第27話 おばあちゃんの秘密レシピ
みなみとの「ポテトサラダカレー」や「野菜たっぷりカレー」が大成功を収めたあとも、唯の中で料理への興味はますます深まっていった。自分が作る料理が誰かの心を癒し、笑顔を引き出せることが何より嬉しかった。そんな中、おばあちゃんがある日、唯に特別な提案をした。
「唯ちゃん、今日は私の秘密のカレーレシピを教えてあげようか?」
「秘密のレシピ?」唯は驚きと興味で目を輝かせた。
「そうよ。私がこの食堂で一番最初に作った特別なカレーなの。それからずっと私の大切なレシピとして使ってきたものなのよ」とおばあちゃんは優しく微笑んだ。
唯は胸を高鳴らせながら、「教えてください!」と声を上げた。おばあちゃんのカレーが、どうしてこんなに心を温かくするのか。その秘密を知りたいと思った。
調理台に立ったおばあちゃんは、まず唯にスパイスの瓶を一つずつ見せながら、「これがこのカレーの命よ」と語り始めた。普段使うスパイスに加えて、おばあちゃんが特別に選んでいる3種類のスパイスがあった。
「この3つをバランスよく使うことで、カレーに奥深い味が生まれるの。クミン、カルダモン、それからほんの少しのシナモン。どれも強い香りだけど、使いすぎるとバランスが崩れるから慎重にね」
唯はおばあちゃんの動きを目を凝らして見つめながら、スパイスの量や順番をメモしていった。その工程には、おばあちゃんが長年培ってきた知恵と経験が詰まっていた。
「次にね、この隠し味が大事なのよ」とおばあちゃんが見せてくれたのは、小さな瓶に入った自家製のチャツネだった。甘みと酸味が絶妙に混ざり合ったそれを、カレーに加えると香りが一層豊かになった。
「これを作るのに少し手間がかかるけど、これが心を温めるカレーの味の秘密なの」とおばあちゃんは言い、唯もその香りに驚きの表情を浮かべた。
スパイスとチャツネを加え、具材をじっくり煮込んだカレーが完成した。試食の時間になり、唯が一口食べると、深みのある味わいとほんのりとした甘さが口の中に広がった。
「すごい…こんなに優しい味、どうしてできるんだろう」と唯は感動の声を漏らした。
おばあちゃんはその言葉に静かに頷きながら、「唯ちゃん、このカレーは私の経験だけじゃなくて、誰かを思う気持ちが作るのよ。食べる人のことを考えて、一番おいしいと思う味を心から作る。それが、このカレーの本当の秘密かもしれないわね」と語った。
その言葉に、唯はハッとした。自分がこれまで作ってきたカレーも、誰かを笑顔にしたい、喜んでもらいたいという気持ちが込められていたからこそ、おいしく感じられたのだと気づいた。
その日の帰り道、唯はおばあちゃんの言葉を反芻しながら歩いていた。「誰かを思う気持ちが、料理の味を作る」――その言葉が胸に深く刻まれた。
唯は、これからも料理を通じて、誰かを思い、笑顔を作ることを続けていきたいと改めて決意した。そして、おばあちゃんの秘密レシピを大切に守りながら、自分なりの新しい味を追求していこうと心に誓ったのだった。
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