第18話 カレーでつながる絆
子どもたちが笑顔でカレーを食べる姿を見て以来、唯は自分の中に新しい感情が芽生えていることを感じていた。それは、「もっと多くの人にカレーを届けたい」という思いだった。今まで孤独に閉じこもっていた自分が、カレー作りを通じて他者とつながる喜びを感じられるようになっていた。
そんな中、子ども食堂に新しい顔ぶれが現れた。一人は小学4年生くらいの男の子で、もう一人はその妹らしい幼い女の子だった。二人は少し緊張した様子で、他の子どもたちの輪に加わらず、端の方でおとなしく座っていた。
おばあちゃんがそっと彼らに声をかけた。「こんにちは。今日はゆっくりしていってね。カレーもたくさん用意してあるから、好きなだけ食べてね」
唯はそのやり取りを静かに見守りながら、二人の姿がかつての自分と重なるように感じた。自分も最初に子ども食堂に来たときは、緊張して誰とも話せず、おばあちゃんの言葉に少しずつ救われたことを思い出した。
食堂の準備が整い、カレーが配られると、男の子と女の子も少しずつスプーンを手に取り、カレーを食べ始めた。最初は無表情だった二人の顔が、一口食べるごとに少しずつほころんでいくのが唯には分かった。
「おいしい?」唯は勇気を出して、そっと男の子に話しかけた。自分から話しかけるのは久しぶりのことだったので、少し緊張して声が小さくなってしまった。
男の子は一瞬驚いたように唯を見上げたが、小さくうなずき、「うん、おいしい」と答えた。唯はその言葉にほっとし、心の中に小さな温かさが広がるのを感じた。
「このカレーね、私も手伝って作ったんだよ」と、少し照れながら唯が言うと、男の子の目が丸くなった。「本当に?すごいね!」と嬉しそうに言ってくれた。
そのやり取りを見ていた女の子も、小さな声で「お姉ちゃん、すごい…」とつぶやいた。その声に唯は驚きながらも嬉しくなり、自然と笑顔になった。
その後、二人は少しずつ緊張がほぐれたのか、他の子どもたちとも話し始めた。唯はその様子を見守りながら、自分が作ったカレーが、また誰かの心を温めることができたのだと感じ、心がじんわりと満たされていくのを感じた。
帰り道、唯はおばあちゃんに今日の出来事を話した。「あの二人、最初はすごく緊張してたけど、カレーを食べて少し笑顔になってくれました。私、すごく嬉しかったです」
おばあちゃんは優しく頷き、「唯ちゃん、カレーにはね、人の心をつなぐ力があるのよ。あなたが作ったカレーが、二人を笑顔にして、少しでも安心させてあげられたのね。それって、とても素敵なことだと思うわ」と言ってくれた。
唯はその言葉に胸が温かくなるのを感じた。カレー作りを通じて、ただ料理を作るだけではなく、人と人をつなぐ役割を担えることに気づいたのだ。
「私、これからもカレーを作りたいです。もっといろんな人に、笑顔になってもらえるように…」唯は静かにそう決意した。
その夜、唯は布団の中で、自分がカレー作りを始めた頃のことを思い出していた。最初はただ、おばあちゃんに支えられてカレーを作るのが楽しいだけだったが、今では自分のカレーで誰かを幸せにできるという目標ができた。これが、自分が前に進むための力になっていることを感じながら、唯は穏やかな気持ちで眠りについたのだった。
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