第11話 心の壁を崩す勇気

唯は、おばあちゃんの言葉に背中を押されるようにして、少しずつ心を開こうと決めたものの、その決意は思った以上に難しいものだった。子ども食堂でのお手伝いは、彼女にとって少しずつ日常の一部になりつつあったが、施設での生活や幻聴との戦いは、彼女の心に重くのしかかり続けていた。


ある日、唯は子ども食堂でのカレー作りが一段落したとき、おばあちゃんに少しずつ自分の内面を打ち明けることにした。これまでずっと抑えてきた不安や、孤独感、そして幻聴の存在について、初めて口にする勇気が湧いてきたのだ。


「おばあちゃん…」唯は少し震えた声で話し始めた。「私、たまに…頭の中で、誰かが私にささやいてくるんです。いつも否定的なことばかりで、私がここにいる意味なんてないって…」


唯がその言葉を口にした瞬間、胸が重く痛んだ。自分の中にある暗闇を他人に話すことは、これまでずっと避けてきたことだった。しかし、どうしてもおばあちゃんに知ってほしかった。彼女がどれだけ孤独で、助けを求めているのかを。


おばあちゃんは静かに唯の話を聞いていた。そして、唯の手をそっと握り、温かい目で彼女を見つめて言った。「唯ちゃん、それはきっと、あなたが今までどれだけつらい思いをしてきたかが、心の中で形になっているんだと思うの。でもね、そんなときこそ、自分に優しくしてあげてほしいのよ」


唯は涙がこぼれそうになりながら、おばあちゃんの言葉に耳を傾けた。誰かに自分を受け入れてもらえる感覚が、彼女にとっては初めてのことだった。おばあちゃんは、自分を否定することなく、ただありのままの彼女を見つめてくれていた。


「唯ちゃん、辛い時は、ここに来て話してごらん。私はいつでも、唯ちゃんの話を聞く準備ができているわ。そして、ここはあなたの居場所だから、何も遠慮しなくていいのよ」


その言葉が、唯の心に染み渡った。今までどれだけ一人で孤独を抱え、心の中で苦しんできたか。それをおばあちゃんは何も言わずに受け入れてくれる。それが彼女にとってどれほど救いだったかは、言葉では表せなかった。


おばあちゃんはさらに、「唯ちゃん、私も若い頃にはたくさんのことを抱え込んで、辛かった時があったの。でも、誰かがそばにいるだけで、人は少しずつでも楽になれるものよ」と続けた。その言葉に、唯は自分の苦しみも少しずつ和らいでいくかもしれないと感じた。


唯はその日、初めて自分の心に向き合う決意を固めた。幻聴が聞こえてくる日も、おばあちゃんが言ってくれた言葉を思い出し、自分に優しくしてみることを試みることにしたのだ。


その帰り道、唯は自分が一人ではないこと、そしてどんなに苦しい時でもおばあちゃんが待ってくれていることに気づき、心の中に小さな光が灯るのを感じた。

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