第21話 ヤマトの特産品
私は立つことも出来ないので、イサミちゃんに抱きかかえられました。
「街は恐いわね。湖に戻りましょう」
私が言うと、イサミちゃんは湖に向って歩き出しました。
皆の顔は怒りの表情で、無理矢理その噴火を押さえつけているような顔です。そんな表情のまま、全員無言でついて来ます。
湖に着くと皆、雄大な自然を見つめ立ちどまりました。
大きな湖の美しくキラキラ輝く水面は少しずつ、全員の怒りを静めてくれるようです。
「イサミちゃん、このまま暗くなるまでここで待ちましょうか」
「レイカ姉、体は大丈夫ですか?」
「平気。でもおなかが空きました。食べて眠るとだいぶよくなると思うのですが……」
「おーーい、レイカ姉! こんな所で何をしているんだ?」
「チビーーッ!!」
チビが両手に木の桶をぶら下げて近づいてきます。
桶の中には、ゴミと呼ばれる金属が入っています。
どうやら、湖に捨てに来たようです。
「商館には行ったのか?」
「ええ、ゾング商会へ行きました」
「えーーっ!? ゾッ、ゾング!? そうか、本当にレイカ姉は何も知らないのだな。いきなりそんなみすぼらしい格好で、世界で一番の商会へ行ったらつまみ出されるだろー」
「ええーーっ!!??」
な、なんですってー!! このチビーー!!
こんな可愛いレディーを捕まえて、みすぼらしいって……あーっ服はボロボロで、くすんでいて確かにみすぼらしいわ。
言われてもしょうが無いですね。
「俺達みたいな貧乏人は、汚い小さい商館があっただろ、そっちへ行かなくちゃあ」
「そ、そうなのですか?」
でも、だからって体の調子の悪い幼児を思い切り蹴りますか!!
私だから良い物を、普通の子なら死んでしまうかもしれません。
「そりゃあそうさ。よく生きて帰って来られたもんだなあ」
「せっかく、ヤマト村のすばらしい商品を見せようと思いましたが、もう見せてあげません!!」
「ははは、レイカ姉のド田舎の村の物なんか、言うほど大した物は無いだろう」
「うふふ、言いましたね。結構自信のある物を持って来ていますよ」
「へーー、じゃあ俺の家で見せてくれよ。丁度仕事も終わったしな」
「チビに見せてもしょうが無いのですが、食事をしたいと思っていましたので、丁度いいですね」
「ここが、俺の家さ! 遠慮しないで入ってくれ」
チビの家は、湖からは少し離れていました。
五軒ほどが連なった、日本の長屋のような感じですが、まあまあ子供が住むには広い部屋です。その端っこの家です。
但し、オンボロです。オンボロですが部屋の中は片付いています。
まあ、貧乏だから何も買えないのでしょう。
すぐ見える所に、鍛冶の作業場があります。
作業場では、まだ作業は続いているみたいで、カンカンと鉄を打つ音が聞こえます。
でも、子供のチビは早めに仕事を終わらせてもらっているようです。クマさんは優しいのでしょうね。見た目はクマだけど。
「少し食事の用意をしますので、皆、樽を置いてください」
私は皆の樽を置いてもらい、その中から四角い箱を出しました。
「それは、なんだ?」
チビが不思議そうに箱を見つめて聞きます。
「これは炊飯器よ。お米を入れて洗米したら美味しいご飯が炊けるのよ」
「ご、ご飯?」
「これよ! このお米を炊いた物がご飯。このお米がヤマト村で作った物です。チビは何も知らないから見た事がないのかしら」
私は、手のひらにお米の白い粒を乗せてチビの前に出しました。
「あーーっ、思い出した。東洋の国の主食だ。見た事はないけど聞いた事がある!! へへ、物知りだからな!」
「チマちゃん、この水筒でお米を洗って来て」
「はい」
チマちゃんが水筒と炊飯器を持って、台所へ行きました。
「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!! な、何だこれは、次々水が出る。こ、こんな物見た事がねえ!!」
「ふふふ、それもヤマト村の製品、魔法の水筒です」
この水筒は、ゴーレム魔法がかけてあり、そのゴーレムが水魔法を使えるようにしているのです。私の魔力が続く限り水が出ます。
炊飯器もゴーレムで、熱魔法が使えるようにしてあります。
電子炊飯器のようにゴーレムが判断して一番美味しくご飯が炊けるのです。
「そして、これがカツの肉です」
私は樽から、少し大きめの箱を出しました。
その中からカツの肉を出しました。
「な、なんだーーこれはーーー!!!!????」
「カツの肉です」
「ち、ちがう。この箱だよ。冷たいじゃないかーー!!!!」
「いちいち、うるさいなー。こんな物、だだの冷蔵庫でしょ! 中の物を冷やして冷たくして、腐らないようにするだけでしょ。ちょっと大げさです!」
「お、おい、あんた達は、どうなんだよう。滅茶苦茶すごいだろー!」
チビは、イサミちゃん達の顔を見ました。
皆、少し変な表情をして笑っています。
おーーい、そこは否定するところでしょう。
「ヒジリちゃん、そこの樽からまな板とナイフを出して」
「うぎゃああーーーーーーー!!!!!! ヒューーッ! ヒューーッ!!」
チビは悲鳴と共に呼吸が乱れています。
倒れそうなくらい、荒い呼吸です。大丈夫でしょうか?
何に驚いたのでしょう。
ヒジリちゃんが出してくれたのは、紫の短刀と木のまな板です。
私は、チビは無視して、カツの肉の塊を小さく、とんかつ用に切り分けました。
この紫の短刀は、切れ味バッチリで綺麗に切り分けられます。
切ったところが、ピカピカ輝いています。
「な、な、なんという切れ味。そ、そそ、そそその短刀一体材料はなんなんだ。紫の金属そんな物初めて見た。いっ、一体なんで出来ているんだーーーーーーー!!!! ヒューーッ!! ヒューーッ!!」
さすがは鍛冶屋のチビですね。目の付け所が違います。
どうやら、この短刀に驚いているようです。
「さて、何でしょう。ほら見てください。鉄だってスパスパ切れるのですよ」
私が鉄の棒を、人参のように細かく切ると。
「うぎゃああああああああああああーーーーーーーーーーー!!!!!! ヒュイィィィィーーーーーーー!!」
とうとうチビは目を回してしまいました。
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