第26話 おもてなし

「失礼しました。すぐに用意します。リルちゃん、ハルちゃん手伝ってください」


「はい、レイカ様」


 青と赤の金属製のゴーレムが返事をしました。


「しゃ、しゃべったーー!!!!」


 アサちゃんとイオちゃん達が驚いています。


「そうか、アサちゃんは初めてでしたね。この子達を動かすのは大量の魔力がいります。魔力が沢山入っているから、頭が良いし力も強いのですよ。それどころか、普通の人間のように考えて行動できるのです」


「す、すごい!!!!!!」


「さあさあ、そんなことより、皆さんは長旅で体が汚れているでしょう。お風呂に入ってきて下さい。その間に食事の準備をしておきます」


 イオちゃん達は、昔のコントの探検家のような格好をしています。

 何日かけてここに来たのかは知りませんが、全員ドロドロです。

 うちの大浴場へ行ってもらいましょう。

 アサちゃんは、男のフリをしているのだから別のお風呂です。

 私は大急ぎで食事の準備です。お客様ですから、少しだけ豪華にしましょう。


「アーサー様、レイカ姉はあんなに小さいのに、お母さんみたいですね」


「うふふ、だから、レイカ姉なのです」


「納得です」


 なんだか、話をしながらお風呂へ行きました。




「レイカ姉、お、お風呂が、すごーーい!!」


 お風呂は、さびないミスリルで形を作り、それを浴槽にしています。

 皆がお風呂から帰ってきて驚いています。そんなに驚くことではないでしょうに。


「な、何ですかこれはーーーー!!??」


 今度は料理でイオちゃん達が驚いています。

 アサちゃんは見たことがある料理なので驚いていませんね。

 いえ、驚いていませんが、懐かしくて涙ぐんでいるみたいです。


「初めての来客なので張り切って沢山作りました。おなか一杯食べて下さい」


「はい、ありがとうございます」


 イオちゃん達が目をキラキラさせて、料理を見つめます。


「いただきまーーす!!」


 うちの子達が、手を合せて言いました。


「いただきまーーす!!」


 イオちゃん達も真似をしました。

 なんの事かも分からないでしょうに、どうやら本当にいい子達のようですね。


 今日のメニューのメインの肉料理は、味噌カツ、お味噌はヤマト村の自家製です。そして唐揚げ。特製ソースのハンバーグ、ハンバーグはイノシシと鹿肉の合い挽きでソースはヤマト村の自家製です。

 ヤマト村のマスの焼き魚。

 そしてヤマト村でとれた野菜たっぷりのお味噌汁。


 ご飯は毒キノコの炊き込みご飯。

 ヤマト村で取れた各種毒キノコをたっぷり炊き込みました。

 実は毒キノコはとても美味しいのです。

 だから、美味しく食べて死んでしまうのです。

 まずかったり、刺激があれば食べずに吐き出しますよね。

 そうしないほど美味しいのです。


 でも、そのまま食べれば当然死んでしまいます。

 そこでヒジリちゃんの出番です。ヒジリちゃんは毒消し魔法が使えます。

 毒を無効にしてもらって、美味しくいただくのです。

 まあ時々消えきっていなくて、死にそうになりますが、それは美味しいのですから仕方がありません。


 さらに、野菜サラダに、庭で飼い慣らしたトサカのある鳥の卵を使った、卵料理を出しました。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


 イオちゃん達が大声を出しました。

 しまった! 毒キノコの炊き込みご飯の毒が消えきっていなかった!!


「だ、大丈夫ですか? ヒジリちゃん!!」


「おいしぃぃぃーーーーーいい!!!!」


「そ、そっちーー!!」


 良く見たら、まだ毒キノコの炊き込みご飯は食べていませんでした。

 そう言えば、この子達はせっかく用意したフォークもナイフもスプーンも使いません。

 金髪なのに箸を上手に使います。ひょっとすると、お箸文化なのかも知れません。少し驚きです。


「あ、あの、あの、この料理はレイカ姉様が考えたのですか? すべて食べたことの無い食べ物です。そして、おいしいです。美味し過ぎます。宮殿で食べる料理よりはるかに美味しいです!!」


 イオちゃんと一緒に来た他の三人も、大きくうなずいて次々料理を口に運びます。

 ……ちょっと待って下さい。気になる一言がありました。


「アサちゃん! この方はどのような方なのですか?」


「ああ、ころひろたちは、ひそくれふ。ひふぉふぁわふぁ、ふぉうじょふぁま……」


「こらこら、こらーー!! アサちゃん、ちゃんと飲み込んでからにして下さい。まったくわかりません!!」


「しゅ……すみません。この方たちは貴族で、イオ様は王女様です」


「はあぁぁーーーーっ、おおお、王女様ですってーー!!!! なんでそんな偉い人がいらっしゃったのに、言ってくれないのーー!!!!」


「あははは、そんなこと。それはレイカ姉の方が偉いからに決まっているじゃないか!」


 ――あははは、じゃないですよーー!!


 アサちゃんは一国の王女より私の方が偉いと思っている様です。困ったものです。


 ――うわああぁぁぁーーー!!


 うちの子達が全員大きくうなずいています。


「あなた達、ち、違うから。私なんかより、王女様の方が偉いから!!」


「いいえ、レイカ姉様の方が偉いです。私もレイカ姉様と呼ばせてもらってもいいですか」


 イオちゃんが言いました。


「わたしもーー!!!」


 貴族の娘さんの三人まで言います。

 おかげで断るチャンスを逃しました。


 ――レイカ姉様の様はいらないですよーー!!


「でも、さすがにレイカ姉様です。あの、アーサー様が、まるで子供扱いです」


 そういえばアサちゃんが、王女様に様を付けて呼ばれています。

 敵に腕の骨を切られるほど弱々なのに様っておかしいですね。


「あの、アサちゃんをイオ様は何故様を付けて呼ぶのですか?」


「ふふふ、説明します。その前に、レイカ姉様、イオ様はやめて下さい。イオちゃんでお願いします」


 お願いされたら、そう呼ぶしかありませんね。


「わかりました。イオちゃん」


「あの、私達もちゃんでお願いします。私はアメリーです」

「私はソフィーです」

「私はマリーです」


 三人ともとても美しい顔立ちをしています。

 貴族のお嬢様をちゃん付けーー!!!! 恐れ多いよー!!!!

 でも、イオちゃんをそう呼ぶのなら、仕方がありません。


「わかりました。アメリーちゃん、ソフィーちゃん、マリーちゃん。よろしくお願いします」


「はい! よろしくお願いします!」


「…………」


 私は、イオ様の説明を聞こうと黙って待っています。

 でも、イオちゃんは、毒キノコの炊き込みご飯に箸を付けて、バクバク食べはじめました。「おいしぃぃーーい!!!!」って顔になりました。

 ひょっとして、忘れ去られたのでしょうか。

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