第33話 スパイスを届ける日

唯がスパイスの旅を学び始めてから、カレー作りの魅力はますます広がりを見せていた。スパイスにはそれぞれの土地の文化や物語が宿り、それを知るたびに唯のカレー作りへの情熱は深まっていった。


ある日、佐倉さんが唯にこんな提案をした。


「唯ちゃん、次は君が学んだスパイスの魅力を、もっと多くの人に伝えてみないかい?例えば、スパイスを使った簡単な調味料や料理の作り方を教えるワークショップをやってみるとか」


唯は驚きながらも、「私が人に教えるなんて、まだまだ無理です」と慌てて答えた。


しかし佐倉さんは微笑みながら、「君はもう十分スパイスの魅力を知っているし、カレーを通じてたくさんの人を笑顔にしてきたじゃないか。それをシェアすることは、君にしかできない素晴らしいことだよ」と背中を押してくれた。


その夜、唯は子ども食堂でおばあちゃんやみなみに相談した。「私、佐倉さんからスパイスのワークショップをやってみないかって言われたんだけど…私にそんなことができるかな?」


みなみは即座に「唯ちゃんが教えてくれるなら、私も参加したい!」と声を上げた。おばあちゃんも「唯ちゃん、あなたが持っている知識や経験は、すでに十分素敵なものよ。それを誰かと分かち合うことが、さらに新しいつながりを生むのよ」と励ました。


唯はその言葉に勇気をもらい、ワークショップをやってみる決心をした。


ワークショップ当日、子ども食堂の一角が調理スペースに早変わりした。子どもたちや保護者が集まり、唯が用意したスパイスの瓶やカレーの試食材料を前に、興味津々の表情を浮かべていた。


「今日はみなさんと一緒に、スパイスの魅力についてお話ししたり、簡単なカレーソースを作ってみたりします!」唯は緊張しながらも、心を込めて挨拶をした。


まずはスパイスの基本を紹介した。クミンやターメリック、カルダモンを一つずつ嗅いでもらい、その特徴や効能を説明した。参加者の中から「こんな香りがするんだ!」「料理に使うだけじゃなくて、体にもいいんだね」という声が上がり、唯の説明に熱心に耳を傾けてくれる様子が伝わってきた。


次に、みんなでスパイスを使った簡単なカレーソースを作る工程に移った。唯が「スパイスは焦げないようにじっくり炒めて、香りを引き出すことがポイントです」と話しながら手本を見せると、子どもたちも真剣な表情で鍋をかき混ぜていた。


やがて完成したカレーソースを茹でた野菜やご飯にかけて試食が始まると、参加者たちから「おいしい!」「こんなに簡単にできるんだね!」という声が次々に上がった。


ワークショップが終わった後、みなみが「唯ちゃん、すごく分かりやすかったよ。私ももっとスパイスを使ってみたくなった!」と目を輝かせて言った。


他の参加者からも、「スパイスって難しそうだと思ってたけど、今日でイメージが変わった!」「家でもカレーを作ってみる!」という感想が寄せられ、唯は胸が熱くなった。


帰り道、おばあちゃんが唯にそっと声をかけた。「唯ちゃん、今日のワークショップ、素晴らしかったわね。あなたがスパイスを通じて誰かに何かを伝える姿、とても誇らしかったわ」


唯は照れくさそうに笑いながら、「最初は不安だったけど、みんなが喜んでくれて本当に嬉しかったです。これからもっとスパイスを学んで、たくさんの人にカレーの楽しさを伝えていきたいです」と答えた。


その夜、唯は布団の中で静かに思った。「スパイスはただの香りや味じゃない。人を笑顔にし、つながりを生む力があるんだ」と。そして、自分がその力を広げる役目を担っているのだと感じた。


唯のスパイスの旅は、今まさに新しい章を迎えていた。これからも多くの人にカレーとスパイスの魅力を届けながら、彼女の物語は続いていくのだった。

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