第44話 新たな挑戦「スパイス教室」

スパイスの旅から戻り、唯のカレー作りはますます進化を遂げていた。子ども食堂での活動だけでなく、地域のイベントや出張カレーの依頼も増え、多くの人々にスパイスの魅力を伝える機会が広がっていた。


そんなある日、佐倉さんから再び連絡が入った。


「唯ちゃん、君がスパイスの旅で学んだことをもっと活かせるように、スパイス教室を開いてみないかい?」


唯はその提案に驚いた。「私が教室を開くなんて…そんな大それたこと、できるんでしょうか?」


「もちろんできるさ。君はすでにたくさんの人を笑顔にしてきたじゃないか。教室では、スパイスの基本を教えるだけでなく、みんなが自分だけのカレーを作れるようにサポートすればいい。それは君にしかできないことだよ」と佐倉さんは力強く言った。


唯はその言葉に背中を押され、「やってみます!」と決心した。


数週間後、「スパイス教室~自分だけのカレーを作ろう~」が子ども食堂で開催された。参加者は地域の人々や子どもたち、カレー好きの人々など様々だった。


唯は少し緊張しながらも、スパイスの瓶を並べ、教室をスタートした。


「今日は、スパイスの基本と、それを使ったカレー作りを一緒に楽しみましょう!スパイスはただの調味料じゃなくて、香りや味で料理を特別なものにしてくれます。そして、作る人の思いを込めることで、カレーはもっと素敵な料理になるんです」


唯が話し始めると、参加者たちは興味津々でスパイスの香りを嗅ぎながら耳を傾けた。


教室では、まずスパイスの基礎を学ぶセッションが行われた。クミン、ターメリック、コリアンダーなど、基本的なスパイスを使って香りを確認し、その役割を説明した。


「クミンはカレーのベースを作るスパイスです。炒めると香ばしさが出て、味に深みを加えます」と唯が説明すると、参加者の中から「こんなに香りが強いんですね!」という驚きの声が上がった。


次に、参加者たちが自分好みのスパイスブレンドを作るワークショップが行われた。「辛いカレーが好きな人はチリを少し多めに」「まろやかにしたい人はココナッツミルクを足してみましょう」とアドバイスをしながら、唯は一人ひとりを丁寧にサポートした。


いよいよ試食の時間。自分で作ったカレーを口に運んだ参加者たちは、一口ごとに驚きと感動を口にした。


「私が作ったのに、こんなにおいしいなんて!」「スパイスを自分で選ぶと、味が全然違いますね」と、満足そうな笑顔が広がった。


特に、ある高齢の女性が唯に話しかけてきた。「実は、昔はよく家族にカレーを作っていたの。でも、年を取るにつれて台所に立つのがしんどくなって…。今日久しぶりに作ったけど、またカレーを作りたくなったわ」


その言葉に唯は胸が熱くなり、「そのカレーをぜひ、またご家族に作ってあげてください」と答えた。


教室が終わったあと、みなみが唯に話しかけた。


「唯ちゃん、今日の教室、ほんとに楽しかった!私ももっとスパイスを使いこなせるようになりたいな」


唯は微笑みながら、「みなみちゃんなら、きっともっといろんなカレーを作れるよ。一緒に新しいカレーを考えようね」と答えた。


その夜、唯はスパイスの教室で感じた人々の笑顔を思い出しながら考えた。


「スパイスは、ただの料理の材料じゃない。それを使う人の思いを伝える道具なんだ。これからも、もっとたくさんの人にスパイスの魅力を伝えていきたい」


スパイス教室を通じて新たな挑戦を見つけた唯の物語は、さらに深みを増していく。彼女のカレーは、これからも多くの人々を笑顔にし、つながりを生む特別な一皿であり続けるだろう。

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