第23話 勇者VS騎兵隊
俺達が敵本隊に切り込むと、ライダーズは隊形を変え始めた。何が起きるのかと困惑したが、どうも狙いを俺達に切り替えたようだ。既に敵の部隊は戦力を半減しつつあり、今の状態では帝国軍を倒すのは無理と判断したか。
俺達の攻撃を受けながら移動を続けるより、ここで俺達を仕留める気のようだ。やがて連中は俺達の周りをぐるぐる回転するようにして包囲した。
ライアは一旦馬の足を止め、敵の出方を伺った。俺は状況を整理した。……今このタイミングでヴァイスランへ敵が進軍しているかもしれない。帝国軍本隊は、ひとまず大丈夫だろう。ならば先に馬が元気なうちにライアだけでもヴァイスランに帰すべきではないだろうか?
こいつらだけなら俺一人で何とか出来るかもしれない。といっても優に千は超えている。二千はいないと思うが、俺一人で倒せるだろうか……いや迷っている暇はないな。
(常に士気旺盛にして、靭強不屈かつ勇猛果敢に行動せよ)
毎度おなじみ小野三曹の声が聞こえてきた。戦闘間隊員一般の心得だ。俺は顔を叩いて気合を入れ直し、馬から下りた。
「ライア! 君は囲みを突破してヴァイスランに戻れ! こいつらは俺一人で片付ける!」
「そんな! 幾らアナタでも無茶よ!」
「いいから! 勇者の強さをあいつらに見せてやる! 君はヴァイスランを守ってくれ!」
「……わかったわ! コータロー! 死んだら許さないわよ!」
彼女はそう言って、後方へ馬を走らせた。俺はろくよんを乱射し、彼女を援護した。彼女を追撃する部隊が出るかと思ったが、奴らは彼女を無視し、あくまで俺を狙うつもりだ。だが好都合だ、ここで敵部隊を殲滅する!
「来い! 騎兵など現代火器の前では無力だと思い知らせてやる!」
俺は包囲しながら走り続ける猪武者どもをろくよんで撃ちまくった。とにかく弾切れがひどいが、俺はゲームに出てくる特殊部隊の隊員のように、次々弾倉を取り替え撃ちまくった。だが奴らも黙って撃たれ続けるわけには行かず、槍を構えて突撃してきた。ランスチャージだ!
しかし、ろくよんを相手にするには相性の悪い戦術だ。俺が連射をするたびに、奴らは撃ち落されていった。その様は長篠合戦の武田の騎馬隊のようだ。勿論、正面からだけでなく、四方八方から攻め寄せてくるが、俺は回転しながら撃ちまくった。ときおり、弾を搔い潜って肉薄に成功するものもいるが、俺は冷静に回避し、背中にナマリ玉をプレゼントしてやった。
弓騎兵もいるが、ろくよんの方が射程距離は圧倒的に上だ。矢が届く距離に入る前に俺に撃たれてしまう。何とか射程に入り矢を放っても、ゴブリンの放つ矢など威力が低すぎ、俺には当たらなかった。あれは数を揃えてこそ威力を発揮する戦術だ。
とにかく、たった一人を数千の騎兵で取り囲んで攻撃というのはあまり効率の良い作戦とは言えない。騎兵の機動力がたいして生かせない。もっとも普通の人間であれば、数千どころか百人いれば事足りるだろうが。
ライダーズは攻撃を続けるものの、出血が増えるばかりだ。敵もそれを悟ったか、兵を引かせ始めた。撤退を決めたのか? と一瞬思ったが、やけに大きな猪に乗った十数名の一団が俺に向かって疾走を始めた。どうやら数をいくら止せても無駄と判断し、最精鋭のみで仕留めるようだ。敵のリーダー格らしき男の大声が戦場に響き渡った。
「ゴブリン将、ブエルである! サカキコータロー、貴様の首、俺が貰い受ける!」
なんと敵将自ら俺を仕留める気だ! 敵将は人一倍体が大きく、猪も立派だ! 側近たちもそれに次ぐ。奴らは直線的には動かず、蛇行して俺に接近を図った。猪の利点が死んでいるが、猪突はろくよんの格好の餌食だ。やはりゴブリンの上位層は賢い!
敵将ブエルが近づき、俺は着け剣の号令を掛け着剣した。だがあくまで保険だ。いくら蛇行して回避しても、槍である以上最後は近づかないといけない。そのタイミングでろくよんをお見舞いしてやる!
俺は弾を節約して短連射で迎撃したが、ブエルは見事な騎乗で巧みに銃撃を躱した。いよいよ槍が届く距離が近づいたが、その時、側近の一部が弓で援護射撃をしてきた。今までのような短弓ではなく、鎌倉武士が使っているような大弓だ! 俺は何とか回避するが、その隙をついてブエルが肉薄した。
「我が槍の早突きを受けて見よ!」
「クソ!」
俺はろくよんを盾にして受け止めるが弾き飛ばされてしまった! それを見て奴が渾身の突きを放ってきた!
「もらった!」
「ぐぐ!」
繰り出された槍を何とか避け、両手でつかんだ。お互いに力比べとなり、槍を引っ張りあった。だが奴は騎乗で踏ん張りが効かない。ここで騎乗の弱みが出た。俺は大地を踏みしめて思いっきり力を込めた!
「あーげ!!」
「馬鹿な! 俺ごと持ち上げるだと!」
俺は槍ごと奴を持ち上げ、そのまま地面へと叩きつけた! だが側近たちが将軍を助けようと一斉に矢を放ってきた。俺は回避を兼ねて、ブエルに圧し掛かった。叩きつけられたブエルは、相当なダメージを受けているはずだが、体が頑丈なのか、将としての意地か、短剣を抜いて、俺を刺そうとした。
俺は奴の手首を左手で受け止めると、今度は逆に俺が腰の銃剣を抜いて奴の心臓を刺した!
「ガハ!」
「敵将ブエル! 討ち取ったり!」
俺が勝鬨を上げると、側近たちの一部は逆上したか、突撃しようとしたが、副将らしき男が止めた。
「サカキコータロー! ブエル閣下の仇は必ずこの俺、ジルドルが取らせてもらうぞ! だが今回は引かせてもらう! その首洗って待っておれ!」
ジルドルと名乗ったゴブリンは、捨て台詞を吐くと、残存部隊をまとめて退却して行った。
「…………」
この時、今後を考えれば、ろくよんを連射して少しでも敵を減らしておくべきだったのかもしれないが、俺は黙って敵を見送った。念のため、腕時計で敵が逃げた方角を確認したが、北西部に向けて撤退しており、要塞へ帰還するようだった。ヴァイスランが目標なら真っ直ぐに北へ向かうはずだ。
俺はザウエルの死体に手を合わせた。自分が殺した相手にこんなことをするのは偽善なのかもしれないが、敵への敬意を忘れては、俺はただの殺人鬼になってしまうように思えたからだ。奴も軍人だ。ゴブリンの政治体制はよく知らないが、国の為に、同胞の為に戦ったのだろう。俺の立場と何一つ違わない。
あまり感傷に浸っている時間は無かった。ヴァイスランが、ライアが心配だ。俺は急いで北へ向け走り出した。
●
俺はひたすら街道を走っていた。始めのうちは『挑戦』が発動していたが、ライダーズとの戦いを終え、効果が切れてしまった。そのためスピードが下がり、なかなかヴァイスランへ到着しなかった。
段々と日が暮れて来てしまった。俺は木によじ登り、そこから眼鏡でヴァイスランの方角を見た。……大分遠いが、ヴァイスランと思われる都市が確認できた。戦闘が発生していれば、かがり火等でもっと明るく見えるのではないだろうか? 推測でしかないが、ヴァイスランでの戦闘は発生していないようだ。
俺は夜間での移動は危険と判断し、野営することにした。森の中へ入り、適当な場所で宿営用天幕と
缶飯はお湯でボイルしないと食べることが出来ないので、やはり背嚢に入っている飯盒に水筒の水を入れ、温めることにした。本当ならよくキャンプでやるように、かまどのような物を作りたいのだが、俺は作り方を知らない。訓練ではそんなこと教えてもらっていない。どうしたものか……
(旺盛な企図心をもって絶えず創意工夫せよ)
やはり戦闘間隊員一般の心得が聞こえてきた。作り方を知らなくても自分で考え創意工夫しろという事か。森は陸上自衛官のホームグラウンドと言える。ここで快適な生活を送れるぐらいにはならなければ! 俺はまず、オーソドックスに枯れ木や落ち葉を集めて火を起こした。百円ライターがあるので着火には困らなかった。背嚢に入れておいて良かったぜ。
そしてここからが問題だ。火の上に直接飯盒を乗せては火が消えてしまうのではないだろうか? よく漫画では木を二本立てて吊るしたりしているが、丁度よい木を見つけるのが大変だ。少し考え、俺は大きな石を空手チョップで真っ二つにした。常人ならこんなことは不可能だが、今の俺は人間凶器だ。空手狂の歌の主人公も真っ青だ。
そして火を挟むように二つの石を置き、その上に飯盒を置いた。これなら安定する。暫くするとお湯が沸いたので、飯盒の中に缶を入れた。三十分ほど待って飯盒から取り出す。
「あちち!」
缶が熱いので、新しい水筒を召喚して水で冷やした。ここで缶を開けるのに缶切りが必要なことに気づいた。俺は焦ったが、背嚢の中身を漁ると、十徳ナイフが出てきた。俺の私物だ。どうも何でも有りのような気がするが、俺が一度でも背嚢に入れたことがある物は召喚できるような仕組みらしい。まあいい。これも神のご加護だ。
俺は天幕に入り夕食を取った。宿営用天幕は定員六名のため一人で使うと大分広く使える。その分立てるのが大変だったが。
俺はシイタケ飯とウインナーの缶を開け、久しぶりの現代食を満喫した。訓練中は疲れ切っていて、こんな味の濃い缶詰は食えたもんじゃないと思っていたが、今食うと実に美味い。後でライアにも食わせてやろう。俺は満足したが、ふと背嚢にスナック菓子やカップラーメンを入れておけば今頃召喚できたのだろうかと思い立った。
この世界の食事に不満は無いが、やはり故郷の食べ物は恋しかった。何よりも母の手料理がだ。今頃、両親は仏壇に俺の食事を供えているのだろうか……
そう思うと目頭が熱くなるが、勇者がこんなことで泣くわけには行かない。俺は早々に寝袋に入り寝ることにした。寝てる最中に消えてしまうかもしれないが、ろくよんを抱いて寝た。突然の奇襲に備えてだ。
ろくよんから漂う、油の臭いを感じながら俺はいつしか寝てしまった。
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