第21話 決別
__なんとかボスを倒し、宝箱から"毒浄化の魔導書"を見つけた一行。帰る道中でファルシュが自分の処遇について問う__
最初に口を開いたのはアキラだった。
「僕反対。根拠はないけど、嫌な気がする」
「アタイも反対。ニセモノは要らない」
それに続いてエルもそう言った。
「ニセモノってどういうこと?」
ライリーが若干の怒りを込めながらそう聞いた。
「どうってそのままさ。ファルシュは神父じゃないよ」
エルにそう言われ、ファルシュは驚いていた。
「一体何を言うのかと思えば…。ニセモノ?私がですか?足をぶつけた拍子に脳みそまでおかしくなったのでしょうか?」
「済まないね、アタイが神父なら女神の祝福でアンタの頭を治してやれたのに。それか今、毒浄化してもらうかい?」
「遠慮するよ。毒浄化が必要なのはキミの方だからね。キミは女神の祝福を施す価値もない。大体魔王を倒す崇高な勇者のパーティーに犯罪者…、シーフがいるなんてどうなんだ?」
「それはアンタにゃ関係ないだろう?アンタ以外のやつにそう言われるのなら甘んじて受け入れるさ。だが、アンタに言われる筋合いはない」
2人のやりとりに慌てて私とバロンが止めに入った。
「エル、落ち着け。冷静に…」
「いたって冷静さ。」
私が言い終わるより先にエルがそう言った。
「ファルシュ、エルはシーフではあるが、犯罪を犯したことはない。取り消せ。じゃないと叩き斬る」
バロンはそう言って剣を抜いた。止めに入ったのだと思ったがまさか加勢するとは…。
「根拠もないのに人をニセモノ呼ばわりするやつなら、お前の知らないところで犯罪の一つや二つ犯していたって不思議ではないだろう?それに、ライリーは私の味方だろう?」
ファルシュはライリーのほうを向き、そっと手を差し出した。しかしその手をライリーは払い除けた。
「私は根拠がないのに否定するのが許せないだけ。だけどエルが貴方をニセモノだと言うのより、貴方が私の友達を犯罪者扱いするほうが不愉快だわ」
「ニセモノか見分ける良い方法があるよ。ファルシュ、"神父の証"を見せて」
ライリーとファルシュの間に割り込んで、アキラがそう言った。
「"神父の証"…ですか。なるほど、それなら私が本当の神父であることを証明できますね。ですが生憎教会においていってしまって…」
「なら、もっとわかりやすい方法がある」
エルはそう言って弓を引いた。
「エル!何をする気だ!?」
私は慌ててエルを止めようとしたが、それより先にエルは弓を射た。
弓は緑の稲妻のようなものを走らせてエルの足に刺さった。
「魔力込めて射たからね、骨を折ったよ。この怪我、治してよ」
「すまないが自傷は治さないと決めているんだ」
ファルシュがそう言うとバロンがそれに食いかかった。
「ならお前がニセモノだと結論付けるだけだ」
「仕方がないですね、ですが本物の日が差す場所でないと…」
ファルシュがそう言いかけたとき、突然
「おい!黙って聞いてればなんだ!!ここは本物の日が差す場所だぞ!」
と怒鳴る声が聞こえた。
アキラはハッとして少し前に埋めたヤポンを引っこ抜いた。
「気まずいから黙ってたんだけど、今のは聞き捨てならねぇな!俺たちは本物の日が差す場所以外で育てねぇんだ!それが誇りだからな!!」
ヤポンが体を揺らしながらそう怒鳴った。
それを聞いたファルシュはため息を吐いた。
「もういい、興冷めだ。お前ら皆殺しにしてやる!」
ファルシュはそう言うと隠していた短剣で襲ってきた。…が、呆気なくバロンに倒されてしまった。
「なぁ誰か、込めた魔力の止め方教えてくれない?」
ショウの声に振り返ると、魔力を揺らしながら弓を引いていた。
「射てしまえ。それだけ込めたやつは戻すと逆流して大変だ」
ショウはエルがそう言ったのに頷いて、地面に弓を射た。
「ずっと引いてたんだけど、魔力が止まんなくなっちまって。襲ってきたから今だと思ったんだけど、速攻でバロンが止めちまったし…」
「エルとファルシュが言い合いを始めた時から引いてたのよ」
ライリーは呆れながらそう言った。
「これでお前がニセモノだと決まったな」
バロンがそう言った。それに異論の声はない。
「どうする?捕まえるか?」
バロンが私を見てそういった。私はそれに首を振った。
「フン、お前たちが私を捕まえられる訳がないだろ」
ファルシュはそう言って嘲笑した。
「アイツ、国王だぞ。」
冷たい声でバロンがそう言う。国王にアイツて…。
それを聞いたファルシュの顔は青ざめ、慌てて逃げて行ってしまった。
「一段落…でいいのか…?」
呆然としながらバロンがそう言った。
「それより、早く本物の神父様の元へ行きましょう!」
ライリーはそう言うとエルを支えて先に進みだした。
「ねぇ、コイツ連れてっていい?」
アキラがヤポンを指さしてそう言った。
「別に構わないが、ソイツはどうなんだ?」
バロンがそう答えて、視線をヤポンに移す。
「俺は構わないぜ!まぁ戦えねぇし足手まといになるけど」
「俺こんな面白い生き物、初めて見た!!」
嬉しそうなアキラにショウが呆れていた。
「ねぇ、なんでわかったの?ファルシュがニセモノだって」
帰るまでの最中、ライリーがエルにそう聞いた。
「初めて会った日、治してもらっただろう?アイツが鞄を開けて十字を出したとき薬草の匂いがしたんだ。それから毒浄化の薬の小瓶も見えた。」
「でも、神父様も使うかもしれないでしょ?」
ライリーの問いにエルは首を振った。
「仲いい神父がいるんだけど、そいつが女神の祝福が一番効くから劣化品は持ち歩かないんだって言っててね」
それからしばらく歩いて、時間差でふと気付いた。どうしてアキラは"神父の証"を知っていたのだろうか?私ですら聞いたことがないというのに…。
「そういえばアキラ、どうして"神父の証"を知っていたんだ?」
私は恥を忍んで聞くことにした。
「あー、アレね、でまかせだよ」
そう言ってアキラは笑った。
「前にルカの紹介で教会に行ったとき、『証なんてない。信じられないなら証拠見せてやろうか』って言われてね」
「それ、多分同じ奴だ。ソイツから聞いたんだよ。骨折は女神の証拠以外治せないこと。『骨折って治せばそれが証明だ』ってね」
その話を聞いて、ショウが分かりやすく嫌な顔をした。
「なんだその神父…。俺ソイツ苦手かもしんねぇ…」
「すまないが、今から行く教会はソイツの教会だぞ」
バロンがそう言うと、ショウはさらに眉をひそめた。
「すまない…」
エルがそう呟くとショウは慌てて
「あっいやそんなつもりじゃ…。そ、それよりそこまでは近いのか?」
と無理矢理話を変えた。
「いや、少し遠いな。王国の近く、"聖なる森"の入り口にあるんだ」
「僕も行ったことあるぜ!…ここからだと1日くらいかかるんじゃないの?」
アキラが私の方を見てそう聞いた。
「そうだな…。森の奥まで来てしまったから…」
私がそう言うとショウは先を歩いていたライリーとエルを止めた。
「まずちゃんと止血をしよう。それから固定も。」
そう言ってショウはエルを座らせ、袋から包帯と太い枝を取り出した。
「相当な魔力を込めて射ったろ?魔力が留まってるぜ。おい!俺を近くに連れて行け!!」
突然ヤポンがそう言って、身体を激しく揺らした。
アキラがヤポンをエルの傷口に近付けると、ヤポンが魔力を吸い込みだした。
「俺はアスタナドラコの魔力で出来てるからな、アイツの技が少し使えるんだ!魔力が留まってると爆発しちまうかもしれねぇからな!」
ヤポンがドヤ顔をしている…気がする。
一通りの手当てをした後、ショウがエルをおぶった。
「俺先行くから、誰か一人道案内してほしい」
「なら私が行こう。3人はゆっくり来てくれ」
そうして私とショウは一足先に教会へエルを連れて行くことになった。
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