第16話 初めての挑戦
唯は「誰かのためにカレーを作りたい」という気持ちが、心の中で少しずつ大きくなっていくのを感じていた。自分が作るカレーが誰かを笑顔にするかもしれないという考えが、今まで感じたことのない希望を彼女に与えてくれた。
そんなある日、おばあちゃんが唯にとって驚きの提案をした。「唯ちゃん、今度の子ども食堂の日に、唯ちゃんのカレーをみんなに出してみない?」
唯はその言葉に驚き、すぐに不安が胸をよぎった。「私のカレーが…本当に大丈夫かな。みんなに食べてもらえるようなものじゃないかも…」
おばあちゃんは、そんな唯の不安を優しく受け止めながら、言葉をかけた。「大丈夫よ。唯ちゃんが心を込めて作ったカレーなら、きっとみんなに喜んでもらえるわ。それに、失敗してもいいのよ。それも大切な経験だからね」
おばあちゃんの言葉に少し安心し、唯は勇気を振り絞ってその提案を受け入れることにした。自分が心を込めて作るカレーが、どんな形であれ、誰かのもとに届くことができるなら、それは唯にとって大きな一歩だった。
カレーを作る日、唯はおばあちゃんと一緒に早めに食堂に到着し、材料を一つ一つ丁寧に準備していった。緊張で手が少し震えたが、おばあちゃんがそばにいてくれることで、彼女の心は少しずつ落ち着いていった。いつものようにスパイスの香りが漂い、野菜を切る音が響く中で、唯は「自分にもできる」と信じる気持ちを心に込めて作業を続けた。
煮込む段階に入ると、唯は味の調整を慎重に行った。甘みを少し強くしつつ、後からピリッと辛みが来るようにと、自分が感じる「おいしい」を形にするようにスパイスを加えた。このカレーが、少しでもみんなに喜んでもらえるようにと願いながら、心を込めて仕上げていった。
やがて、子どもたちが食堂に集まり始め、唯の作ったカレーがみんなの前に運ばれた。唯はドキドキしながら、遠くから子どもたちの反応を見守った。緊張と期待で胸がいっぱいだった。
そして、一人の男の子がスプーンを手に取り、カレーを口に運んだ。唯はその瞬間、男の子の顔がほころんで、目を輝かせているのを見て、胸が熱くなった。
「おいしい!」とその男の子が大きな声で言ったのを皮切りに、他の子どもたちも笑顔を浮かべながらカレーを食べ始めた。唯はその光景を見つめながら、自分のカレーが本当に誰かを喜ばせることができたのだと、実感することができた。
おばあちゃんが唯のそばに来て、そっと肩に手を置いて言った。「唯ちゃん、素晴らしいわね。みんなに喜んでもらえるって、こんなに素敵なことなのよ」
唯は、言葉にできないほどの喜びで胸がいっぱいになった。自分の作ったカレーが誰かを幸せにすることができた、その実感が彼女の心に深く根を張った。
その帰り道、唯はこれからももっと上手にカレーを作り、たくさんの人を喜ばせたいと強く思った。おばあちゃんと過ごした時間、教えてもらったこと、そして何より、自分を信じることの大切さが、彼女にとってかけがえのないものになっていた。
唯は小さな一歩を踏み出した。そしてその一歩が、彼女をもっと遠くへと導く、大きな未来への第一歩であることを、静かに感じていたのだった。
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