第27話 王都へ
「レイカ姉様、これは何と言う名前の食べ物ですか?」
アメリーちゃんが聞いてきました。
「これは、キノコの炊き込みご飯です」
さすがに、毒キノコの炊き込みご飯の毒は省略しました。
「炊き込みご飯……とても美味しい……私はこれが一番好きです。私が…………アーサー様に様をつけて呼ぶのは、初めてお会いしたときに見た強さ、そして、その時のりりしくも美しいお姿を見て自然に付けていました」
アメリーちゃんがイオちゃんに変わって、話題をもどしてくれました。
「そうです。ギャング共を次々倒すお姿は、ため息が出るほど美しかった。そしてかっこよかった。お名前をお聞きして自然にアーサー様とよんでいました」
ふわふわの金髪を揺らしてソフィーちゃんが教えてくれました。
「そうです、そうです。まるで軍神のように美しく輝いていました。それは華麗に踊るように戦っていました。私はまばたきを忘れて見続けていました。その姿が瞳の奥に焼き付いて離れません。だから、いつでもどこでもその姿を見る事が出来ます」
マリーちゃんはまるで今、目の前に踊っているアサちゃんがいるように遠い目で空間を見つめています。
「はぁ、美しい……! そして、りりしくて男らしい。その姿を見てほれない女はいません」
イオちゃんもマリーちゃんと同じ所を見て赤い顔をして言いました。
それを聞いて、アサちゃん以外のうちの子達が、笑いをこらえて肩を揺らしています。
照れて、耳まで真っ赤になっているアサちゃんは、美しいのですがそれは、男らしさと言うより美女の美しさに見えます。
良く気付かれないものです。
「ごちそうさまーー!!!!」
全員の箸が止まると、誰から言うでもなく声をそろえて、うちの子達が言いました。
「ごちそうさまです!!」
遅れてイオちゃん達も言いました。
「あの、少しお外を見せてもらってもよろしいですか?」
イオちゃんが言いました。
「はい、かまいませんよ」
私は、片付けをリルちゃんとハルちゃん、二体のゴーレムにお願いしてイオちゃんに同行しました。
木造二階建ての大きめの邸宅のドアを開けて、イオちゃんは外に走り出します。
「わああーー!!!! 素敵です!!」
玄関の前の段差を降りると、イオちゃんは両手を広げて大きく息を吸い込み感動を声にしました。
最初は猫の額のような平地でしたが、赤と青の金属を探すため山を削ったら、今では端っこが見えないくらいの平野になっています。
そこを、水田と畑にしています。山に近い方には果樹園を作り葡萄や、梨、柿などの果樹を育てています。
「ありがとうございます」
私は、褒められたことがうれしくて、自然と御礼を言っていました。
「とても広くて美しい農地ですね。向こうで働いているのは村人ですか? 後でごあいさつがしたいわ」
「それには及びません。あそこで働いているのは木人です。木で出来たゴーレムです」
「ええっ!? 大勢いるように見えますが」
「うふふ、大勢いますよ」
「あれも、レイカ姉様の魔力ですよね」
「はい、でもあれだけ動かしても、リルちゃんより少ない魔力なのですよ」
「そ、そうなのですか……」
イオちゃんは、働く木人を次々確認するように一体、一体見ていきます。
「あの、こちらに来ていただいてもよろしいですか」
「は、はい」
私はイオちゃんの手を引っ張り、はしゃぐ幼児のように幾つかある倉庫のうちの一つへ案内しました。
「こ、これは……」
ここは、日本にいたときに見た味噌蔵を思い出して作った、大樽の醸造所です。
私は味噌と醤油を売りたいと思って、売るために大量生産をしているのです。
「これは、お味噌と醤油です。商品として売れないでしょうか。唐揚げの味は醤油です。カツにかけたのは味噌でした」
「売れますよ!! いえ、私が買います!! でも、これを売って何を買うのですか?」
「うちの子達に、新しい服を買ってあげたいのです」
「さすがは、レイカ姉様!!!!」
そう言うと、イオちゃんは瞳を潤ませて私に顔を近づけます。
そして、私の両ワキに手のひらを突っ込むと、抱き上げて頭上に持ち上げました。
「キャッ、キャッ!! やめてーー!! キャッ、キャッ!!」
私は高い高いをされると、どこから出るのか恐怖で「キャッ、キャッ」と声が出てしまうのです。
「うふふ、おばさんみたいなのに、かわいいーー!!!!」
私の頬に頬をくっつけるとスリスリしてきます。
いい子なのですが、おばさんはひどいです。
「他にも、倉庫が一杯ありますね」
「はい」
私は、肉がしまってある冷凍庫や、穀物のしまってある冷蔵倉庫などを案内して、最後に冷暖房完備の体育館を案内しました。
イオちゃんはその都度目を丸くして驚いていましたが、冷凍庫に特に関心をしめしていました。
「あの、レイカ姉様、お願いがあります。よろしければ王都に一緒に来ていただけませんか?」
「えっ!?」
「服も見ていただかないといけませんし、やっぱり無理でしょうか?」
「考えてもいませんでしたが…………そうですね。イサちゃん一人で行かせるのは可哀想ですし、チマちゃん、シノちゃん、ヒジリちゃんにも王都を見せてあげたいし、行きましょうか」
いつの間にか、私のまわりに全員が集っていて喜んでいます。
「じゃあレイカ姉、街は俺が案内してやるぜ」
アサちゃんが嬉しそうに言いました。
「何を言っているの? アサちゃんはここで修行をしてもらいますよ。リルちゃんが倒せるようになるまでは、ヤマト村を出ることは許可しませんから」
「えぇーーっ!! そ、そんなぁーー!!
泣きそうな顔をしています。
「そんな顔をしてもダメです。弱いあなたが悪いのですから」
後ろでイオちゃんと三人の侍女さんが「あのアーサー様を弱いって……」小さな声でつぶやいています。
「リルちゃん、ハルちゃん、アサちゃんをよろしくお願いします」
「はい! レイカ様!」
「うふふ、リルちゃんとハルちゃんも次は一緒に行きましょうね」
私が今回リルちゃんとハルちゃんを残したのは、この二体のゴーレムの目を通してこの村の状況を確認して、アサちゃんの修行を遠隔で手助けするためです。
「は、はい。レイカ様!」
表情の無いアンドロイドのような二体ですが、今度は一緒に行こうと言ったのが嬉しかったのか、全身からうれしさがこぼれ出ています。
「では、みんなーー! そうと決まれば準備をしますよーー」
アサちゃんが恨めしそうにこっちを見つめています。
その子供っぽい姿を見て、イオちゃん達四人が嬉しそうに笑っています。
「アーサー様のあんな表情が見られるなんて、一緒について来てよかった」
どうやら、アサちゃんはイオちゃん達の前では、恐い顔しかしていなかったようです。
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