第25話 大けが
「俺はレイカ姉じゃない。イザミギだ」
どうやら、イサミちゃんはイザミギという名の男の子で通す気のようです。じゃあ私はイサちゃんと呼びましょうか。
「僕はチクマです」
チマちゃんはチクマだそうです。
私はそのままチマちゃんと呼んじゃいましょう。
「俺はシブキだ」
シノブちゃんはシブキだそうです。
私はシノちゃんと呼びましょうか。
「オラはヒジリオンだ」
ヒジリちゃんは付け足しただけですね。
そのままヒジリちゃんでいけそうです。
「ごめんなさい。イザミギ様は男性だったのですね。お顔が美しかったので女性かと思いました。すると……」
イオちゃんが恐る恐る私を見ました。
油の切れたロボのようにギギギと音がしそうに首を動かします。
「アサちゃんは帰って来たの?」
私はイオちゃんを無視して、アサちゃんに話しかけました。
ちょっと意地悪だったかしら。
「ああ、もう戦えないから、ヤマト村でのんびり暮らしたい」
アサちゃんは、左腕を持ち上げます。
肘から下がプランとしています。
「えっ!?」
「ふふふ、もう動かせないんだ」
アサちゃんは悲しそうな顔をしました。
そして、同行してきた四人の美女も暗い顔になりました。
「ど、どうしたの?」
「うん、俺はサイシュトアリ国で騎士として働いていたんだ。そのサイシュトアリ国は、隣のフト国に攻められて戦争状態になった。敵国のフト国にはドウカンという強い将がいて、俺はそのドウカンと戦ったのだが、ドウカンはこの世の者とも思えないほど強かったんだ。肉を切らせて骨を断つ、それしか無いと考えて戦ったのだが、結果はこの通り……」
「左腕の骨を切られたのですか?」
「そうです。骨を切られて、肉しか切れませんでした。でも、胸に結構な深手を負わせたはずです。でもドウカンの傷は治るはずです。レイカ姉サイシュトアリ国を助けて欲しい」
アサちゃんは、涙をためて頭をさげました。
「言われなくてもそうします。私の可愛いアサちゃんをこんな目にあわせたのですから、むくいは受けてもらいます」
でも世界は広いですね。アサちゃんにこんなに大けがをさせる人がいるなんて、敵将ドウカンはイサちゃんにはかなわないでしょうが、まだまだ強い人はいそうです。
私は、子供達の修行を怠らないようにしようと強く心に決めました。
「ほ、本当ですか? でも、ドウカンはとても強いのですが大丈夫でしょうか?」
イオちゃんがうれしそうな顔をして言いましたが、すぐに心配そうな顔になりました。
「そんなことですか。ふふふ、ここにいる四人はアサちゃんより、はるかに強いのですよ。アサちゃんに不覚をとるようなら、この子達に勝てるわけがありません。その中でもイサちゃんは頭一つ抜けています。イサちゃん……イザミギちゃんに行ってもらいます。イザミギちゃん大丈夫ですか」
「もちろんだ。アサちゃんの敵はきっと取る」
「アーサー様より、はるかに強いって……」
四人の美女がヒソヒソ声で驚いています。
「ヒジリちゃん、アサちゃんの腕を治してあげて」
「はい」
ヒジリちゃんはアサちゃんに近寄ると、左腕に両手のひらを当てます。
「治癒!!」
ヒジリちゃんの手が緑色に大きく光りました。
イサちゃんとヒジリちゃんは治癒魔法が使えます。
でも、ここまでの大怪我はイサちゃんでは治せません。
治癒魔法はこの村ではヒジリちゃんが一番なのです。
「お、おい! 大丈夫か?」
ヒジリちゃんが、貧血をおこしたように倒れそうになりました。
アサちゃんが倒れそうになったヒジリちゃんを受け止めました。
「あああぁぁぁぁーーー!!!!」
イオちゃんと一緒に来た三人が感動の声をあげました。
アサちゃんが両手でヒジリちゃんを抱き留めているのです。
どうやら、ヒジリちゃんの治癒は成功したようです。
「うふふ、アサちゃんの腕を治すのに、沢山魔力を使いました。魔力を使いすぎるとこんなにフラフラするのですね」
ヒジリちゃんが目でアサちゃんに大丈夫と合図を送ると、アサちゃんは手を離しました。
アサちゃんは、左手の平を閉じたり開いたり、上げたり下げたりして腕の感触を確認しています。
「すごい、感覚も動きもすべて戻っている」
アサちゃんがとても嬉しそうにつぶやきました。
「ヒジリちゃん、魔力は全部使い切ったのですか?」
「いいえ、半分位です」
「よかったー! 全部使うと縮んじゃいますから気を付けて下さい」
「えーーーーっ!!」
ヤマト村の子供達が驚きの声を出しました。
「どうしたの?」
「どうしたのじゃねーよ! それでレイカ姉は、縮んでしまったのかー!」
イサちゃんの眉毛が吊り上がっています。
「大丈夫、今は全部を使いきっていませんから」
「レイカ姉、無茶はやめて下さい」
今度はヒジリちゃんが言いました。
「でもね。皆を鍛えるためには、少しくらいは無茶しないとね」
「レイカ姉ー……」
皆の瞳が潤んでいます。
「ぐえっ!!」
皆が抱きついて来ました。
この子達は手加減しているのでしょうが、バカ力だから私はつぶれそうです。
「うふふふ、あはははは」
私の声がおかしかったのか、皆が笑っています。
「そうと決まれば、イサちゃん! 鉄人で送ります。サイシュトアリ国まで出発して下さい」
「待ってくれ、手が動くのなら俺も行く」
「ダメよ。アサちゃんは、ここで鍛えてもらいます。せめてリルを一人で倒せるようになるまではここで修行です」
「だれか、道案内をお願いします」
「そ、その前に何かを食べさせて下さい」
四人の美女の声が弱々しくそろいました。
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