第41話 広がるカレーの輪

家族とのカレーを通じた再会から数日後、唯は心に新たな自信を抱いていた。自分が作るカレーが、家族との距離を縮めるきっかけになると知り、これからも「つながり」をテーマにカレー作りを続けたいと思ったのだ。


そんな中、佐倉さんから一通の連絡が入った。


「唯ちゃん、君のカレー作りの話を聞いた地元のイベント主催者が、君にぜひカレーを振る舞ってほしいと言っているよ。どうだい、挑戦してみない?」


唯は驚きながらも、「イベントでカレーを作るなんて、私にできるかな…」と不安を口にした。


しかし佐倉さんは優しく背中を押してくれた。「君がこれまでに学んだことや作ってきたカレーが、たくさんの人を笑顔にしてきただろう?その力を、もっと多くの人に届けるいい機会だと思うよ」


唯は少し考えた後、勇気を出して頷いた。「やってみます!」


イベント当日、唯はみなみや子ども食堂の仲間たちと共に、大鍋で特製カレーを作る準備を進めていた。


今回のカレーは「地元の味とスパイスを融合させた特別な一皿」。唯がこれまで学んできたことをすべて詰め込み、地元で採れた野菜や果物をたっぷり使ったカレーだ。


みなみは「レンコンをもっとシャキシャキに仕上げたい!」と笑いながら具材を切り、他の子どもたちも「私、サツマイモを混ぜる!」と楽しそうに作業をしていた。


大鍋から立ち上るスパイスの香りが会場を包み込むと、周囲に集まった人々が興味津々で足を止めた。


「なんだかいい匂いがするね」「どんなカレーなんだろう?」という声があちこちから聞こえ、唯は少し緊張しながらも、心を込めてカレーを仕上げた。


完成したカレーは、大鍋いっぱいの彩り豊かな一皿だった。サツマイモの甘さ、レンコンのシャキシャキ感、そしてスパイスの香りが見事に調和し、見るからに美味しそうな仕上がりだった。


試食の時間になると、次々に人々がカレーを口に運び、「これ、すごくおいしい!」「こんなに優しい味のカレーは初めて!」と歓声を上げた。


その中には、かつて唯がカレーを届けた農家の田島さんやレンコンを育てている夫婦の姿もあった。彼らは感激しながら「唯ちゃん、これが地元の味とスパイスの力だね。本当に素晴らしいよ」と褒めてくれた。


さらに、子どもたちも「このカレー、僕たちも作ったんだよ!」と誇らしげに話し、会場は笑顔で溢れた。


イベントが終わった後、唯は佐倉さんに感謝を伝えた。「こんな機会をいただけて、本当に嬉しかったです。私が作るカレーが、こんなにたくさんの人をつなげられるなんて思ってもみませんでした」


佐倉さんは微笑みながら言った。「唯ちゃん、君のカレーには人を笑顔にする力がある。それを広げていくことで、もっとたくさんの人がつながっていくと思うよ」


その夜、唯は布団の中で静かに思った。


「これからも、私のカレーを通じてもっとたくさんの人に笑顔を届けたい。次はどんなつながりが生まれるのだろう?」


スパイス、地元の味、そして心を込めた料理が広げる輪。それは、唯のカレー作りが新たなステージへと進むための扉を開くものだった。


唯の物語は、まだまだ続いていく。彼女のカレーはこれからも新しい笑顔を作り、温かいつながりを紡ぎ出していくだろう。

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