第28話 要塞陥落
ドムスギア軍の攻撃は凄まじかった。アメフトの選手など真っ青なタックルを大楯を構えて行うのだ。その圧力にゴブリン達は押し出されていくばかりだ。どの道背丈の足りない彼らではシールドバッシュに対抗できないのだが。
苦境に陥ったゴブリン達を援護すべく、塁上の兵達が援護射撃を行おうとするがそれをろくよんの連発射撃が阻んだ。ルセウム軍も弓で援護を行い、地上部隊は押されるばかりだ。遂に彼らは敗走を始め、要塞内に逃げ込んだ。だが途中で城門がしめられ、一部の部隊は取り残されてしまった。
やけくそになったか、彼らはこちらへ突っ込んできたが、ドムスギア軍の手に掛かり殲滅された。ここからは壁に取り付いての攻城戦となる。ドムスギア兵の一部が梯子を用意し、壁に立てかける。ここで遂にルセウム軍が前線に躍り出た。重い装備のドムスギア兵よりルセウム軍の方が梯子を上るのに適している。
彼は素早く梯子に取り付き、一気に昇って行った。城壁の高さはビャクランより高く、最上部は相当な高さだが、彼らが恐れる様子は微塵もない。ドムスギアとは違った強さだ。俺は彼らを援護するべくひたすらろくよんを撃ちまくった。ここまで接近させると投石機も役に立たず、射手たちは放棄してルセウム軍を迎え撃った。
通常の攻城戦であれば梯子を昇っている最中に弓で攻撃されるだろうし、一番上に辿り着いても集中攻撃を受けてすぐ落ちてしまうのだが、今回に限っては俺がいる。俺のろくよんの援護射撃が功をそし、彼らは難なく塁上に躍り出た。そして雄たけびを上げながら敵へ切り込んでいった。
「ルセウムは我らのものだ!!」
「勝利か死か! それだけだ!!」
彼らは口々に勇ましい言葉を敵に浴びせながら切り込んでいった。なお、俺は敵の加護持ちなど余程の強敵が出てこない場合は援護射撃に徹して欲しいと厳命されていた。手榴弾もSPの消費が大きい感じがしているので、それも控えるように言われていた。
これは単に軍の見せ場を作れというような感情論ではなく、いまだ敵の陣容が謎に包まれており、切り札である俺を可能な限り温存するという作戦だ。加護持ちは実はドムスギア軍やルセウム軍にもいるそうなのだが、いずれも加護が小さい。ライアのような強大な加護を持つものは残念ながらいない。加護の大きい者たちの大半はオーク戦争で戦死したそうだ。
しかし、ゴブリンサイドには確実に一人、ゴブリン王ザルトスがいるし、強力な加護持ちが彼一人というのも考えにくい。いかにヒューマンより加護持ちが少ないとはいえだ。俺は援護を続けながら今後の戦いを考えていたが、乱戦となり迂闊に射撃できなくなってしまった。
だが心配する必要は無さそうだ。ルセウム軍はゴブリン達を圧倒している。予想以上にスムーズに事が運んだが、これもロムレスの立てた作戦のおかげだろう。いけ好かない奴だが指揮官としては一級品か。軍神の加護を授かるだけはある。
やがて彼らは塁上の敵を一掃し、城内へと突入していった。ドムスギア軍は城門の前で待機し開門され次第、突撃する姿勢を取った。俺とライアは一旦城壁に移ることにした。すでに攻城塔は城壁の目の前まで来ている。俺達はジャンプして城壁へと飛び移った。そこは夥しい数のゴブリンの死体であふれていた。俺が射殺した個体も多いが、ルセウム軍によって斬り伏せられた者たちも相当数いる。
気になったのは、精鋭のホブゴブリンの死体がほとんどないことだ。地上でもそうだったが、戦力を温存している可能性が高いな。俺とライアは眼鏡でゴブリン側の土地を警戒した。伏兵でもいればエライことだ。だがその心配は無さそうだった。要塞の向こう側は平野部で森など敵が隠れる所はない。今のところ奇襲を受ける心配は無さそうだ。
そのうち、うおー! という吶喊の声が響き渡った。どうやら城門を解放することに成功し、ドムスギア軍が突入したようだ。ゴブリン達は敗走を始め、平野部へ向け必死に走って行った。ルセウム軍が追撃を行うが、程なくして動きを止めた。深追いは危険だ。ミロンはそう判断したようだ。
ロムレスも馬を駆り、城門を通過した。彼も眼鏡で周囲の状況を確認していた。指揮官として自ら安全を確認しているのだろう。彼は斥候を周囲に放ち、さらに警戒するようだ。だが当面の安全は確定したと判断したか、剣を掲げ、勝どきを上げた。
「みなの物! 我らの勝利だ! ヒューマン万歳! 帝国万歳! ドムスギア万歳!」
「「「ヒューマン万歳! 帝国万歳! ドムスギア万歳!」」」
「「「ヒューマン万歳! ルセウム万歳! 勇者万歳!」」」
勝利者達は次々と万歳を行い、勝利の雄たけびを上げた。俺は一息ついて、脱力してしまった。その俺の肩を彼女が後ろから抱きしめた。
「コータロー。勝ったのね、アタシ達」
「ああ、そうだな。でもまだ油断できない。主力らしい部隊がいるとは思えなかった。何か策を狙っているはずだ」
「ええ、そうね。……でも今は勝利を喜びましょう」
彼女はそう言って俺にキスをした。城下の人々はそれを見て、フォー! と謎の雄たけびを上げ、俺達を冷やかした。……映画とかなら指笛を拭いたり、ヒューヒュー言うが、なんというか実に野蛮な囃し立てであった。なお、ロムレスからは苦情を言われた。あのような姿は兵士には刺激が強く、性欲が暴発して馬鹿な事をする兵が出ないとも限らないと。
「別に仲良くするのは構いませぬが、兵たちの目につかぬ所でお願いしたい」
「「はい……」」
もっと嫌味っぽい言い方なら俺も反発したが、ロムレスの様子は至って真面目で俺達は素直に謝るしかなかった。軍事関係については彼は極めて真面目だ。多少行き過ぎの部分もあるが。
その後、俺達は敵の精鋭部隊の逆襲に備えて休憩していると言われてしまった。城内の点検や遺体の片付け、野営の準備などやることはいくらでもあった。この要塞自体に兵の収容能力はあまり無いため、要塞の前後に別れて天幕を張った。前衛をルセウム、後衛をドムスギアが担当した。
要塞のルセウム側はゴブリンの遺体が散乱し、これを運搬、整理するのはドムスギア人の統率力に任せた方が効率的な為だ。また城内の清掃や修復も必要だ。ルセウム軍は警戒に専念した。
ロムレスが一通り指示を出し終わると、両軍の幕僚たちを集め今後の方針を話し合った。勿論俺たち二人も呼ばれている。
「さて、ひとまず勝利したが、これは間違いなくゴブリン達の策でしょうな。勇者殿の援護があったとはいえ、あまりに呆気なさすぎる」
「同感ですな。仮にサカキ殿がいなくても勝利できたでしょう。無論被害が段違いですが」
「死傷者はごくわずか。完勝と言ってよいじゃろ。儂もだいぶ楽ができたわい」
ガルス翁がそう言い、周囲を和ませた。なお彼は貴重な魔法使いをまとめて最後方で支援に徹していた。彼は攻撃魔法も使えるが、回復魔法も使える万能型だ。ユリアナに比べれば劣るが、貴重な回復要因であり、さながら医療部隊のように運用されていた。
軍議ではやはり敵は精鋭を温存して一気に決着をつけに来るとの見解で一致した。とにかく今は守りを固めるという意見で一致した。幸いカタパルトも奪えたので、要塞を補修して敵軍を待ち構えることになった。大変だったが下手に連射で破壊しなくて良かった。
戦闘は昼前には終了したので、片付けの最中だったが昼食になった。なお彼らの携行食は麦がゆが中心でチーズやジャーキー等が副菜として用意された。道中もこれを食べ続けた。俺は缶飯を召喚しても良かったのだが、自分だけ別なものを食べるというのも良くないので彼らと同じ物を食べた。同じ釜の飯を食ってこそ仲間というものだ。
だが、むせ返る様な血の臭いの中食べる食事というのはなかなか辛いものだ。教育中も俺は疲れ切って食べられない事もあったが、野外訓練だと残飯処理の問題もあり、完食を命じられた。あの味の濃い缶飯を食い切るのは大変だったな。
とにかく俺は必死になって食べきった。ライアもあまり食が進んでいないようだ。無理もない、彼女は元々は令嬢なのだ。ミロンやロムレスのような軍人ではない。
この戦争が終われば、彼女も令嬢に、普通の女の子に戻れるのだろうか……
俺はどこまでも広がる地平線を見ながら平和になった未来を想像していた。
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