第27話 要塞攻略
あの日から数日間、俺はゆったりと過ごした。昼間は主に訓練の名目でライアと乗馬を楽しみ、夜は彼女の友達の家に呼ばれてルセウムの家庭料理を振る舞われたりした。俺はアルコールが苦手だったが、その家で出された蜂蜜酒は甘くて美味しく、つい飲み過ぎてしまい、二日酔いに苦しむことになった。
ガルス翁に解毒の魔法を掛けてもらうとすぐに楽になった。うーむやはり魔法は現代文明とは違った便利さがあるな。彼が日本に行けば二日酔いの治療で大儲けできるだろう。いや、やはり駄目だな。製薬会社は彼の存在を許してはくれないだろうな。
俺はお礼としてガルス翁に俺の住んでいた世界の話を聞かせてやった。彼は熱心にメモを取り、勇者伝としてまとめるようだった。折角なので俺は以前から気になっていたゴブリン戦争の開戦理由を聞いてみた。彼は少し複雑そうな顔をしたが、正直に話してくれた。
「今回の戦はオークとの戦いに敗れ、疲弊した我らヒューマンを滅ぼさんとしたものでしょうが、その真意は勇者召喚を恐れての事でしょう。我らが勇者召喚に成功し、オークを滅ぼし、次は自分達の番ではないかと危惧したのではないかと見ています」
俺はその理由に愕然としてしまった。つまり俺が開戦理由なのか? なんだか俺は核兵器になったような気分になってしまった。現代で言えば核を開発して使われる前に占領してしまおうというような話だ。確か予防戦争とか言うんだったかな? こういうのを。ガルス翁は俺の気持ちを察して詳しく話してくれた。
「オーク戦争中に勇者召喚を試した話はしましたな。結果的には失敗してしまったのですが、恐らくゴブリンに加護を与えた神が警告したのでしょう。戦争を始めるのにはそれなりに準備がいりますからな、オーク戦争に参戦するつもりが、結局勇者召喚は成功せず、ヒューマンが大幅に領土を割譲する形で休戦しました。しかしゴブリンとしては動員を掛けた以上、今更取りやめにも出来ず、そのまま開戦したのでしょう。もっともそれが契機となり勇者召喚が成功してしまいました。ゴブリン王も勇者を恐れて無理をして奇襲を掛けたのでしょう」
……何というか、色々とかみ合わせが悪くてこうなってしまったのか……彼らとしてもこうなっては開戦の理由など意味がないと分かってはいるが、拳の振り下ろし先を求めているのかもしれないな。だが要塞攻略に成功すれば、和平への道が見えてくるな。
俺は最後の戦いになる予感を覚えつつ、余暇を過ごしていった。
●
いよいよ要塞に出発する日がやってきた。ロムレスとルセウム幹部、そして俺は要塞攻略の手順を決め、国境へと進軍した。帝国軍第一軍団とルセウム軍は、合計一万三千の軍勢となり決戦へと趣いたのだ。
俺が単騎で要塞に仕掛ける案もあったのだが、要塞にはまだ少なくとも五万以上のゴブリンがいると思われた。幾ら俺でも単騎では無理だろう。ヴァイスラン防衛の時のようなフルパワーなら可能性もあるが。それに俺一人に戦わせることに帝国軍もルセウム軍も納得しなかった。あくまでこれは彼らの戦いなのだ。部外者の俺だけに戦わせるような真似はできないのだ。彼らの誇りがそれを許さない。
進軍は早いとは言えず、俺はそわそわしてしまったがやむを得ない。数少ないとはいえライダーズが後方攪乱を行う可能性も否定できず、慎重に進軍は行われた。そして遂に要塞付近へと俺達は辿り着いた。要塞の少し前で野営し、日の出とともに進軍し、朝から攻勢をかけることになった。
要塞は山間の街道をふさぐ形で建設されており、万里の長城を思い起こさせた。まだ大砲が存在しない世界なので、攻城兵器は投石機やバリスタが中心だ。しかし現在のルセウム軍は攻城兵器を用意する時間はない。梯子だけは用意していたので、城壁を登って攻め落とすしかない。
そこで出番となるのが俺だ。俺は三国志の漫画に出てくるような攻城塔に昇らされていた。ゴブリン軍団が遺棄したものを急ごしらえだが修理してここまで持ってきたのだ。ロムレスは俺の強みをその射撃能力にあると評価し、ここから城壁上のバリスタや敵の魔法兵を狙撃するように依頼してきた。要は俺を固定砲台として使おうと言うのだ。
ろくよんの射程距離は長い。俺は敵のアウトレンジから一方的に攻撃ができるわけだ。ロムレスは性格には難があるが、やはり軍人いや将として優秀なのだろう。そしてライアは俺の横について、サポートしてくれる。俺が照準眼鏡を除いている間は視野が狭くなるからな。オペレーターとして補助してもらうのだ。ちなみに今はポンチョ姿だ。
なおこの世界にも遠眼鏡はあるが、俺が召喚した眼鏡の方が性能がいいので彼女に使わせている。ロムレスも欲しがったのでくれてやった。二四時間限定だがな。それでもロムレスはその性能に興奮して周囲を引かせていた。
前衛は帝国軍が盾を構えてゆっくりと前進した。ルセウム軍は軽装の者が多いので、まずは後衛で温存し、突破口を見出した時に突撃する手筈となっている。なおルセウム軍の指揮官はミロンだ。ミルグレーブ氏はヴァイスランで待機している。
彼は首長なので万が一死んでは政治的損失が大きすぎる。彼は最後まで俺とライアを案じ、必ず生きてこいと俺達に言った。弟のミロンには死んでこいと言っていたが。必ず俺達を生かしてこいと。もっともミロンもそのつもりらしく、些かも死を恐れてはいなかった。
攻撃軍はロムレスの指揮下に入っていた。帝国軍とルセウム軍が共同指揮を取る場合は必ず帝国軍指揮官が指揮を取ると決まっているそうだ。指揮系統の一本化が狙いらしい。そのおかげか、ロムレスの軍神の加護がルセウム軍にも波及し、能力が高まった。
なんと俺とライアにも適用されていたようだ。今の俺達は彼の指揮下にあるからな。とはいえ加護が重複するのは不思議な感じだ。計算式が不明なので、どの程度あがったかは不明だ。やはりステータスが見れないのが悔やまれる。
対する敵軍は要塞の前にゴブリン達が布陣していた。要塞自体はゴブリン側に対してのものなので、ルセウム側には銃眼のような防御のための細工が施されていない。そのため城壁からバリスタや弓兵、そしてシャーマン等の魔法兵が攻撃するしかできない。
その為、要塞前に布陣した敵兵を城壁上から援護するのが主目的なのだろう。こいつらを狙撃して黙らせるのが俺の仕事だ。六四式小銃の最大射程はたしか800m程だったはず。勿論これはそこまで弾が飛ぶというだけで、普通はその距離では狙撃は無理だ。
だがろくよんは俺の戦技によって産み出された魔法の武器と言える。同じく戦技によって強化された俺が使えば尋常でない距離からの狙撃も可能だろう。
そう考えているうちに要塞が近づいてきた。まだ相当距離があるが俺は照準眼鏡を覗き込み、城壁の投石機を狙った。だがイマイチ弱点というかどこを狙っていいのか分からなかった。俺がジャンプ台に使用したトレシェビトならロープを撃てばそれで使用不能になるが、彼らの使用しているのは小型のおおきなスプーンに石を乗せて、てこの原理かなにかで飛ばすタイプのものだ。
ひとまず適当に撃ってみたが、木製なので簡単に貫通しているようだが、破壊には至らない。撃ちまくっていればいずれ壊れるだろうが、時間と弾の無駄だ。仕方なく俺は操作しているゴブリンを狙撃することにした。
俺が投石機周りのゴブリンたちを狙撃し始めると、彼らは慌てて大楯を構えて防御を試みた。だがろくよんの貫通力の前では盾などものともしない。目くらましにはなる為無駄ではないが。
投石機は全部で四つあるため、一つに集中している訳にも行かない。俺は端から順に狙撃を続け、敵に被害を与えた。段々と部隊は要塞に近づいていき、投石機の射程入った。こうなると大忙しだ。敵の発射を許すわけには行かない為、ライアの指示で、発射されそうな投石機を優先して攻撃していく。幸いハンドルで巻くのに時間が掛かるタイプで、一度ハンドルから手を離すと位置からやり直しになるようだ。
「コータロー! 一番右端がもう撃ちそうだわ! 急いで!」
「分かった!」
俺は彼女の指示に従い、ひたすら撃ち続けた。単発では追いつかないので、短連射に切り替え撃ちまくっている。要塞に近づけば近づくほど、命中精度が上がるので楽になってきたが、新たな敵が出現した。
「シャーマンが出てきたわよ! あいつらを撃って!」
「了!」
魔法の射程に入ったか、ローブを纏ったゴブリンの一団が城壁上に並び始めた。手には杖を持っており、その先っぽが赤く光りはじめていた。ファイヤーボール的な奴だろう。奴らのサイズは通常のゴブリンと同じで的は小さいが、俺は連発で一気に薙ぎ払った!
ズドドドドドド! ろくよんが爆音を上げ、シャーマン達が次々と倒れていく。奴らは盾や建物の影に隠れてしまったが、あいつらの魔法は曲射ができないようで、撃つ時には姿をみせる必要がある。中には無理やり前に押し出されてしまった気の毒な者もいたが、戦いに情けは無用だ。殺らなければ、こちらが殺られる! 俺は非情になり切って撃ち続けた。
だが流石に一人で全てをカバーできず、遂に投石機の一機がドムスギア軍に向け発射した。密集隊形を取っている兵たちに直撃し、酷い被害が出ているようだが、後列の兵がすかさず穴を埋め、密集隊形を維持し続けた。俺はロムレスをちらりと見たが、一切動じず、馬上で腕を組んで戦いを見守っていた。今奴は赤い大きなトサカのついた兜を被っているので一目瞭然だった。
俺はドムスギア軍の冷徹な動きにある種の畏怖を感じたが、感傷的になっている暇はない。これ以上被害を出さない為にも、俺は城壁上の敵を撃ち続けた。
そして遂に互いの前衛同士が激突した。
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