第4話 戦技

 俺は目を擦り、涙の跡を消した。部屋を出ると、ユリアナと男二人が立っていた。


「……そのお姿、戦技スキルを発動されたのですね。安心しました。やはり貴方は勇者様なのでしょう……」

「戦技……とは?」

「その辺は儂から説明しましょう。さあ部屋にお戻りください」


 いかにも魔法使いと言った風体の老人……ガルス翁と呼ばれていたな。彼がそう言ったので、再び席についた。ろくよんは席の側に脚を立てて置いた。ガルス翁は俺の隣に座り、戦技についての解説を始めた。


「戦技とは……加護を与えられた者たちが会得する、特殊な力を言います。魔法と似ていますが、戦技は魔力ではなく、魂の力によって発動します。性質としては魔力と似ていて、使えば使うほど、減少していきますが、食事や睡眠を摂り、休息すれば回復していきます」


 その後もガルス翁が戦技について説明してくれた。まず、大きく二種類があり、受動型と能動型に別れるらしい……俺は聞きながら、またしてもゲームのようだと感じていた。パッシブスキルとアクティブスキルだな、ようは。


 受動型の戦技は、条件が整えば常時発動するものらしく、魂の力……呼びづらいので今後はSPソウルポイントと呼ぶことにするが、基本的にSPは消費しないらしい。効果としては、能力値を底上げするものが大半で、筋力を上げるとか魔力を上げるとかの効果がある。


 これに対して能動型の戦技は、SPを消費して武器を召喚したり、強力な技や魔法のような力を発動することができるようだ。俺の銃や迷彩服を召喚したのは能動型の戦技のようだ。しかし自分がどんな戦技を神から与えられているのか、どのように知ればよいのだろうか? 疑問に思った俺にガルス翁が教えてくれた。


「目を閉じて精神を集中してみてください。そうすれば、加護を与えた神の名と戦技を知ることが出来るでしょう」


 そういわれて、俺は目を閉じて念じてみた。すると不思議なことに、頭の中に言葉が浮かんできた。


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 <加護>

 異世界の神の加護


 <戦技>

『専守防衛』防衛戦争への参加時に全能力が上昇する。逆に侵略戦争に加担した場合、全能力が大幅に低下する。


『挑戦』挑め! 果敢に! 自分より強い敵に挑む際に全能力が上昇する。また戦闘状況が不利な場合、戦局の不利さに比例して全能力が上昇する。


『献身』尽くせ! 一途に! 弱者や戦闘意思の無い者を守り助ける時、全能力が上昇する。


『誠実』貫け! 誠を! 己を律して誠実に行動することで、全能力が上昇する。不実な行いをすると上昇分は打ち消され、全能力が下がる。 


『武器装具召喚』一度でも使用したことのある武器装具等を召喚できる。


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「……」


 俺は思わず黙り込んでしまった。戦技というからには、なんとかスラッシュとか、なんとか砲なんかの必殺技をイメージしていたのだが、『専守防衛』だと? 色々と批判のある、日本の防衛姿勢ではないか。内容を見る限り今の俺には有用なスキルではあるが……。


 そして、『挑戦』、『献身』、『誠実』とこれらは誇り高き陸上自衛官の心得だ。カッコイイ必殺技を期待したが、どれも熟語ばかりだった。だがどの戦技も全能力を上昇させるとある。地味だが強力な戦技なのは間違いない。


 唯一の能動型は武器装具召喚だ。銃や迷彩服を召喚した能力だろう。俺の攻撃方法は現状これだけのようだ。必殺技が無いのは不安だが、訓練や実戦を経験すれば、ゲームの様に新たに戦技を覚えたりするのだろうか? 俺はガルス翁に加護や戦技の内容を話し、質問してみた。


「フーム。今のお話を聞く限りでは、過去の勇者様と戦技の内容は似通っていますな。皆様、生前に使っていた武器を召喚する能力が大半で、後は受動型の戦技で能力を底上げし、活躍されたと聞きます」

「レベル――いや、経験を積めば、新しい戦技を覚えたりはするんでしょうか?」

「いや、そう言った事例は聞いたことがありませんな……しかし、能力を高めれば、その一撃は自ずと天を裂き、地を割るでしょう。あまり心配される必要はありませんぞ」


 残念そうな俺を察してか、ガルス翁がそう励ましてくれた。確かに、ゲームでも能力を強化する技や魔法というのは重宝するものだ。ひたすらバフを掛けて通常攻撃で殴り、敵に大ダメージを与えた時など思わず興奮したものだ。その後も話を続けた。


「しかし、戦技が五つもあるとは……さすが勇者様ですな」

「普通はいくつなんですか?」

「大抵授かる戦技は一つで、その多くは受動型ですな。私も魔法の神の加護を授かっておりますが、戦技は魔術師の真髄マジシャンズ・エッセンスといいましてな、魔力が上昇するのです。加護の強い者等は、受動型と能動型を一つずつ持っておりますな。そういった者は数少ないですが」


 ガルス翁の話を聞くと、俺の戦技の多さは異常のようだ。何しろ受動型だけで四つもあるからな。……しかしガルス翁の戦技の名前はカッコいいな。俺もそういうのが良かった。何故俺の戦技は熟語ばかりなのだ……。これではロボットシミュレーションゲーム、スーパーメカ大戦の精神コマンドだ。


 俺の内心の愚痴はともかく、ユリアナも光の神の加護を持っているらしい。彼女は戦技を二つ持つ、正真正銘のエリートだ。どうも皇族や貴族は加護を持っている者が多いようだ。正確には加護を受けるような者たちの一族が支配者として君臨しているようだった。


 この世界の貴族は実力主義らしい。もっとも加護など授からないのが基本であるから、加護が無いから追放されるとかそんなことは無いようだ。


 そういえば、神の名も分かると言っていたが、俺に加護を与えた神の名は不明だ。異世界の神の加護とあるが――これはこのエルシウス世界を基準にしているのだろうか? つまり異世界とは俺の世界……そして神――日本の神のことだろうか? 俺の家は至って普通の家だからな……特定の神様は信仰していないんだがな。


 祖父母の葬式には寺の坊主に読経してもらったし、初詣には神社に行き、クリスマスにはキリストの誕生日を祝う……まあそんなことを意識したことはないが。俺にとってクリスマスは新作のゲームを買って貰う日だ。信仰心など微塵もない。


 その後も戦技についての講義は続いた。



【用語解説】


 脚:64式小銃には二脚が付いているので地面に固定できる。89式も同様。

 専守防衛:我が国の防衛戦略。相手から武力による攻撃を受けた時にはじめて防衛力を行使する。

 誇り高き陸上自衛官の心得:文字通り陸上自衛官が守るべき心得。朝礼で唱和したりする。似たようなモノに、自衛官の心がまえ、自衛官の義務などがある。

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