第20話 よい体験
私は一秒でもはやくゴミを見たかった。
お店の横の路地をズンズン東へ向います。
大きな建物は、大通りに並んでいるだけで路地を入るとすぐに、小さな家屋が続きます。
その家屋がなくなると湖が見えました。
「うわあぁーー!!!!」
湖が見えると、子供達が歓声を上げました。
広い湖で、遠くに対岸が見えます。
私は、水辺に近づき水の中をのぞきました。
綺麗な水なので、底が見えるのですが赤も青も見えません。
ゴミがあるのはここではないようです。
あたりを、見渡すと丁度荷車が、湖に何かを流し込んでいるのが見えました。
「あそこね。皆、行きますよ」
言うがはやいか私は全力で駆け出していました。
荷車はすぐにいなくなりましたが、その場所に私の求めるものが落ちています。
荷車から落ちた物でしょう。
赤い金属と青い金属がパラパラと桟橋の上に落ちています。
私はその一つを拾いました。
「ハアハァ……間違いありません!! これです!!」
「よかったですね!!!!」
この子達は私が肩で息をしているのに、少しも呼吸が乱れていません。
少しくやしい気がします。
でもあの金属が見つかって、とてもうれしいので明るく返事をします。
「はい!!」
私は湖に目をやりました。
水面が赤くキラキラ輝いています。
清んだ水の中に赤い金属だけが見えます。
どうやら、風や雨で水が動くと、重い方の青い金属が沈んでしまって軽い赤い金属が上になっているようです。
私は湖に右の手の平を向けて、赤い金属に魔力を送り込みました。
「わあああぁぁぁーーーー!!!! きれーーい!!!!」
赤い人型のゴーレムが形作られていきます。
子供達が余りの美しさに驚きの声を上げました。
赤い金属がどいた所に青い金属が顔を出しました。
その青い金属に今度は左手で魔力を送り込みます。
青い人型のゴーレムが形作られていきます。
「ああっ!!!!」
二つの人型ゴーレムが完成した瞬間に私は、両膝をついてへたり込んでしまいました。
足に力が入らず、立ち上がる事も出来ません。
「レイカ姉!!!! どうしたんだ!!!!」
四人がすぐに気が付いて、体を支えてくれました。
「うふふ! 大丈夫よ!!」
なるべく心配をさせないように笑顔を作りました。
安心してくれたのでしょうか。
「ははは。な、ならいいんだけど」
四人は笑いながら私から手を離すと、心配そうな顔のまま離れてくれました。
お互い嘘が下手ですね。
私は、この二体のゴーレムを作るのに大量の魔力を吸い取られました。
いつもは、使いすぎると私の成長に影響がでるので、持っている魔力の半分ぐらいしか使っていません。
その残っている魔力を全部つぎ込みました。
まだゴーレムには魔力をもう少し入れる事が出来そうですが、私の魔力がすっからかんです。
魔力不足になると、全身から力が抜けてしまうのです。
しかも全ての魔力を放出すると、力が入らないだけじゃなくて、寿命も持って行かれます。
私の本当の歳は八歳なのですが、以前魔力を全力で使ったとき年齢を失いました。やっと六歳位に戻ったところなのですが、これでまた少し五歳に近づいてしまうでしょう。
でも、心配をさせるので、この事はしばらく秘密にします。
「さあ、商館へ行ってみましょうか」
私は、二体のゴーレムを湖に沈めて言いました。
「えっ!? どうして?」
子供達がゴーレムを沈めたことが疑問のようです。
「うふふ、まだ明るいので、移動させると目立ちます。このゴーレムは夜暗くなってから移動させます」
「そうか!! それで商館か」
子供達は納得してくれたようです。
「じゃあ、行きましょう」
私達は、もう一度表通りに戻ってチビに教えてもらった方へ進みます。
「ゾング商会、ここにしましょう」
一番立派な商館の扉を開けました。
「な、なんだお前達は!!!!」
「あ、あの、この金を貨幣に換金したいのですが」
「馬鹿かお前達はーーー!!!! 出て行けーー!!!!」
「どうした。何を騒いでいる」
「あっ、旦那様!」
何だかチョビひげの、目つきの鋭い悪党顔の男がこちらに来ました。
旦那様と言うことは、ゾングさんでしょうか。
「この、世間知らずの汚いガキ共が何を勘違いしたのか迷い込んできました。すぐにたたき出します」
私は、今とても体調が悪くて、空腹ではないのですが、空腹の時のように頭がクラクラして気持ちが悪いです。
「ぐえええぇぇぇ」
――あーーっ!! しまった!!
私は、我慢出来ずにもどしてしまいました。
幼い体は気持ち悪さを我慢出来なかったみたいです。
旦那様のゾングさんの靴に少しかかってしまいました。
「くそーーっ、このくそがきーー!!!!」
ゾングが靴の先っぽで私の腹を思い切り蹴りました。
私の体は、ゴロゴロころがって扉から外まで飛び出しました。
「ぐはっ!! ぐえええぇぇぇーー」
お店の前でもう一度、おなかの中のものが全部出ました。
「ゴミが!! 消えろ!!」
うずくまる私の服で、汚れた靴を拭い取りました。
ゾングが冷たい目でにらみ付け、寒気が起るような口調で言いました。
「な、何をする!!!!」
四人が激怒しています。
今すぐに殺してしまいそうな勢いです。
「ここで、騒ぎを起こせばどうなるか! まわりを見て見ろ!!」
ゾングが勝ち誇ったように言いました。
周囲には、武器を持った男達が大勢います。
お店の護衛もいるようです。
すぐ近くに、貴族の家もあるので、衛兵もこちらを見ています。
暴れれば駆け寄ってきて、私達はあっと言う間に殺されてしまうでしょう。
「み、みんな、やめなさい。いっ、行きますよ」
私は苦しさを我慢して、なんとか言いました。
怒りに我を忘れていた子供達は、私の声を聞くとすぐに我に返り、私を心配して、泣きそうな顔になっています。
ゾング、貴方の事は忘れません。
良い経験をさせてもらいました。
私達は、商館を後にしました。
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