第34話 最高の場所

インターハイの試合が始まった

私は紅葉さんと九十九さんと一緒に観客席で応援していた

予想通りというか、忍先輩達はかなり順調に勝ち進んだ

お昼休憩時間になり、私たちは差し入れをしに控え室に向かっていた


「先輩達スゴいね〜!あたしも負けてらんないよ!」


「この様子じゃ、本当に優勝しちまうかもな」


そんな会話をしながら歩いてると

榎木さんがこちらに気づいて歩いてくる


「神楽愛華、あんたのチームと決勝で戦うことになった。そんときはあんたも出なさい」


「……私は出ないよ」


「…ふーん、勝手だけど、後悔しないようにね」


どうしても、私に勝ちたいのかな

「なんだあいつ、変なやつだな」と九十九さんが不機嫌になる


「良かったのか?なんか企んでそうだぞ」


「……麗奈先輩達なら大丈夫」


「ま、それもそうだな」


少しだけ榎木さんの試合を見たけど

かなり上手くなってる。口だけじゃないのは相変わらずだ

だからこそ、私が気に食わないんだろう

昔は努力家だったのに、何があの子を狂わせるんだろう


「あ、忍先輩〜!お疲れ様です!」


「皆、来てくれたんだね」


「ほれ、差し入れ」


「ありがとう。助かるよ」


2人が忍先輩と会話してる間

ベンチに座って呆然とそれを眺めてると

いつの間にか麗奈先輩が隣に座った


「お疲れ、なんだか顔が暗いな。どうかしたのか?」


「あ、ごめんなさい。先輩達の試合に私情を入れるわけには行かないので……」


「訳を話してくれないか。そしたら少しは楽になるぞ」


そう言われても、と思いながら少し黙ってるけど

麗奈先輩は話してくれるまで待ってくれている

…まあ、もう隠す必要も無いな

結局私は、少しだけ中学の頃の話をした


昔、バスケ部だった頃、上手すぎて浮いてたこと

それにチームメイトの反感もあって退部したこと

そして今回の試合、その子が絡んでること

こうして中学の事を話したのは、二先生以外初めてだった


「そんなことがあったのか……だからこの前のバスケの時は躊躇していたんだな」


「何も聞かず、協力してくれた事には感謝してます。でも今回も巻き込む訳にはいきません」


「……打ち明けてくれてありがとう。心配せずとも大丈夫だ。私達は強い、そんなものには挫けないさ」


「……ありがとうございます」


少し打ち明けた事により

心の重りが晴れた気がする

するといつの間にか九十九さんも隣に座った


「何いい雰囲気なってんだよ」


「九十九さん、これはそういうわけじゃ……」


「愛華、もし何かやろうってんなら、ウチらはダチだ。頼れよ」


「……ありがとう」




決勝戦、先生が万が一がある、と言われ

ユニフォームを着て控えに座った

榎木さんは私を見てベーッと舌を出して挑発する

私は無反応で対応したけど、きっとイライラしてるんだろうな…


試合が始まった

流石決勝戦と言うべきか

かなり拮抗な試合だった

榎木さんは昔から口だけじゃないのは知ってるけど

あれから更に実力を上げてるのがすぐに分かった

……でも、どこかおかしい

少しづつだけど、こちらが押されてきてる…?


「出てきなさい神楽愛華!さもなくば敗北あるのみ!」


榎木さんはそう叫んで、強引にドリブルをしてシュートする

忍先輩の守備をもろともしない


「忍!大丈夫か!?」


「うん、大丈夫」


このドリブル、昔と変わらないけど、上手い

流石としか言いようがない

このままじゃ負けてしまうかも…と悪い考えを巡らせてしまう


そして、15分のハーフタイム(小休憩)が入ったので

休憩してる間、先輩二人にかけあった


「やっぱり私出た方がいいですよね」


「やはり決勝なだけあって強いな。だか心配するな」


「でも……」


「大丈夫だよ。私達は負けないから」


そう言ってくれた2人からはまだ闘志が伝わる

勝ちたいという意欲が

……2人なら本当に何とかしてくれると思う

…………けど


「私も一緒に戦わせてください。傍観してるだけじゃ嫌なんです」


「神楽さん……どうする忍」


「そこまで言うなら…分かった。」


【その頃榎木の方の控え室】


「なんであいつ出てこないのよ!」


「あからさまにスルーされてんのウケる」


「あんたも協力して!そして神楽愛華をボコボコにするんだから!」


「はいはーい。かしこかしこ〜」


「ちょっと聞いてんの!?」



【愛華視点】


ハーフタイムが終わって

準備運動していると

黒いマスク付けた女の子が顔を覗かせてきた


「おさーす。君ちんが愛ちゃんかあ〜」


「(おさーす…?)え、えっと……榎木さんのチームの人……?」


「そうそう。なんかあかりんがすまんねぇ」


「そ、そう思うなら止めていただけると……」


「りーむー。あーなったあかりんは、てそい。でゆーめーなの。だから頑張ってね」


そう言って手をヒラヒラ降って相手チームに戻って行った

結局あの子何しに来たんだ……?

そのまま後半戦、第3クオーターが始まった

よく見たらあの黒マスクの子、キャプテンだ

結構目立つ見た目してるのに気づかなかった…


「やっと出たわね神楽愛華!ようやく念願が叶う!」


榎木さんは嬉しそうにそう言って暴走は加速化する

必要以上に私に勝負をしかけてきて

その勢いに圧迫されそうになる

昔なら、私はこのまま負けてた気がする


『ウチらはダチだ。頼れよ』

『一緒に背負わせてよ、私達は友達だよ!』

『あたしはいつでも無口ちゃんの味方だよ!』


「神楽さん!」「愛華ちゃん!」


皆の声が聞こえて

私は榎木さんからボールを奪う

捕られると思ってなかったのか、榎木さんは驚いた顔をしている

そのまま忍先輩にパスしてゴールを決めてもらった


「な、なんで……」


「私はもう、1人じゃないから」


「……ざけるな…………僕がまた負ける?ありえない!」


榎木さんは急にボールを私に投げてきて

顔に当たりそうになり思わず目を瞑る

しかし、誰かが受止めた音がして目を開けると

麗奈先輩がボールを止めていた



「神楽さんをこれ以上傷つけるな!」


麗奈先輩はそのまま榎木さんの方へドリブルして言って

全く違うプレイスタイルを見せた

今まではパス回しや指示をしてチームを動かしていたのに

自ら攻めに転じ、ゴールを決めるようになった

その動きは、私も凄すぎて圧巻するしか無かった


「な、なんだこいつ!さっさと止めろよキャプテン!」


「いやいや、無理ゲーすぎでしょ」


「ぐぬぬ……こんな奴らに負けてらんないのよ!」


「ふざけるな!人を傷つけるような奴に!勝利を得る資格は無い!!!」


麗奈先輩の言葉に榎木さん含め相手チームは萎縮して

最後には逆転してしまった


「す…………すごいよ麗奈!!」


忍先輩達は優勝した事実より

麗奈先輩の普段見ないプレイに驚いて喜びのハグをする

「つ、ついカッとなってしまった……だが良かった」

とまで言ってくれた


「麗奈先輩。ありがとうございます」


「な。大丈夫だって言っただろ?」


「……はい、そうですね」


相手チームをちらっと見るけど

その頃にはもう、相手は皆いなかった




【おまけ……?】


「本当に負けるとか信じらんない!神楽愛華をボコボコにする計画が……」


「いやぁ〜強かったねぃ」


「今度会った時はもっと……ブツブツ」


「わー聞いてなーい、ショボン」


榎木は前も見ずに歩いて誰かとぶつかる


「っいだ!誰よ!」


「よぅ。楽しそうでなによりだな」


「あ……あんたら……」


「なぁ、お前楽しかったか?」


「な、なにを……」


「たはは、そりゃ楽しかったよなぁ〜じゃあさ。今度は……『最高の場所(じごく)』を見せてやろうか?」


「覚悟しろよ……」


「ひぃ〜〜!!?」


そこにはニコニコ顔をして立っていた

二先生と、九十九がいた

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