第39話 思い出の味を分かち合う

子どもたちが作った「みんなのカレー」が大成功を収めた翌週、子ども食堂はこれまで以上に賑やかだった。カレー作りの楽しさが伝わり、子どもたちは「次はどんなカレーを作ろう?」と新しい挑戦に心を躍らせていた。


そんな中、唯はふと、これまで自分が大切にしてきた「思い出の味」について考えていた。焼きリンゴを使ったカレーが、自分の心を癒し、新たな一歩を踏み出すきっかけになったように、他の子どもたちにも自分だけの「思い出の味」があるのではないかと思ったのだ。


「みんなに、自分の思い出の味をカレーにしてもらったらどうだろう?」


そのアイデアをおばあちゃんに話すと、彼女は温かく頷き、「それは素敵ね。みんなが自分の過去や思い出を大切にして、それを料理にすることで新しい発見があるかもしれないわ」と賛成してくれた。


その日、唯は子どもたちに声をかけた。「みんな、それぞれに思い出の味ってある?それをカレーにしてみるのはどうかな?」


子どもたちは少し考え込んでいたが、やがて次々に手を挙げて話し始めた。


「僕はお母さんが作るミートボール!」「私は、おじいちゃんがくれた焼き芋かな」「チョコレートも入れてみたい!」


子どもたちの話を聞きながら、唯は彼らの記憶がキラキラと輝いているように感じた。


「じゃあ、それを全部カレーに取り入れてみよう!どんな味になるか楽しみだね」と唯が笑顔で言うと、子どもたちも目を輝かせて「やってみよう!」と応じた。


調理が始まると、食堂はいつも以上に活気づいた。ミートボールを手作りする子、焼き芋を細かく刻む子、カレーにチョコレートを加える子。それぞれの思い出がスパイスと混ざり合い、一つの大鍋に注がれていく。


唯は「チョコレートを入れるときは、甘さを調整するためにほんの少しずつね」とアドバイスしながら、子どもたちが自分の思い出を形にする瞬間を見守った。


調理が進むにつれて、鍋から立ち上る香りが食堂を包み込み、子どもたちは「これ、絶対においしいよ!」と期待に胸を膨らませていた。


完成した「思い出のカレー」は、一見すると普通のカレーのように見えたが、その一皿には子どもたちそれぞれの大切な記憶が詰まっていた。


「いただきます!」の声とともに、子どもたちは自分たちが作ったカレーを一口食べ、次々に笑顔を浮かべた。


「ミートボールがカレーに合う!」「焼き芋の甘さがすごくいい感じ!」「チョコレートの味、ちょうどいい!」


子どもたちが嬉しそうに感想を言い合う姿を見て、唯は胸がいっぱいになった。「みんなの思い出がこんな形になるなんて、本当に素敵だな」と心の中で思った。


その夜、帰り道でみなみが唯に話しかけた。


「唯ちゃん、思い出の味をカレーにするって、本当に面白かったね。自分の思い出が形になるって、なんだか特別な感じがする」


唯は頷きながら答えた。「そうだね。私も焼きリンゴカレーを作ったとき、自分の思い出が新しい形になって、それが嬉しかったんだ。みんなにもそれを感じてもらえてよかった」


おばあちゃんにその日の出来事を話すと、彼女は静かに微笑みながら言った。「唯ちゃん、料理にはその人の心が現れるの。だからこそ、みんなの思い出がカレーに溶け込んで、こんなに素敵な味になったのね」


その夜、唯は布団の中で考えていた。カレーはただの料理ではなく、人々の思い出や気持ちを形にするものだと改めて感じた。そして、これからも多くの人の「思い出の味」をカレーにして、一緒に楽しみたいと思った。


カレーに詰まった記憶と思い出。それは、唯のカレー作りに新たな意味と広がりを与え、彼女の物語をさらに輝かせていくのだった。

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