第46話 オリジナルカレーの第一歩

カレーショップの夢を語った夜から、唯は自分のオリジナルカレー作りに全力を注ぐようになった。「看板メニューとなるカレーを完成させたい」という思いが、彼女の心を動かしていた。


「これまで作ってきたカレーの中から、一番みんなが喜んでくれた要素を取り入れて、新しいカレーを作りたいな」と唯はみなみやおばあちゃんに相談した。


「そうだね。焼きリンゴの甘さや、レンコンのシャキシャキ感もすごく好評だったよね!」とみなみが言い、唯は「そうだね。それをもっと進化させて、みんながまた食べたいって思うカレーを作りたい」と笑顔を浮かべた。


試作を始めるために、唯は食堂のキッチンに立ち、これまで学んだスパイスの知識や調理法を思い出しながら手を動かした。焼きリンゴの甘さをベースに、カルダモンやクローブで香りを引き立て、ココナッツミルクを加えてまろやかさをプラス。


「これでどうかな?」と完成したカレーを試食してみると、優しい甘さとスパイスの深みがバランスよく混ざり合い、自分でも驚くほど満足のいく味に仕上がった。


しかし、唯はまだ何かが足りないように感じた。「もっと、私らしさを出したい。これまでの物語を詰め込むようなカレーにしたい」


その夜、唯はスパイスの旅で出会った人々のことを思い出していた。インドの市場で教わった大胆な香りの組み合わせ、スリランカの食堂で聞いた「カレーは心を温めるもの」という言葉、タイで学んだココナッツミルクの使い方――それらを思い返すと、カレーはただの料理ではなく「出会いの記憶」だと感じた。


「そうだ、このカレーに私が出会ったすべての人たちの思いを込めてみよう」


唯は翌日、再びキッチンに立ち、スパイスの分量を緻密に調整しながら、これまで学んだテクニックをすべて詰め込んだカレー作りを始めた。カルダモンで爽やかさを、クローブで深みを、ターメリックで鮮やかな色を引き出し、最後に自家製チャツネで甘みと酸味を加えた。


完成したカレーを食堂のみんなに振る舞うと、みなみが一口食べて目を輝かせた。「唯ちゃん、これすごくおいしい!優しいのにスパイスの香りがしっかりしてる!」


おばあちゃんも頷きながら、「唯ちゃん、これがあなたの物語を詰め込んだカレーなのね。心に残る味だわ」と微笑んだ。


その夜、唯は布団の中で「これが私のカレーだ」と心に確信を持っていた。


「このカレーで、私のお店を始めたい。このカレーが、もっとたくさんの人をつないでくれるはず」


唯のカレー作りは、新しい夢の扉を開けようとしていた。そしてその扉の向こうには、もっと大きなつながりと笑顔が待っていることを信じていた。


スパイスの香りに包まれた彼女の物語は、次なるステージへと進んでいくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る