寒天慈雨

七死の書庫。

第1話 《始まりの声》

XXXX年。X月X日。XX時XX分。



 __さん。僕を。どうか。



“救ってください。”





 電話から聞こえた声だったか。それとも後ろから聞こえた声だったか。手紙から聞こえた声だったか。何も覚えていないが彼は助けを求めた。涙ぐんでいたか。怒っていたか。囁いていたか。誰かもわからないこの声を愛しく思う。



「桐生さん?そんな考え込んでどうしたんです。あ、新人教育に呆れ始めました?だからやめとけって言ったんですよ。」


「そんなこと言ったって人手が足りてないんだ。」


 この世界にはRezというものが存在している。Rezは不定期に姿を現し、人間、動物、建物問わず滅ぼしていき姿を消す。Rezはそこまで言って人数が多い訳では無い。なのに国ひとつを滅ぼすほどの勢力。政府から危険視されたRezを滅ぼし、この世界を死守するため我々、核独戦略組織かくどくせんりゃくそしき。勢力を伸ばしてRezに対抗している。




「っ?!…」


 突如、目の前を青い炎が通り過ぎて行った。


「____危ないぞ璃優!!!!」


「あ、桐生班長いたんすねー。さーせんー」


「はぁ、そんなに急いでどうしたんだ。任務は入っていないだろう。」


 彼は璃優りゆう。彼は問題児新人の1人。Rezが姿を初めて表してからこの核独戦略組織は毎年試験を行い、成績を残したものを新入として迎え入れている。Rezが現れる場所は不規則で何が目的なのかも判明していないため、班ごとに別れて各拠点から現場に1番近い班が出動するという仕組みだ。そしてこのリーグ2の拠点の班長がこの俺。

 桐生きりゅう班長と呼ばれている。


「くそ薺が手合わせしようとか言ってきて訓練所まで遅い方が今日の昼飯奢るとか言われたんす。それなのにあいつテレポートできるからってずるしたんすよ!!!」


「昨日も同じようなことしてなかったか…?まぁ、元気なことはいいとする。すまないな時間を取らせて。これお詫びの2人分の昼飯代だ。いいもん食えよ」


 なずなは璃優の同期で1年目の新人。だが実力はそこらの3年目のやつよりたしか。努力と言うより恵まれた才能だった。薺の親は核独戦略組織のいわば幹部。お偉いさんで彼らも才能に恵まれた人らしい。


「えーあざす!薺に後で直接お礼言いに行くように言いますんで班長室行くと思います!!じゃ!!」


「は?ま、…はぁ、それなら俺は班長室に居ないといけないじゃないか…」


 大して予定もなかったから戻るか。





核独戦略組織には名前の通りが存在する。その核に忠実であり1番近いのが班長。班長は全てで4班。4人の班長の中でも核に近い順で順位が決められ班の強さもそれに伴うという噂がある。


「桐生さん。外に出る時は僕を連れてくださいとあれほど言ったでしょう。」


「お前が俺以外の人間と交流をもつ時間をやってあげてるんだろ。副班長って言っても護衛って訳じゃないんだ。お前にだって同期がいるだろ。」


「っ、貴方は自分が強いということを自負してください。いつRezのやつに狙われてもおかしくない立場なんです。それに他の班長は副班長と別に護衛をつけてるんですよ、!」


らん。俺はお前らを縛りたくないんだ。ただでさえRezに縛られて生活してここに入ることでさらに縛られる。俺が1番実感している。明日死ぬかもしれない仕事をしているんだ。わかってくれ。」


桐生さんは何も分かってない。わかってくれと言われるのは桐生さんの方だ。


「っ…」


すると礼儀正しい3回のノックが聞こえた。


「どうぞ。」


「失礼します桐生班長。」


「…」


誰が来たのかと思えば書類を持った薺だった。


「璃優が粗相をしたみたいで本当にすいませんでした。お昼代のお返しと父からの任務の書類です。」


「あぁ書類だけ貰っておく。それは俺からの慈悲だとでも思ってくれ。」


「ではありがたく。」


「それと1年の奴らに渡して欲しい書類がある。蘭。そこの書類とってくれ。」


「え、あはい。」



核独戦略組織は核に1番近いところから第1位の班、それに続いている。核独戦略組織に入れる条件は試験に合格すること。班長は全体を見たトータルの成績の上位4名がなれるもの。


ふるいをかけられて生き残ったのが班長だ。そんな班長が護衛もつけずにうろうろしている。


「…桐生さん。あなたは_____。」



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寒天慈雨 七死の書庫。 @nanasinosyoko

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