第15話 カレーの味を届けたい気持ち
唯は、自分のためにカレーを作った経験が心の中に新たな自信を芽生えさせてくれた。その喜びと達成感をおばあちゃんにも伝えたくて、次の子ども食堂の日を心待ちにしていた。
食堂に着くと、おばあちゃんがいつもの温かな笑顔で迎えてくれた。唯は少し緊張しながら、自分一人でカレーを作ったことを報告した。
「本当に?唯ちゃん、それはすごいわね!」おばあちゃんは目を輝かせて喜んでくれた。「どんな味になったのかしら?」
唯は、スパイスの分量や香りの加減を自分なりに工夫したこと、そして最後に自分の好みで少し甘みを加えたことを話した。おばあちゃんはその話を微笑みながら聞いてくれて、「唯ちゃんらしいカレーが出来上がったのね」と優しく言ってくれた。
その言葉に、唯は胸が温かく満たされるのを感じた。そして、ふと心の中に新しい思いが浮かび上がってきた。自分が作ったカレーを、もっと誰かに食べてもらいたい。誰かに喜んでもらえたら、自分の作るカレーがもっと特別なものになる気がした。
「…私、いつかおばあちゃんのように、他の人にもカレーを作ってあげたいです」
唯は、今まで心の中で曖昧だった気持ちを初めて口にした。おばあちゃんのように、カレーを通して誰かの心を温めたいという願いが、自分の中にあることに気づいたのだ。
おばあちゃんはその言葉を聞いて、静かに頷いた。「唯ちゃん、それは素敵な夢ね。カレーって、ただの食べ物じゃないの。作る人の思いが詰まっているから、食べる人の心にも響くのよ」
その言葉が唯の心に深く染み渡った。おばあちゃんがこれまで子ども食堂でカレーを作り続けてきたのは、ただ子どもたちに食べ物を提供するためだけではなく、温かい気持ちを伝えたいという思いがあったからだと気づいたのだった。
「唯ちゃん、もし本当に誰かにカレーを作りたいと思ったら、ここでお手伝いをしてくれると嬉しいわ。いつか、唯ちゃんのカレーを子どもたちに食べてもらう日が来るかもしれないものね」
唯はその提案に胸が高鳴った。自分の作ったカレーを他の人に食べてもらえるかもしれない――それは今まで考えもしなかった希望だった。これまで、自分には価値がないと思い込んできた彼女にとって、自分が何かを「届ける」存在になれるかもしれないというのは、信じられないような思いだった。
その日から、唯はおばあちゃんと共にカレーを作る手伝いに、さらに一生懸命取り組むようになった。スパイスの選び方や野菜の切り方、煮込み具合などを、おばあちゃんに教わりながら、丁寧に一つ一つ学んでいった。カレーを作る度に、誰かの笑顔が浮かぶようになり、自分の手から温かさが伝わることを感じ始めていた。
次第に、唯の中で「自分にも何かを与えられる力があるのかもしれない」という確かな自信が育っていった。まだ小さな芽のようなものだったが、彼女はそれを大切に育てたいと思った。
カレーを通じて誰かを喜ばせる――それは彼女の新しい夢となり、これからもおばあちゃんと共に歩んでいく中で、その夢を叶えたいと強く願うようになった。
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