第16話 嫌な予感
__エアスト村の神父をやっているという男、ファルシュと出会った。共にモンスター退治を済ませ、彼を残りの仲間に会わせるため、帰路についた__
「あれ、村の人を特訓するって聞いてたけど…」
3人しかいない広場を見て、アキラがそう呟いた。
その時、私達に気付きエルがこっちへ歩いて来た。
「モンスター退治は済んだのかい?」
「ああ、あらかた倒した。奥の方になにかいそうではあったが…」
ショウの説明を聞いてエルは頷いた。
「何がいるかわからない。みんなで動いたほうが良いだろうね。」
「それで戻ってきた訳だが…。そっちはどうだったんだ?」
ショウの問いにエルは少し悩んでいた。
「正直に言うと誰も来なかったんだ。いや、正確には一人来たかな。『門がある限りモンスターに襲われることはない。無駄な努力をさせたいなら戦って勝つことだ』ってね」
「それで戦ったのか…?」
「まさか!チャンスを無駄にして死にたいっていうやつらのためにそこまでしてやる義理はないだろ?」
「私は戦おうって言ったのよ?なのに2人とも嫌だとしか言わないの。2人は村の人が死んじゃってもいいのよ」
ライリーは少し怒っているようだった。
「村の周りのモンスターを一掃したなら、しばらくは平和にやっていけるだろう。それより見慣れないやつがいるが…?」
バロンがファルシュの方へ目を向けた。
「はじめまして、ファルシュと申します。エアスト村の神父をしております。ぜひ皆様のお仲間に入れていただきたいと思っております」
「へぇ、神父ってことは治癒の専門家だ。さっき3人で訓練していた時に怪我したんだけど、今すぐ治せるのかい?」
そう言ってエルが雑に包帯の巻かれている腕を見せた。
「ええ、もちろん。今治してみせましょう。包帯は外させてもらいますよ?」
そう言ってファルシュはエルの腕に巻かれている包帯を外した。それから鞄から十字架を取り出した。
「女神よ。貴女の祝福を、今授け給え」
彼がそう言ってエルの腕をそっと撫でた。撫でられた腕から綺麗に傷が消えていた。
「へぇ」
初めて神父の治癒を見たのだろう。エルは口元に手を当て、感嘆の声を漏らした。
「貴方はこの村の神父なんだろう?何故私達の仲間になりたいんだ?」
バロンの質問にファルシュは少し考えて、
「私の母は病で亡くなりました。だから神父になろうと思ったのです。そして神父になった矢先、父が魔物によって殺されたのです。ですから魔王を倒して仇を討ちたいと思っておりました。そんな時に貴方がたのお噂を耳にしたのです」
と話した。
「亡くなったご両親のためなのね…。私は治癒ができる、ファルシュが仲間になってくれたら安心だわ」
「俺は…、どうだろうな。なにかいい判断材料があればいいんだが…」
「私もショウの意見に同感だ。少し様子を見たい」
「私は彼を信じたい。だけど2人の意見も正しいと思う。エルとショウはどうだ?」
私の問いに2人は黙ったままだった。しばらくしてエルが
「はっきり言うよ。アタイは反対だ。治してもらって申し訳ないけど、信用できない。それはこれからも変わらないと思うよ」
と言った。それにアキラも頷いた。
「なにか嫌な予感がしたんだ。僕も反対かな」
賛成はライリーだけ、反対はエルとアキラ。あとはみんな"決めかねている"というのが現状だ。まぁ初対面の男だ。仕方のないことだろう。
「でしたら森の奥の退治に私も連れて行ってください。危険な場所ですから、きっと私の力が役に立ちましょう。その後に私の所存を決めてください」
ファルシュの提案にみんなが頷いた。
明日の待ち合わせの詳細を決め、ファルシュと分かれ宿へ戻ることになった。
「ねぇエル。どうして反対なの?治してもらったのに」
「これといった根拠はまだ無いからね…。明日、教えてやるよ」
エルはそう言って一人、先に部屋へ戻ってしまった。
「死んだ両親のために生きるなんて、簡単なことじゃないわ。なにか手伝えるのなら手伝ってあげたいじゃない」
ライリーがそう呟いたその言葉に私も頷いた。"嫌な予感がする"といったアキラが反対するのはまだわかるが、何故エルがあそこまで否定したのか私にはわからなかった。
しばらくの間、私たちは宿の食堂で談笑していた。
「明日森の奥に行くから、少し地図かなんかを調べてくるよ。誰か着いてくるか?」
突然そう言って、バロンが席を立った。
「僕も行く」
そう言ってアキラがバロンの後を追った。
「明日彼をどうするか決める時、どう決めるのが良いのかしら?」
2人を見送ってからライリーがそう聞いた。
「きっとエルは反対するでしょう?なら全員一致らしないってことよね?」
私たちはしばらくの間、ライリーの問いについて考えた。
「うーん…。多数決で決まったら、エルは納得すると思うけどな」
「そうかしら?エルは結構頑固よ?」
「でも彼女も大人だからな」
私の言葉にライリーは「そうかしら…?」と呟いた。
「まぁ、ああ言っても明日になれば賛成してるかもしれない。もしかしたら反対の方が多いかも。こういうことは考えても無駄だよ」
ショウがそう言ったのにライリーも「それはそうね」と言い、私たちは考えるのを辞めた。
その後私たちはしばらく談笑を続けていたが、私は明日アキラの言う通りなにか嫌な事が起こる気がして無性に心配になってしまった。
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