第32話 スパイスが紡ぐ物語
唯が「香りの旅路」でスパイスについて学び始めてから数週間が経った。彼女は日々の発見に胸を躍らせながら、スパイスの奥深さを体感していた。佐倉さんの店で教わったことを子ども食堂で試し、子どもたちやおばあちゃん、みなみに新しいカレーを振る舞うことが、唯の一番の楽しみになっていた。
ある日、佐倉さんが唯に声をかけた。「唯ちゃん、次の授業ではスパイスの背景にある文化や歴史を学んでみないかい?」
唯は驚きながらも興味津々で頷いた。「スパイスの背景…どんなことを学ぶんですか?」
「例えば、カレーに使われるスパイスがどうやってインドから世界中に広がっていったのかとかね。スパイスは単なる香りや味をつけるものじゃなくて、人々の暮らしや歴史と深く結びついているんだよ」
唯はその話に心を引かれ、「ぜひ教えてください!」と意欲的に答えた。
授業の日、佐倉さんは一枚の地図を広げながら、スパイスの「旅路」を説明してくれた。インドで生まれたスパイスが、古代の交易路を通じて中東やヨーロッパ、アジアに広がり、それぞれの地域で独自の料理文化を築いていったという話は、唯にとって目から鱗の内容だった。
「このカルダモンはね、昔は金よりも高価だったんだ。それほどまでに人々はスパイスに価値を見出していたんだよ」と佐倉さんが話すと、唯は「そんなに特別なものだったんですね…」と驚きを隠せなかった。
「そうなんだ。そして、スパイスはただの調味料じゃない。旅をする中で、それぞれの土地に新しい物語を紡いできたんだ。今、君が作っているカレーも、そんな物語の一部だと思うよ」
その言葉に、唯は胸が熱くなった。自分が作るカレーが、ただの料理ではなく、スパイスの長い旅の続きであり、自分の思いが込められた「物語」でもあると気づいたからだ。
その夜、唯は子ども食堂でみなみと一緒にスパイスの新しい使い方を試していた。唯が学んだ「スパイスの旅」の話をすると、みなみは目を輝かせながら言った。
「スパイスって、そんなにすごいものだったんだね。なんだか、私たちもその旅に参加しているみたい!」
「そうだね。私たちが作るカレーも、いつか誰かの物語になるかもしれないよ」と唯は微笑んだ。
その日は「スパイスの旅」をテーマにしたカレーを作ることにした。佐倉さんに教わったインドの伝統的なガラムマサラを使いながら、唯たちは子どもたちにカレーの背景を話しつつ調理を進めた。
完成したカレーは、深いスパイスの香りと風味が広がり、子どもたちは「こんなカレー初めて!」と驚きながら笑顔を浮かべた。
帰り道、唯はおばあちゃんに話した。「スパイスには物語があるんですね。私もカレーを作ることで、スパイスの旅を続けているみたいです」
おばあちゃんは頷きながら、「唯ちゃん、そうなのよ。料理には、その作り手の思いが詰まっている。あなたが作るカレーは、これからも誰かの物語になっていくわ」と語りかけた。
唯はその言葉を胸に刻み、これからもカレーを通じて新しい物語を紡いでいこうと心に誓った。
スパイスがつないだ過去と現在、そして未来。唯のカレーは、これからも多くの人の心に物語を届ける存在であり続けるだろう。
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