第20話 一緒に作るカレー
次の子ども食堂の日がやってきた。唯は少し早めに食堂に到着し、準備を始めていた。新しく来た女の子――名前は「みなみ」と言った――が本当に来てくれるのか、少しだけ不安も感じていたが、それよりも「一緒にカレーを作りたい」という期待が胸を膨らませていた。
ほどなくして、みなみがリュックを背負いながら食堂にやってきた。少し緊張した表情をしていたが、唯と目が合うと小さく手を振ってくれた。
「みなみちゃん、来てくれてありがとう。今日は一緒にカレーを作ろうね」と唯が声をかけると、みなみは恥ずかしそうに頷きながら「よろしくお願いします」と小さな声で返事をした。
唯はおばあちゃんと一緒に、みなみにカレー作りを教え始めた。まずは野菜の皮むきから。みなみは初めて包丁を握るのか、少しおっかなびっくりでジャガイモの皮を剥いていたが、唯が手本を見せながら教えると、少しずつコツをつかんでいった。
「唯ちゃん、うまいね…」とみなみがぽつりと呟くと、唯は「私も最初は全然できなかったよ。おばあちゃんが優しく教えてくれたから、少しずつできるようになったんだ」と答えた。その言葉に、みなみは少し安心したように微笑んだ。
次に、玉ねぎを切る作業が始まった。みなみが涙を浮かべながら「目が痛い!」と叫ぶと、唯は思わず笑ってしまい、「玉ねぎってそうなるよね。でも、これを切ると甘みが出ておいしくなるんだよ」と教えた。
二人で協力しながら野菜を切り終えると、鍋に油を入れ、野菜を炒める作業が始まった。みなみは、野菜がジュージューと音を立てて炒まる様子を楽しそうに見つめながら、「こんなに香りがいいんだね」と驚いていた。
「そうでしょ?ここからスパイスを入れると、もっといい香りがするよ」と唯が言いながら、スパイスの瓶を手渡した。「みなみちゃんの好きな香りがあれば、教えてね。一緒に混ぜてみよう」
みなみは慎重にスパイスの香りを確かめながら、一つずつ選んでいった。カレー粉にクミン、ほんの少しのシナモンを加えると、独特の深みのある香りが鍋から立ち上り、食堂全体に広がった。
「なんだか、私が作ってるって感じがする!」とみなみが嬉しそうに声を上げると、唯も一緒になって笑顔になった。
煮込みが終わり、二人の作ったカレーが完成した。試食の時間になると、おばあちゃんが「みなみちゃん、これがあなたと唯ちゃんの初めての共同作業カレーね。食べてみてごらんなさい」と声をかけてくれた。
みなみはスプーンを手に取り、緊張しながら一口食べた。そして、目を輝かせて「おいしい!これ、私が作ったんだよね?」と声を弾ませた。その姿を見た唯は、自分が初めてカレーを作ったときの感動を思い出し、胸がじんわりと温かくなった。
その日、みなみは子どもたちにも自分が作ったカレーを誇らしげにふるまい、笑顔が絶えなかった。唯もそばでその様子を見守りながら、自分が一歩前に進むきっかけを与えてもらったおばあちゃんの存在の大きさを改めて感じていた。
帰り道、みなみが「また一緒に作りたい!」と唯に言ってくれたとき、唯は深く頷いた。「うん、次も一緒にもっとおいしいカレーを作ろうね」
みなみと唯の間に、新しい絆が生まれた日だった。そして、唯は「誰かと一緒に作るカレーが、こんなにも心を温かくしてくれる」ということを改めて実感したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます