」
俺は文句を言うがそれどころではなさそうだ。奴の言う通り、段々と毒が回ってきたようだ。悪寒と動機がしてきた。だが前回ほどひどくはない。これなら何とか持つかも知れない。
「ら、ライア! 待ってろよ! 死ぬな!」
俺は微光暗視眼鏡を外してその場に捨てた。走るのに邪魔だ。今はあの遠くに見える光源へ向け全力で走るだけだ! 間に合ってくれ!
俺は走り出したが、いつものようには行かなかった。毒のせいで体がフラフラする。熱が出てきたのか、体が熱い。……あの時と一緒だ。あの最後の訓練の時と。
俺はそれでも懸命に走るが、眩暈がしてきて思うように走れなかった。だが休むことなど出来ない。必死になって足を動かすが、全身が重い。手に持ったろくよんを捨てようかと思ったが、万が一毒のせいでSPが少なくなっていたら武器召喚もできなくなる。捨てるわけにはいかない。
俺は走った。だがなかなか距離が縮まらない。あの時と同じく永遠にたどり着けないのではと思い始めた。
……やっぱり俺には無理だったんだ。俺が勇者? 俺は同期についていけなかった情けない男でしかない。神の加護で調子に乗っていただけの男だ。いざ困難に直面したらこのざまだ。……もういい、俺は充分に頑張ったよ……いいじゃないか、このまま死んでも。俺が死んだら魂は祖国に、日本に帰れるのだろうか……
俺は諦め、走るのをやめようとした。一度歩いてしまえば、もう二度と走れぬような気がしたが、仕方が無い。……ごめんな。ライア……
(サカキィ! どうした! 諦めんな! お前が諦めたら部隊は全滅だぞ!)
だがその時、とんでもない事が起きた! 俺の耳元で小野三曹の怒鳴り声が聞こえたのだ!いよいよ毒で幻聴が聞こえたかと思ったが、俺が右を見ると、光り輝く小野三曹が伴走していた!
「ふ、副班長! 何故ここに!」
『いいから前を向いて顎を引け! 俺が最後まで付き合ってやるから諦めんな!』
「は、はい!」
俺は遂に毒で幻覚まで見えてきたのだと思ったが、副班長には逆らえない。ここで諦めたら殺されてしまう! 俺は必死で走ったが、体力の限界で腕が下がりつつあった。だがそれを許してくれない人物がまたも現われた。
『腕を下げるな! しっかり持ち上げろ!』
「は、班長まで!」
俺を𠮟りつけたのは班長の藤沢三曹だった。俺の左隣で光り輝いている。小野三曹も厳しいが、藤沢三曹はさらに厳しい! 俺は必死で腕を持ち上げ走り続けた!
『そうだ! あの悔しさを思い出せ! あの時は走り切れなかったが、今のお前なら走り切れるはずだ! その悔しさを忘れない限り、お前は戦い続けることができる!』
班長の𠮟咤激励を受けながら俺は走り続けた、そのうちまたしても懐かしい声が聞こえてきた。
『『『榊二士ファイト! 榊二士ファイト!』』』
同期たちの声だ! 一区隊一班の面々の声が後ろから聞こえてきた。俺の真後ろの為、姿は見えないが間違いない!
『イチ! イチ! イチニイ!』
『ソーレイ!』
そのうちに班長が歩調を数え始め、同期たちが大語で掛け声を出し始めた。俺を励ましてくれているのだろう。俺は不思議と力が湧いてきて、走り続けることができた。無論体力は限界を迎えているのだろう。だがそれでも俺は、みんなを、ライアを守らなければならない。何故なら俺は自衛官だからだ! 半人前でもだ! 待っててくれ! 死なないでくれ!
「守りたい人がいる!!」
俺はひときわ大きな声を出し、闇の中を走り続けた。
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