第18話 ヤポン

__森の奥にある洞窟を進む一行。魔物と出会うも難なく倒し、さらに奥へと進むが__


しばらく歩くと、広い場所に出た。上から陽の光が指す、明るい場所だ。

「畑みたいな場所だな」

バロンがそういいながら進むと突然

「イタタタタ!!踏んでる!踏んでるよ!!さっさと足をどけな!!!」

と声がした。私達は顔を見合わせた。


みんなの視線がエルの方に向いた。

「えっ!?誓ってアタイじゃない、やめてくれよ」

エルは慌てて否定した。

「いつまで踏んでるんだい!!下だよ下!!!」

その声にみんなが視線を下へずらした。


バロンがそっと足をどけた。しかしそこには草しか無かった。ショウが突然「あっ」と言ってその草を引っこ抜いた。

「何しやがんだい!俺ぁただ生えてただけじゃねぇか!!」

怒鳴りながら出てきたのは目口の着いた野菜のようなモンスター、ヤポンだった。


「大根じゃん」

アキラがそう言った瞬間、

「誰が大根だ!…え?ダイコンって何だ?」

そうヤポンがツッコんだ。

「すまんすまん、野菜と言われ続けた俺たちの悲しいサガだ。それでダイコンって?」

アキラとショウは顔を見合わせた。

「「野菜だけど…」」

2人が同時にそう言った途端

「誰が野菜だ!!」

と、またツッコミの声が上がった。


「コイツがヤポンってやつか?」

ショウがエルとライリーの方を見ながらそう聞いた。

「ええ、それがヤポン、モンスターの一種よ」

「ダイコンオロシにするか?」

エルの提案にショウは「止めておくよ」と苦笑した。


「お前らこの先へ進むのか?」

「ええ、ボスを倒して帰らなきゃ意味がないわ」

ライリーの回答にヤポンは暗い声で「そうか」とつぶやいた。

「お前らなんて俺の知ったこっちゃないが、俺のせいで死んじまうのも後味が悪ぃからな。特別に教えてやる」

やたらと"特別"を強調した後、ゴホンと咳払いをした


「いいか、洞窟ってのは大体住んでる魔物やモンスターの種類が同じなんだ。ここはアスタナドラコの住む洞窟だ。すでにあっただろう?」

「あの魔力でできた魔物か?」

「御名答!つまるところ、ここのボスもアスタナドラコの一種なんだが…、少し特殊でな。特別変異って知ってるか?」

ヤポンの問いにみんなが顔を見合わせた。


「何らかの原因で突然変異した個体だろう?」

バロンの答えにヤポンは体を揺らした。

「そうさ!ここのボスはアスタナドラコの特別変異なんだ。魔力を吸い込む厄介なやつだ。もう何人も死にゆく奴らを見てきた。引き返したほうがいいぜ」

ヤポンの言葉にライリーが首を傾げた。

「"魔法を止める魔法"は聞かないの?」

「唱える前に魔力を吸われてオシマイさ。魔力を込めて倒すことも、魔法で倒すことも出来ない。」


「どうやって倒すんだい?弱点とか…」

エルがそう聞くとヤポンの色が突然青くなった。

「すまないな、俺はアスタナドラコの魔力で出来てるんだ。言っちまうと消されるんだよ」

「それは…、ボスを倒したらアンタはどうなるんだ?」

「恐らく消える。いや、正直そんなことないから分からない。ただ俺は魔力で出来てるから…。」

そう言うとヤポンは何かハッとしたような顔をした。

「俺を殺したければボスを倒すか、本体を踏みつぶすかの2つだ」


再び私達は顔を見合わせた。みなの頭に?が浮かんでいる。

すると突然バロンが「あっ!」という驚いたような声を出した。

「すまない、助かったよヤポン。」

バロンの言葉にヤポンは体を左右に揺らした

「良いってことよ。無事に戻ってこいよ!」


再びヤポンを土に戻し、私達は進んだ。

「ねぇ、何がわかったの?」

ライリーがバロンに聞いた。

「ヤポンは魔力で出来ているんだ。そしてここのボスも…。」

そういうとアキラが「あーっ!!」と叫んだ

「わかった!ボスの体を潰すんだ!!」

バロンが「そういうことだ」というとライリーは

「ねぇ、どういうこと??私にも共有してよ!」

と怒った。


「ヤポンは"自分を殺すなら"という建前でボスの倒し方を教えてくれたんだよ」

ショウがそう教えるとライリーはハッとした。

「なるほど…。優しいモンスターもいるのね」


それからまたしばらく道を進んでいった。

[あそこにいるわ。…潰して倒すってどうやるの?]

みんなの視線がそっとバロンの方へ向いた。

[わからないが…やってみるよ]

そういうとバロンは魔物の方へ静かに近づいた。


バロンは跳び上がると上から思いっきり踏んだ。

「コイツ、テッペンだけ実体があんぞ!」

バロンがそう言った。エルがバロンのもとへ走り、テッペン目掛けて弓を射た。

弓に当たった途端、魔物は苦しそうな声を出し暴れ出した。

「弓も当たる、これならボスも倒せる!」


その後何度か魔物と戦い、そしてとうとう最奥へ着いた。

「開けたらアタイとバロンが気を引くから、ショウはどこか上に登って弓を射てくれ」

エルの言葉にショウは頷いた。

「僕もバロンに着いていかせて」

アキラがバロンを見てそう言った。バロンは少し考えてから頷いた。


「私はどうすれば…?」

「魔力を吸い込むのが本当なら、ライリーの魔法もルカのバリアも逆効果だろう。それからアンタの治癒も。」

エルは冷たくそう言われたファルシュは

「では私はここで待機しています。ここなら恐らく範囲外でしょう。怪我をしたらここへ来てください。」

と言った。


「私近くで見てる。もしかしたらどこかで魔法が使えるチャンスが来るかも知れないから」

「なら私もライリーのそばにいるよ。」

エルは少し考えて頷いた。

「怪我するんじゃないよ」

エルの言葉に私とライリーはそっと頷いた。

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