第38話 子どもたちの挑戦
「感謝のカレー」を届けた日から数日後、唯は子ども食堂での準備をしているとき、子どもたちから一つの提案を受けた。
「唯ちゃん、僕たちもカレーを作ってみたい!」元気いっぱいの声に、唯は驚きながらも嬉しそうに微笑んだ。「みんなが作るカレー、どんな味になるんだろう?楽しみだね!」
これまで唯やみなみが中心となってカレーを作ってきたが、子どもたち自身がカレー作りに挑戦したいと言い出したのは初めてだった。
「それなら、みんなで考えてみよう。どんなカレーにしたい?」唯が問いかけると、子どもたちは目を輝かせて様々なアイデアを出し始めた。
「チーズたっぷりのカレーがいい!」「僕はリンゴが入ってるカレーが好き!」「もっと辛いカレーも食べてみたい!」それぞれの好みが飛び交い、食堂は賑やかな空気に包まれた。
唯はみなみと相談し、子どもたちが一人ひとりアイデアを持ち寄って作る「みんなのカレー」をテーマにすることに決めた。具材やスパイス、トッピングを自由に選び、それを一つの大鍋にまとめることで、個性が溢れるカレーを作る計画だ。
当日、食堂には小さな調理台がいくつも並び、子どもたちはエプロンをつけてスタンバイしていた。唯が「みんな、それぞれ好きな具材を切ってみよう」と声をかけると、子どもたちは嬉しそうに野菜や果物、肉を手に取った。
「僕は玉ねぎを細かく切る!」「私はニンジンをハート型にしたい!」楽しそうに作業を進める子どもたちを見ながら、唯は「カレー作りって、本当にみんなを笑顔にするんだな」と感じていた。
次に、スパイスを選ぶ時間がやってきた。佐倉さんから借りてきたスパイスの瓶がテーブルに並び、子どもたちは興味津々で香りを確かめた。
「このスパイス、いい匂いがする!」「これ、カレーの香りだ!」と、クミンやターメリックを楽しそうに嗅いでいた。
唯が「じゃあ、みんなでスパイスを混ぜてみよう」と提案すると、子どもたちは自分の好みの量を慎重に計りながら混ぜていった。
調理が進むにつれ、大鍋からスパイスと具材の香りが立ち上り、食堂全体に広がった。みなみが「これ、絶対においしいよね!」と笑いながら鍋をかき混ぜ、子どもたちはワクワクした様子で仕上がりを待った。
完成したカレーは、具材もスパイスも子どもたちのアイデアが詰まった、まさに「みんなのカレー」だった。トッピングにはチーズやハート型のニンジン、細かく刻んだリンゴが彩りを加え、見た目も楽しい一皿に仕上がった。
試食の時間になると、子どもたちは自分たちが作ったカレーをスプーンですくい、一口食べるごとに歓声を上げた。
「おいしい!」「こんなカレー初めて!」「僕のリンゴ、ちゃんと甘くなってる!」それぞれが自分の工夫を楽しみながら、笑顔でカレーを味わっていた。
その様子を見ていた唯は、胸がいっぱいになるのを感じた。「みんなで作ったから、こんなに楽しいんだね」とみなみが言うと、唯は深く頷いた。
「そうだね。料理って、作る過程も楽しいし、それをみんなで食べるともっと特別になるんだよね」
その日の帰り道、子どもたちが口々に「またカレー作りたい!」「次はもっと辛いのに挑戦しよう!」と話すのを聞いて、唯はこれまで以上にカレー作りが子どもたちの心に響いていることを感じた。
おばあちゃんにその報告をすると、彼女は静かに微笑みながら「唯ちゃん、あなたが始めたカレー作りが、こんなにたくさんの人の心を動かしているのね。きっとこれからも、もっと素敵なつながりが生まれていくわ」と言った。
唯はその言葉に励まされながら、「次はどんなカレーを作ろうかな」と新たな挑戦に胸を膨らませていた。
カレーを通じて広がる笑顔の輪。それは、唯が描いてきた物語の中でも、特別に輝く一日となったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます