第28話 廃村

 フト国との戦争の前線が心配で、急いで帰りたい様子でしたが、その日だけは全員でヤマト村に宿泊する事にしてくれました。

 夜になりイオちゃんと三人の侍女さんはゲストルームへ案内して、私達はいつもの様に全員で私の部屋で一緒に眠りました。

 ずっと離ればなれだったアサちゃんが、今日は一番人気で皆が横の取り合いをしました。


 でも私だけは、おちびさんなのでアサちゃんのお腹の上を独り占めです。

 最初は喜んでいましたが、アサちゃんのお腹の上は腹筋が硬くてとても寝苦しくて最悪です。

 結局アサちゃんが眠ってから移動して、一番端っこでちんまり眠りました。


「アサちゃん!!」


 翌朝、朝食が終わったらもうお別れです。

 私達は家のまえで、お別れをするため全員で集っています。

 久しぶりに会ったのに、すぐにお別れはやっぱりさみしすぎます。

 全員の目に涙が一杯溜まっています。


「レイカ姉ーー!! 気を付けてーー!!」


 アサちゃんが私に抱きついて、少し涙を流しています。体は大きいのですがまだまだ子供ですからね。

 でも恥ずかしいのか、イオちゃん達には見えない様に上手に隠しています。


『アーサー様ーー!!』


 イオちゃん達四人は隠すことも無く涙を流しています。

 この四人はアサちゃんの事をとても好きになってくれているようです。




 私とイオちゃん四人は、鉄人に抱きかかえられ王都を目指します。

 そして、イサちゃん達には大きな樽を背負ってもらい、鉄人におぶさり王都を目指します。


「すっ、すごーーい!! すごーーーーいいぃぃぃぃーーーー!!!! 私達空を飛んでいます!!!!!!」


 どうやらイオちゃん達四人は、空を飛ぶのが初めてのようです。

 イオちゃん達四人が子供のように大はしゃぎです。アサちゃんと同じ位の歳なのでしょうか。可愛いものです。

 途中何度か休憩をしましたが、それでも午前中には王都が見えてきました。

 あまり近くでは、目立つので王都の外の森の中に着陸して徒歩で門まで行きました。


 王都は城塞都市で、街の外周に円形に高い壁が有り、大きな街がすっぽり囲まれています。さらにその中央部に王城があり、王城はさらに高い城壁が囲んでいます。


「どうぞお通り下さい」


 イオちゃん達は、通行許可証があるのですんなり入れるようです。

 でも、扱いは普通の人と同じです。

 王女というのは隠して、お忍びで城の外に出て来ているようです。


「レイカ姉様は少し待っていて下さい。手続きを済ませて、すぐに迎えに来ます」


「はい、わかりました」


 私は笑顔で返事をしました。

 イオちゃんは私に抱きつくと、ほっぺとほっぺでスリスリしてくれました。

 イオちゃんは可愛い、いい子です。

 それを見ると他の三人の侍女ちゃん達も同じようにしました。

 この子達も可愛い、いい子です。


 私達が五人で城門の前で立っていると、どうやら悪目立ちをするようです。

 通行人がジロジロ見てきます。

 私達は下級船員の服を手直しして着ています。

 そして、背中には巨大な樽を背負っています。

 貧乏くさい変な一団です。


「おい! お前達! 一体何者だ!! 許可証が無ければここは入れない。どうだ持っているのか?」


 とうとう見かねて、騎馬に乗った兵士の一団の、目がぎょろっとした隊長が私達に声をかけてきました。


「いいえ、持っていません」


「じゃあ、中に入ることは出来ない。中に入れるのは住民か、許可証のある者だけだ。あきらめて帰るんだな」


「あの友人に、ここで待つように言われたのですが」


「ふん、手続きには時間がかかる。よほど身分の高い貴族様でも無ければ許可証はすぐには発行されない。お前達みたいな、ボロを着ている者では無理だろう。目障りだ! さっさと行け!!」


「無理です。待つように言われました」


「なにーーっ!! このチビーーっ!! 隊長が優しく言っているうちにとっとと帰るんだよ!! 糞チビ!!」


 隊長の横のひげもじゃで、人相の悪いおじさんが怒っています。

 その瞬間、イサちゃんが怒りの表情で前に出ました。


「イサちゃん、ダメです。行きましょう。ここまで言われたら逆らいきれません。さっき森の中に村がありました。そこへ行きましょう」




 上空から見たときは、ちゃんとした村に見えましたが、どうやらこの村は廃村のようです。

 壁は石造りで残っていますが、屋根のはりが木造のため、ほとんどの家で屋根が堕ちています。


「レイカ姉ーー!! こっ、恐ーーい!!」


 男の子の格好をしていても全員かわいい女の子です。

 この森の廃墟が不気味で恐いようです。

 全員が一番小さい私の服を握ってきます。


「どなたかいませんかーー!!」


 大声で呼びかけましたが、返事はありません。

 まあ、王都もここからなら少し見えています。

 丁度、鉄人も近くに隠してあります。

 ついでなので、ここの廃村の家をなおして私達の住みかにしてしまいましょうか。


「みんな、今日からしばらくここに住みましょう」


「え、ええぇーーっ!!」


 皆は嫌そうです。


「大丈夫ですよ。家を綺麗に直せば不気味さは無くなります」


 私は、鉄人を呼び寄せて一番大きい建物の修理を始めました。


「しょうがないなーーっ!!」


 そういって全員が樽を置くと、まわりの草や邪魔な木を取り除き始めました。


「うふふ、お金もないし丁度よかったです」


 夕方には、屋根も出来上がり、中も綺麗に掃除が終わって、かろうじて眠ることは出来そうです。

 イオちゃん達はこの日、結局ここには来ることがありませんでした。

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