第29話 カレーがつなぐ輪

みなみが初めて作ったカレーは、子どもたちや食堂に集まった人々に笑顔を広げた。その日の満足感を胸に帰った唯は、カレーが持つ不思議な力を改めて感じていた。それは、味だけでなく、作り手の思いが人と人をつなぐ力だということだった。


次の子ども食堂の日、唯はおばあちゃんに相談した。「もっとたくさんの人にカレーを届けたいです。ここだけじゃなくて、外にも…」


おばあちゃんは唯の言葉に目を輝かせ、「それは素敵な考えね、唯ちゃん。食堂を飛び出して、カレーを通じて外の世界とつながるのも、きっと楽しいわよ」と背中を押してくれた。


唯は子どもたちやみなみと話し合い、カレーを通じて何かできることはないかとアイデアを出し合うことにした。すると、みなみが「学校のお友達にカレーをふるまうのはどうかな?」と提案した。


「学校の友達?」唯は少し驚きながらも興味を引かれた。


「うん、みんなお昼ご飯はお弁当なんだけど、たまには特別なランチを楽しめたらいいなって思ったの。それに、カレーならきっと喜んでもらえると思うんだ」とみなみが話すと、他の子どもたちも「それいいね!」と賛成の声を上げた。


唯はその意見に賛同し、学校に特別ランチとしてカレーを届ける計画を立てることになった。おばあちゃんも「じゃあ、大きな鍋を用意しないとね」と張り切り始めた。


調理の日、子ども食堂にはみなみや他の子どもたちが手伝いに集まり、大きな鍋でカレーを作ることになった。今回のカレーには、これまでのアイデアを組み合わせた特別なレシピを採用することになった。


「ポテトサラダのクリーミーさと、焼きリンゴの甘さを一緒に入れてみようよ!」とみなみが提案し、唯も「それに、みんなの思い出カレーのスパイスも少し加えてみたら、もっと特別な味になるよね」と意見を重ねた。


大鍋いっぱいのカレーが完成すると、その香りが子ども食堂中に広がり、手伝っていた子どもたちも「すごくおいしそう!」と歓声を上げた。


そして、その特製カレーを学校のランチタイムに届ける日がやってきた。クラスの友達や先生たちが興味津々でカレーを受け取る中、みなみは少し緊張しながらも「これ、私たちが作ったんだ」と誇らしげに説明していた。


一口食べた子どもたちが「おいしい!」「こんなランチ初めて!」と口々に感想を言い合う姿を見て、みなみや唯は胸がいっぱいになった。


ランチが終わったあと、みなみの友達が「みなみってすごいね。こんなにおいしいカレーを作れるなんて」と言ってくれた。それに対し、みなみは少し照れながらも「唯ちゃんやおばあちゃんに教えてもらったからだよ」と笑顔で答えた。


その帰り道、唯はおばあちゃんと話しながら歩いていた。「カレーがこんなふうにたくさんの人をつなぐなんて思ってもみなかったです。でも、これからもっといろんな人に届けたいと思いました」


おばあちゃんは「唯ちゃん、あなたがカレーに込めている優しさが、みんなの心に届いているのよ。それがカレーの一番大切な力なの」と微笑みながら答えた。


唯は、これからもカレーを通じて新しいつながりを作りたいと心に誓い、次はどんなカレーを作ろうかと思いを巡らせていた。


料理が人をつなぎ、笑顔を広げる――その可能性をさらに広げていく未来を感じながら、唯は新しい一歩を踏み出す準備をしていたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る