第9話『佐古イノベーショングループ』
「えーーーーー案・・・?」
「早く案出せ案!ほらほらほら!」
ガヤうるさっ!荷物くらい置かせてよ!文句を言ってやろうとしたその時、もう一つのドアが開いた。
「沖谷」
「はい」「せんせーどっちの方すか」
「男の方」
「ですよね。私
ななちゃんの前に座ってノートパソコンを立ち上げる。良かった私に関係のない話で。
「
「何で俺に言うんすか!」
「友達だからじゃろ」「授業一緒に受けとるやん」
林先生とななちゃんが同時にツッコむ。沖谷君の返事に満足したのか、林先生は標的をななちゃんに移した。
「あと森本。お前も遅刻するなとは言わないからせめてプリント出せ。このままだとアイツらと同じやぞ」
「ぎゃーーー!」
「先生優しっ」
女子生徒に甘いのは林先生に限ったことじゃないけど・・・怒ってもいいのでは。
「お前今日1限いたっけ」
「起きたの11時」
「終わっとるやん・・・何なら2限も遅刻か」
「ななちゃん・・・」
ななちゃんも高橋さんと同じレベルで時間にルーズだ。4月の時点でこれじゃあ卒業以前に3年生になれるかどうかも危うい。
「出ます!授業行きます!」
「沖谷頼む・・・起こしてやってくれ」
「だから何で俺」「おねがいしまーす!!」
「・・・このやり取り去年も見たような」
「気のせいじゃろ」
「じゃねーわ!白田先生でもあった!俺に毎回代弁させやがって!」
「俺だってフケて映画観てぇのに!」
「先生の前でよく言えるなぁ・・・」
「ほんまじゃ!!」
――中々に性根が腐っているので『悪い方の沖谷』と呼んでいる。勿論私は『真面目な方の沖谷』である。未だに彼は認めてくれないし、ななちゃんはこの件に関してノーコメントを貫き通している。解せない。
「おっつー」
「――とにかく、よろしく頼む」
「・・・はーい」
「分かりましたー」
同学年メンバーの
「安井君・・・コンビニ行ってたんだ」
「うん。林先生呆れとったけどどしたん」
「ななおがこのままだと単位落とすって話」
「また?」
「まだ落としてないけん!」
安井君の『また』発言はスルーなのか。私はプレゼンテーションソフトウェア『
「ななちゃん、このスライドなんだけど――」
(=^・・^=)
「そろそろ帰ろーでー」
時計を見ると18時を過ぎていた。確かに、いい時間かも。今日はこのまま解散なのか、ご飯コースなのか・・・どっちだろうか。
「ごめん。もうちょいで終わる!」
安井君は真剣な表情で作業を続けている。私もあともうちょいで今日の分は終わる・・・!
「おけ。今日飯行くん?」
いつも通り沖谷君がななちゃんに聞く。
「ハンバーグ食べたい」
「ここから近いとこって『
私はハンバーグやステーキ等のグリルメニューを中心としたレストランチェーン店の看板を思い浮かべる。
「ううん。おばあちゃんが作ったやつ」
「まさかの手作り!?」
「帰って作ってもらえ!」
「おばあちゃん90超えてるけぇ無理させれんが」
それは無茶が過ぎるな。作業を終わらせた私は身をかがめてコンセントを抜く。
「そんな美味しいハンバーグなんだ」
隠し味とか秘伝のソースとかがあるのかな。
「いやおばあちゃんが作ったハンバーグめっちゃまずいんよ!」
「何で食べたいの!?」
なんでやねん。
「まずいんじゃけど、そのまずさがクセになるっていうか」
「おかしいじゃろ・・・」
分かるような、分かんないような。
「んで結局どうするん」
「ごめん俺はパス。今日友達んとこ行くんよ」
安井君来ないんだ・・・流れで私も断ろうか。お金かかるし、ニャルラの存在が気掛かりだ。
「ぁ・・・」「あたしん家にいいもんあるんよ!」
かき消されたぁ!
「・・・いいもの?」
ここはななちゃんの話を聞こう。私は続きを促す。
「友達から貰ったもんなんじゃけど、一人じゃ食べきれんくて」
ななちゃんも佐古駅から3駅離れた場所にあるアパートで一人暮らしをしている。おばあちゃん家の近所に住みたかったのだそう。
「ふーん。冷凍ピザとか?」
「手作りパスタ」
「は?」
「なんそれ」
沖谷君と安井君が疑問符を浮かべている横で、お呼びでないニャルラが私の目の前を横切る。黒猫が横切ると不吉なことが起こるって言わなかったっけ。
「みんなで作らん?粉からパスタ麺!」
「それって今日?」
私はリュックを胸に抱く。
「ううん。また今度。今日はもう帰ろ。やす君終わった?」
「終わったー!」
戸締りをして、4人並んでエレベータを待つ。その間もパスタの話でもちきりだった。
「今度皆でパーティせん?あたしのためにまっずいハンバーグを作るパーティ!ついでにパスタ!」
「嫌じゃ俺!」
「ハンバーグが主役のパーティ・・・。略して『ハンパ!?』」ってコト!?
「お前は黙ってろ!」
脳内に浮かび上がった言葉をそのまま口に出したら沖谷君に一蹴された。折角命名したのに。
「いつ集まる―?」
「私の家はいつでも大丈夫」
私が一人暮らしを始めてから、SIGメンバーの宅飲み会場はななちゃん家から大学と佐古駅からより近い私の家になった。頻繁に飲み会が開催されることに対して保衣不は心配してくれているが、今のところ皆マナーが良いので溜まり場になっていること自体に不満はない。
「さっちゃんまたねー!」
「また明日」
「お疲れー」
バス組の3人と別れ、しばらく歩くとチャックが開く音がした。
「待たせてごめんね」
「にー」
「そんなワケで再来週ハンパやるみたいだけど・・・大丈夫かなぁ」
「・・・」
ニャルラは無言で肉球を私の頭に乗っける。それは当日起こるハプニングを予知して、「ドンマイ」と励ましているように感じた。
(=^・・^=)
今夜も私は夢を見た。
黒くてツチノコのような体の化け物が蛇のように這ってこちらに近づいてくる。
裂けた口からは、ギザギザの歯がしっかりと見えている。
その醜悪さに恐れを抱き、背後にあった白いドアを開ける。どうかこのドアから化け物が出ていってくれますようにと、それだけを願っていた。
化け物がまとわりついて戯れてくるのを見ながら、私は何故、白いドアの向こうへ逃げなかったのか。
――ただそれだけを考えていた。
(=^・・^=)
遠くからアラーム音が聞こえる。時計を見ると起床時間30分前だった。どこかの部屋の住民がまだ眠りの国にいるのか、アラーム音が止まる気配はない。私は自分のアラームを切って、窓を閉める。
「おはようニャルラ」
「にー」
服を出すためにクローゼットを開けると『ゴトッ』っと何かが動いた音がした。
「ん?な、ん?あれ?重いっ!?」
力いっぱい引くと、隙間から猫缶が数個、転がり落ちてきた。
「・・・・・・・え」
そのまま静かに引くと、『ゴトゴトゴトッ!』と大量の猫缶が滝のように押し寄せてきた。足に、腿に缶詰の蓋や一番痛い側面の部分がボコボコ当たってくる。完全に開けると、私が初めてニャルラにあげた猫缶が高く積み上げられていた。
「・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・」
私は今日の服を取り出し、無言で戸を閉める。着替えを済ませ、一部始終を黙って見守っていたニャルラを
「ニャ~ル~ラ~!!」
諸悪の根源を両手で捕らえ、縦長段ボールの中へ入れた。
「にー!」
「そんなストックいる?置き場ないよー!」
朝から散々だ。今日の運勢は最悪な気がする・・・。とりあえず一個開けてニャルラに食べさせようか。床に散らばった缶詰を拾おうと手を伸ばすと「にーーーー」という鳴き声に吸われるように、全ての缶詰がニャルラがいる段ボールの中に詰められた。
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