第34話 新しい仲間

ワークショップが大成功に終わり、唯はスパイスを通じて誰かとつながることの楽しさを改めて感じていた。子ども食堂でも「次はこんなカレーを作ってみたい」「またスパイスの話を聞きたい」と、子どもたちや大人たちからのリクエストが絶えなかった。


そんな中、佐倉さんが唯に新たな提案をしてきた。「唯ちゃん、僕の知り合いに、料理の研究をしている大学生がいるんだ。その子もカレーとスパイスに興味を持っていてね。君に紹介したいと思っているんだよ」


唯はその話に驚きながらも、「大学生の人…ですか?私みたいな初心者と話が合うかな」と少し不安を口にした。


「大丈夫さ。その子もまだ学んでいる最中だし、君のカレー作りに興味を持ってくれているんだよ」と佐倉さんが優しく答えた。


数日後、「香りの旅路」で佐倉さんに紹介されたのは、大学で食品科学を学んでいるという穂香という女性だった。彼女はショートカットの髪に明るい笑顔が印象的で、最初からフレンドリーに唯に話しかけてきた。


「唯ちゃんだよね?佐倉さんから話は聞いてるよ!スパイスでこんなに面白いことをしている人がいるなんて感激しちゃった」


唯はその勢いに少し戸惑いながらも、「そんな大したことはしてないんです。でも、カレー作りが大好きで…」と話した。


「それで十分すごいよ!私なんて、大学でいろんな料理を勉強してるけど、カレーを深く探求したことはなくて。唯ちゃんの作るカレーをぜひ食べてみたいな」と穂香が言うと、唯は少し緊張しながらも「それなら、今度子ども食堂に来てみませんか?」と誘った。


数日後、穂香が子ども食堂を訪れると、唯とみなみ、そして子どもたちが賑やかにカレー作りをしているところだった。穂香はその様子を見て目を輝かせながら「ここ、すごく温かい場所だね」と呟いた。


その日のカレーは、唯が新しく考えた「トマトとココナッツのカレー」だった。佐倉さんに教わった南インドのスパイスの使い方をアレンジし、ココナッツミルクで優しい風味に仕上げたものだ。


穂香もカレー作りに参加しながら、「スパイスって奥が深いよね。少し入れるだけで全然味が変わるし、それを調整するのが楽しい」と話してくれた。


完成したカレーを食べると、穂香は感動した様子で言った。「これ、すごくおいしい!唯ちゃん、ちゃんとスパイスの特徴を活かしてるね」


その言葉に唯は少し照れながらも、「佐倉さんやおばあちゃんに教わったことを頑張って試してみただけです。でも、気に入ってもらえて嬉しいです」と答えた。


カレーを食べながら、穂香は自分が大学で研究していることを話してくれた。


「私、食品科学を勉強してるけど、最近は地域の食材を使った料理を研究してるんだ。唯ちゃんのカレーも、スパイスだけじゃなくて、その土地の味を取り入れるともっと面白くなるかもね」


その言葉に唯は目を輝かせ、「地域の味…それもカレーに使えるんですか?」と興味を示した。


「もちろん!例えば、地元で採れる野菜や特産品をスパイスと組み合わせることで、カレーがその土地の物語を持つようになるんだよ」と穂香が答えると、唯は新しい可能性に心を躍らせた。


その日、穂香は子どもたちともすぐに打ち解け、食堂はいつも以上に明るい雰囲気に包まれた。帰り際、穂香が唯に言った。


「唯ちゃん、これからもいろんなカレーを教えてほしいな。私も、地元の食材を使った新しいカレー作りに協力できたら嬉しい」


唯はその言葉に力強く頷き、「一緒に面白いカレーを作りましょう!」と答えた。


新しい仲間を得た唯は、スパイスとカレーの旅がさらに広がっていくのを感じた。穂香との出会いが、唯のカレー作りに新たな風を吹き込むきっかけになる予感がしたのだった。

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