第19話 新しい仲間

唯が作るカレーが人を笑顔にする喜びを知ってから、子ども食堂での時間がますます特別なものになっていった。子どもたちとの交流が増え、少しずつ自分の存在を肯定できるようになってきた唯は、おばあちゃんと一緒にカレーを作ることで毎回新しい発見を楽しんでいた。


ある日、食堂にひとりの女の子が新しくやってきた。小学5年生くらいのその子は、髪を短く切りそろえ、大きなリュックを背負っていた。少し俯き加減で、誰とも目を合わせないまま席に座る姿は、かつての唯のようだった。


おばあちゃんが優しく声をかけた。「いらっしゃい。今日はゆっくりしていってね。おいしいカレーを用意してあるから、遠慮しないで食べてね」


女の子は小さく頷くだけで、何も言葉を発しなかった。その様子に唯は自分を重ね、なんとかその子が安心できるようにしたいと思った。


調理が終わり、配膳が始まると、唯はおばあちゃんに相談して、その女の子のカレーを自分で運ぶことにした。お皿を持って近づくと、彼女の緊張した顔がさらに強張るのが分かった。


「これ、私たちが作ったカレーだよ。食べてみてね」と唯がそっと話しかけると、女の子は少し戸惑いながら唯の顔を見上げた。そして、小さな声で「ありがとう」と言ってくれた。


その一言に、唯の心はじんわりと温かくなった。以前の自分も、最初におばあちゃんのカレーを食べたときは、こんなふうに緊張していたけれど、カレーの味が少しずつ心をほぐしてくれたことを思い出した。


しばらくすると、女の子がスプーンを持ち上げ、一口カレーを食べた。そして、驚いたように目を丸くし、思わず「おいしい」と小さな声で呟いた。その言葉を聞いて、唯は自然と微笑みがこぼれた。


食事が終わるころ、女の子は少しだけ表情を柔らかくして唯に話しかけてきた。「これ、本当においしかった…」


唯はその言葉に嬉しさを感じながら、「よかった。これ、私も手伝って作ったんだよ」と話した。女の子は驚いたように唯を見つめ、「すごいね。私、料理とか全然できない…」と小さくつぶやいた。


「私も、最初は何もできなかったよ。でも、おばあちゃんが教えてくれて、少しずつできるようになったんだ。今度、一緒にやってみる?」と唯が提案すると、女の子は少し戸惑いながらも、「…うん」と小さく頷いた。


その日の帰り道、唯はおばあちゃんにその話をした。「新しい女の子、今度一緒にカレーを作りたいって言ってくれたんです。私、なんだかすごく嬉しかったです」


おばあちゃんは優しく微笑みながら、「唯ちゃん、あなたが作るカレーには、誰かの心をほぐしてくれる力があるのね。それは、唯ちゃんが今まで経験してきたことが、ちゃんと誰かの力になっているからだと思うわ」と言った。


その言葉に、唯は胸がいっぱいになった。自分の過去の痛みや孤独が、今こうして誰かの助けになるなんて想像もしていなかったからだ。


次の子ども食堂の日、唯は新しい女の子と一緒にカレーを作ることを楽しみにしていた。自分が教えられたように、今度は自分が誰かに教える番だと考えると、少し緊張しながらも、わくわくした気持ちがこみ上げてきた。


唯は、この新しいつながりが、また一つの絆となることを感じながら、静かに歩みを進めていった。

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