第7話 幻聴と向き合う
唯は食堂での時間が少しずつ楽しく感じられるようになっていた。しかし、家に戻るとまた冷たい孤独が襲ってきた。部屋に入ると、静寂の中で幻聴がささやき始める。「おばあちゃんも、ただの親切ごっこよ」「誰もお前なんかいらない」「そのカレーだって、気まぐれなだけなんだ」と、冷たい声が彼女の心に突き刺さる。
唯は布団に顔を埋め、必死に耳をふさいだ。心の中でおばあちゃんの温かい笑顔や、手伝いを褒めてくれたあの日の記憶を思い出そうとしたが、幻聴の声がそれをかき消そうとする。
「おばあちゃんは、本当に私のことを大切に思ってくれているのかな…」唯は、疑いの気持ちが胸に広がるのを感じた。自分がここにいても、誰かに必要とされているとは思えない。そんな感情が再び心を閉ざそうとする。
翌日、唯は子ども食堂に行くかどうか悩んでいた。幻聴の声が頭の中で否定的な言葉を繰り返し、足が重く感じられた。それでも、ふとおばあちゃんの「待ってるよ」という優しい声が心に浮かび、唯はゆっくりと歩き出した。
食堂に着くと、おばあちゃんは変わらずに笑顔で迎えてくれた。「いらっしゃい、唯ちゃん。今日も来てくれてありがとうね」と、その言葉が唯の心に染み渡るようだった。
唯はカウンターの向こうでお手伝いを始めたが、今日は心の中で葛藤が続いていた。幻聴の声が彼女を苦しめ、おばあちゃんの温かさを素直に受け取ることができない自分が情けなく思えた。
そんな唯の様子に気づいたおばあちゃんが、そっと声をかけた。「唯ちゃん、今日は何か悩んでいるのかしら?」
唯はしばらく沈黙していたが、ついに勇気を出して「…おばあちゃん、本当に私のこと…必要としてくれてるの?」とつぶやいた。その言葉には、唯の心の深い不安が込められていた。
おばあちゃんは驚くことなく、穏やかな目で唯を見つめて言った。「もちろんよ、唯ちゃん。唯ちゃんが来てくれることで、私はとても嬉しいの。それに、あなたがいてくれると、私も力が湧いてくるのよ」
唯はその言葉を聞きながら、胸の奥で温かいものが広がるのを感じた。幻聴の冷たい声がまだ頭の片隅で囁いていたが、おばあちゃんの言葉がその声を少しずつ押しのけるようだった。
「唯ちゃん、私たちは一人じゃないわよ。誰かに支えられ、支え合って生きていくんだから。辛い時も、誰かがそばにいると分かるだけで、少しは楽になるのよ」
その言葉に、唯は小さくうなずいた。おばあちゃんの存在が、彼女にとって確かな支えになっていると感じた。そして、自分がここにいてもいいのだという気持ちが少しだけ芽生えたのだった。
帰り道、唯は幻聴の声が弱まっていることに気づいた。完全に消えたわけではないが、おばあちゃんの温かい言葉が心の中にしっかりと残っていることで、その声に負けない自分がいるように感じられた。
唯はこれからも、おばあちゃんとの時間を大切にしようと心に決めた。おばあちゃんの言葉が彼女に勇気を与え、幻聴に打ち勝つ力になっていくことを、彼女は静かに感じていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます