第36話 スパイスでつながる心
地元の味を取り入れたカレーが子ども食堂で大成功を収めてから数日後、唯は市場で買った特産品を使った次のカレー作りに取り組む計画を立てていた。しかし、その前に、唯はふと気づいたことがあった。
「地元の食材を使うなら、もっとその生産者さんたちにお話を聞いてみたいな。どんな思いで作っているのか知ったら、もっとカレーに気持ちを込められる気がする」
唯のその言葉に、おばあちゃんが頷いて言った。「それは素晴らしい考えね。食材を作る人たちの思いを知ることで、料理にも深みが出るものよ。きっとその思いが、食べる人たちにも伝わるわ」
その翌日、唯はみなみと一緒に市場を訪れ、特産品を扱う農家の人たちに話を聞くことにした。
最初に出会ったのは、甘いサツマイモを育てている高齢の農家の女性、田島さんだった。彼女は手に泥のついたサツマイモを持ちながら、笑顔で迎えてくれた。
「このサツマイモは、朝早くから畑で丁寧に育てたものなのよ。甘くするために、水やりのタイミングを工夫したり、土の栄養を調整したりしているの」
その話を聞きながら、唯はサツマイモへの深い愛情を感じた。「田島さんの思いが詰まったサツマイモだから、あんなに甘くておいしいんですね」と言うと、田島さんは嬉しそうに頷いた。
次に訪れたのは、シャキシャキしたレンコンを育てている若い夫婦だった。夫婦は子どもたちにもレンコンを楽しんで食べてほしいと願い、「レンコンを使った簡単な料理を普及させたい」と話していた。
「それならカレーに入れると、子どもたちも楽しんで食べられますよ!」と唯が提案すると、夫婦は目を輝かせて「それはいいアイデアだね」と喜んでくれた。
子ども食堂に戻った唯は、田島さんのサツマイモと夫婦のレンコンを使い、新しいカレーの試作を始めた。
今回のテーマは「スパイスでつなぐ心」。唯は食材の持つ魅力を最大限に引き出すために、佐倉さんに教わった技術を活かしてスパイスを調整した。サツマイモの甘さを引き立てるためにほんの少しのクローブを加え、レンコンのシャキシャキ感を損なわないように煮込む時間を短くした。
みなみも積極的に調理を手伝いながら、「農家の人たちがどんな思いで作ったかを知ると、食材にもっと感謝の気持ちが湧いてくるね」と話した。
完成したカレーは、まさに地元の味とスパイスが見事に調和した一品だった。試食したおばあちゃんは、「唯ちゃん、このカレーには田島さんや夫婦の思いがしっかり込められているわね」と感動した様子で言った。
その日、子どもたちに振る舞われた「スパイスでつなぐ心カレー」は大好評だった。「サツマイモが甘くておいしい!」「レンコンのシャキシャキが楽しい!」という声が飛び交い、食堂は笑顔で溢れた。
カレーを食べた子どもたちの中には「私もサツマイモを育ててみたい!」と言い出す子もいて、唯はその影響の大きさに驚きつつも嬉しさを感じた。
その夜、唯は布団の中で静かに思った。
「スパイスも食材も、人の思いが込められているからこそ、こんなに人をつなげる力を持つんだ。それを届けられる私も、もっと頑張らなきゃ」
唯は、これからもスパイスと地元の味を組み合わせたカレーを通じて、人々の心をつないでいきたいという新たな決意を胸に抱いた。
スパイスと食材が紡ぐ物語。それは、唯のカレー作りが目指す未来への一歩を照らしていたのだった。
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