第40話 カレーでつなぐ家族
「思い出のカレー」を作った翌週、唯は子ども食堂でおばあちゃんと話していた。
「おばあちゃん、みんなの思い出がカレーになるのって、本当に素敵だと思います。でも、私にはまだ何か足りない気がしていて…」
唯の言葉に、おばあちゃんは静かに微笑みながら答えた。「唯ちゃん、あなたが作るカレーはたくさんの人の心をつないでいるわ。でも、あなた自身の心にもっと深く向き合ってみたらどうかしら」
唯はその言葉にハッとした。これまでカレーを通じて多くの人とつながってきたが、自分の家族との関係は心の中でずっと閉ざされたままだった。
その夜、唯はふと自分の両親のことを思い出した。忙しさに追われ、家族としての時間がほとんどなかった幼少期。それでも、母が作ってくれた焼きリンゴだけは心に残る優しい思い出だった。
「もう一度、家族と向き合いたい。でも、どうすればいいんだろう?」
唯はおばあちゃんに相談すると、彼女は穏やかに答えた。「唯ちゃん、家族と向き合うために、あなたが一番得意な方法で気持ちを伝えてみたらどうかしら?」
「…私が一番得意な方法…カレーですか?」
おばあちゃんは頷き、「あなたの心を込めたカレーなら、きっと家族にも届くわよ」と背中を押してくれた。
唯は決心し、久しぶりに両親に電話をかけた。緊張で声が震えそうになりながらも、「お母さん、お父さん、一緒にご飯を食べませんか?私がカレーを作るから」と伝えた。
しばらくの沈黙の後、母が答えた。「…唯が作るカレー?それなら食べてみたいわ」
父も「久しぶりに一緒に食べるのもいいな」と同意してくれた。
当日、唯はこれまで学んできたすべてを込めた特別なカレーを作ることにした。母が好きだった焼きリンゴ、父が好んでいたスパイシーな味わい、そして自分の思いをスパイスで丁寧に調整した。
調理中、唯の胸には不安と期待が入り混じっていた。「このカレーで、家族に何かを伝えられるだろうか」
夕方、久しぶりに両親が食堂にやってきた。少しぎこちない空気の中、唯が「これ、私が作ったカレーです」と差し出すと、母は「あら、焼きリンゴが入ってるのね」と微笑んだ。
父も「スパイスの香りがいいな」と興味を示し、二人は一口ずつカレーを口に運んだ。
食べ終えた後、母がぽつりと呟いた。「唯、こんなにおいしいカレーが作れるようになったのね。驚いたわ」
父も静かに頷きながら、「唯のカレー、本当にすごいな。お前がこんなに成長してるとは思わなかった」と言った。
その言葉に唯は胸が熱くなり、涙がこぼれそうになった。
「…私、ずっと家族のことを思ってた。でも、どうやって気持ちを伝えればいいかわからなくて。でも、このカレーなら、私の気持ちを伝えられると思ったんです」
母は唯の手をそっと握り、「その気持ち、ちゃんと伝わったわよ」と微笑んだ。
その夜、唯は布団の中で静かに思った。カレーはただの料理ではなく、自分の心を形にして誰かに伝えるものだと改めて感じた。そして、このカレーを通じて家族との絆を取り戻すことができたことに感謝していた。
「次はどんなカレーで、誰とつながろう?」そんなことを考えながら、唯は穏やかな気持ちで眠りについた。
カレーが紡いだ家族の物語。それは、唯の心に新しい希望を灯し、彼女のカレー作りをさらに輝かせるものとなったのだった。
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