第24話 みなみの秘密
「みんなの思い出カレー」が成功した翌日、唯は子ども食堂での出来事を思い返していた。子どもたちの笑顔、彼らの思い出が一皿に詰まった特別なカレー――それが唯にとってどれほど大切な時間だったかを改めて感じていた。
そんな中、ふとみなみの言葉が頭をよぎった。みなみが「ポテトサラダはお父さんの味」と話したとき、その言葉の裏に少し寂しそうな響きを感じていたからだ。普段は明るく振る舞っているみなみだが、何か心に抱えているものがあるのではないかと、唯は気になっていた。
次の子ども食堂の日、みなみが少し遅れてやってきた。いつもなら笑顔で「おはよう!」と言ってくれるのに、その日は少し元気がないように見えた。
「みなみちゃん、大丈夫?」唯がそっと声をかけると、みなみは一瞬戸惑ったように視線を落とした。
「うん…ちょっと疲れちゃっただけ」と、無理に笑おうとするみなみの様子に、唯はそれ以上踏み込めず「そっか…無理しないでね」とだけ伝えた。
調理が始まり、二人で野菜を切りながら、唯はどうやってみなみの気持ちを楽にさせられるか考えていた。自分もずっと心を閉ざしてきたからこそ、みなみが何か抱えているのではないかと気づいてしまったのだ。
しばらく作業が続いた後、みなみがふと口を開いた。
「唯ちゃんって、昔から料理できたの?」
唯はその質問に少し驚きながら首を振った。「ううん、全然できなかったよ。最初はおばあちゃんに教えてもらってばっかりだったし、自分でやるのが怖かった」
「怖かった?」みなみは唯の言葉に意外そうな顔をした。
「うん、自分がやると失敗しちゃうんじゃないかって思って。でも、おばあちゃんが『失敗してもいい』って言ってくれたから、少しずつできるようになったんだよ」
その言葉にみなみは黙り込んだ。そして、しばらくして小さな声で話し始めた。
「私も…ポテトサラダ、作ったことあるんだ。でも、お父さんみたいにおいしくできなくて。お父さんに褒めてもらいたかったのに、『これはまだまだだな』って言われて…それ以来、料理するのが嫌になっちゃった」
みなみの言葉に、唯は胸が痛くなった。みなみが抱えている寂しさや、認めてもらいたいという思いが、痛いほど伝わってきた。
「みなみちゃん、それでもまた作ろうって思ったのはすごいよ。私も、最初はたくさん失敗したけど、それでも少しずつできるようになったんだ。お父さんのポテトサラダとみなみちゃんのポテトサラダは、どっちも違ってどっちも素敵な味なんだよ」
唯の言葉に、みなみは目を丸くし、それから少しだけ微笑んだ。「唯ちゃんみたいに考えられたらいいのに。でも…またやってみようかな、ポテトサラダ」
その言葉に、唯は大きく頷いた。「次、一緒に作ってみようよ。ポテトサラダとカレーって、すごく合うから!」
その後の調理中、みなみの表情は少しずつ明るくなっていった。唯は、自分がカレーを通じてみなみの気持ちに寄り添えたことが嬉しかった。かつておばあちゃんが自分にしてくれたように、自分もみなみに何かを伝えられた気がしたのだ。
その夜、唯は布団の中で「みなみちゃんと一緒にポテトサラダカレーを作ったらどんな味になるだろう?」と考えていた。新しい挑戦を通じて、また誰かの心に触れられることが楽しみで仕方なかった。
唯は、自分のカレー作りが単なる料理以上の意味を持つものになりつつあることを、静かに実感していたのだった。
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