第23話 みんなの思い出カレー
「焼きリンゴカレー」が成功し、唯は自分の思い出がカレーという形で新たな意味を持つことを実感した。その経験が彼女に自信を与え、「誰かの心に寄り添うカレー」を作りたいという気持ちをさらに強くさせた。
そんな中、おばあちゃんが新しい提案をしてきた。「唯ちゃん、次はみんなの『思い出の味』を集めて、特別なカレーを作ってみない?」
「みんなの思い出…?」唯は驚きながら聞き返した。
おばあちゃんは微笑みながら説明した。「食堂に来ている子どもたちや手伝ってくれるみなみちゃんに、好きな味や思い出に残っている食べ物を聞いて、それを少しずつ取り入れたカレーを作るのよ。みんなの記憶が一皿に詰まったカレーなんて、素敵だと思わない?」
唯はそのアイデアに心を躍らせた。「それ、すごくいいと思います!いろんな人の思い出が詰まったカレーなんて、絶対に面白い味になりますよね!」
さっそく、唯とみなみは子どもたちに声をかけて「思い出の味」を聞いて回った。ある男の子は「お母さんが作ってくれるから揚げが大好き!」と言い、別の女の子は「私はミカンが好き。おじいちゃんがいつもくれるの」と答えた。
みなみも「私、ポテトサラダかな。小さい頃、お父さんが作ってくれて、それがすごくおいしかったんだ」と語った。唯はその言葉を聞きながら、みんなの思い出が温かくて特別なものだと感じた。
集めたアイデアをもとに、唯とみなみ、おばあちゃんの三人で「みんなの思い出カレー」を考案することになった。から揚げのスパイスをヒントにした風味、ミカンを使ったさっぱりとした甘さ、そしてポテトサラダをイメージしたクリーミーな仕上がりを目指すことにした。
調理が始まると、唯とみなみはそれぞれの役割を楽しそうにこなしながら、材料を切り、スパイスを混ぜていった。鍋から立ち上る香りは、これまで作ったどのカレーとも違い、様々な思い出が溶け合った独特のものだった。
完成したカレーを試食すると、スパイスの香ばしさ、ミカンのほのかな酸味、そしてポテトのクリーミーさが絶妙に混ざり合い、驚くほど複雑で豊かな味わいになっていた。
「これ、すごい…いろんな味がするのに、ちゃんとまとまってる!」唯は感動して声を上げた。
「みんなの思い出が一つになったカレーだね」とみなみも嬉しそうに微笑んだ。
その日の子ども食堂で、「みんなの思い出カレー」が振る舞われると、子どもたちから次々と驚きと喜びの声が上がった。「なんか、この味、懐かしい!」「私の好きなから揚げの味に似てる!」といった声が飛び交い、食堂は笑顔で溢れた。
帰り道、唯はおばあちゃんに「こんなカレーを作れたのは、みんなのおかげですね」と話した。
おばあちゃんは優しく頷きながら、「唯ちゃん、それが大切なことなのよ。料理は、誰かと一緒に作ることで特別なものになるの。あなたたちが集めた思い出が、こうして一つのカレーになったのは、とても素敵なことだわ」と答えた。
唯はその言葉に深く頷いた。そして、これからもカレーを通じて人々の思い出や気持ちをつなげる存在でありたいと強く感じた。
その夜、唯は新しい夢を思い描きながら布団に入った。いつかもっと多くの人とつながり、たくさんの「思い出の味」を届けられるようなカレーを作りたい――それが彼女の心を明るく照らしていた。
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