第14話 はじまりの日③

__王の愛称と、エアスト村での方針を決めた一行。決め終わるや否やライリーが宿の扉を勢いよく開けた__


「あら、いらっしゃい。あなた達運がいいわね、ちょうどさっき大部屋が空いたのよ」

そういって宿の店主が私たちを迎えた。

部屋は男女で別れ、2部屋借りることになった。


「俺手前のベットにする」

「えっ!じゃあ僕端っこがいい」

「全部四隅に置いてあるよ」


バロンとアキラが話しているのを眺めていると、

「ルカは参加しなくていいんです?」

とショウが聞いてきた。

「ショウがどう思っているかわからないが、私は今年で28だよ?」

私がそういうとショウは「そうですか」と一息置いて、

「私は今年で35になりますが、参加してきますね」

そういうと2人のそばに行ってしまった。


結局ベットは窓側を私とショウ、廊下側をバロンとアキラが使うことになった。

丁度その時、扉がそっと叩かれた

「宿の人がそろそろ晩御飯だから食堂に来てくれって!」

ライリーとエルが私たちを呼びに来た。


晩御飯は白米と焼き魚と味噌汁だった。

「コレ、何の魚なんですか?」

「フクスナだよ。この近くで捕れるのは珍しいからね、今日はごちそうだよ」

アキラに聞かれた店主が自慢げにそう言った。


「サンマみたいな味がする」

「あっ、僕もそう思った!大根おろしが欲しくなりますね」

アキラとショウの会話にみんな首を傾げていた。

「ねぇ、サンマって?ダイコンオロシって?」

ライリーの問いに2人は少し悩んでいた。


「サンマって秋の刀の魚って書くんだ。文字通り刀のように鋭い見目をしていてね」

ショウの説明にライリーは眉をひそめた

「書くってどういうこと?」

「漢字だよ」

「カンジ?」

2人の会話がやけにすれ違って…というより何一つピンとくるものがないのに少し違和感を覚えた。


「2人は勇者サマとして召喚されたんだろ?そっちの世界独特の文化とか、そういうのがここにはないものなんじゃないか?」

エルがそう言ったのを聞いて、私はハッとした。

「言語が違うから、召喚された勇者は女神様の施しとして聞く・読む・書く・話すができるようになるらしい」

私がそう言うと2人は驚いていた。

「無意識の内に、外国語を話していたのか…!」

「アキラ、嬉しそうね?」

「だってかっこいいじゃないか、バイリンガル。」

アキラは目を輝かせながら嬉しそうに言った。ライリーはそれにただ戸惑っていた。

「バイ…、なに?」

「バイリンガル。多国言語を話す人のことさ」

「3、4、5、それ以上に応じて変わるよ。バイリンガルは2言語だな」

ショウの補足にアキラはムッとした

「響きがかっけぇからいいんだよ」


「この世界は一つの言語しかないから、バイ……それになれるのは2人だけだ」

仲裁するようにバロンがそっと話を戻した。

「世界に2人だけ!いいなそれ」

バロンの言葉にはしゃぐアキラを見てみんなが笑った。2人の会話を聞いていると彼がバロンの一つ下だということがにわかに信じれないなと思った。


「それよりも!!」

突然ライリーが話を遮った。

「結局サンマとダイコンオロシってなんなの!?」

何か考えているなとは思ったが、まだそれを気にしていたことに少し苦笑した。

「ライリーは本当に好奇心旺盛というか、知識欲の塊だね」

エルが苦笑気味にそう言った。魔女の子が知識欲に溢れているのは良いことだが、ライリーはそれを逸している気がする。


「この世界に大根はあるのか?」

ショウの問いにバロンが首を傾げながら答えた

「ないはずだ。近しいものはあるかもしれないが」

「白くて太長い根野菜なのだが…」

「あぁ、それならヤポンが近い…かな?あまり強い味はしないし、硬いんだけど、コレくらいの長さで」

エルがそういいながら手を50cmくらいに広げた。

「恐らくそれが近いな、それをすりおろすんだよ。それから醤油をかけて食べるんだ」

ショウの説明にライリーが首を傾げた。


「目と口も一緒にすりおろしちゃうの?」

「おい、待て。ヤポンには目口があるのか?」

エルとライリーが無言で頷いた。

「モンスターの一種だからな。」


その後もライリーかショウユについて聞いたが、アキラもショウも詳しい説明を諦め、「俺たちの国の伝統調味料さ」と言い、その後すぐに話をそらした。


「明日から討伐と訓練を始めるんだよな?」

ショウの確認にライリーが頷いた。

「なら少し早いがもう休むよ」

「それがいい、結構歩いたからね。アタイとバロンは今から酒場に集客しに行こうか?」

エルの言葉にバロンは渋々頷いた。

「じゃあ私、エルが帰ってくるまでみんなの部屋にいても良い?」



その後1時間ほどしてエルとバロンが帰ってきたが、その時にはバロンのベットでライリーが寝てしまっていた。

「戻るように言ったんだが嫌だと断られてしまってな」

「まぁ仕方ないね。こんな時間だからな」

えるにそう言われて私は時計を見た。とっくに12時を回っているのを見て、無理をさせてしまったのではないかと少し不安になった。


「アタイが抱えて戻るから、誰かドアを開けてくれるかい?」

「なら私が行こう」


扉を開けて2人を通した。

中に入ったエルがそっとライリーをベットに置いた。

「ありがとうね、じゃあおやすみ。」

「あぁ、おやすみ。いい夢を。」

そういって部屋に戻った。


部屋は真っ暗になっていて、バロンのベットのそばにある小さなライトだけが点灯していた。

「アキラも眠そうだったから電気消したんだ。ショウは既に寝てたしな。俺ももう寝る…」

バロンの少し眠そうな声に思わず笑みがこぼれた。

アキラを幼いと思ったが、バロンも似ているところがあるのだな。

私は「おやすみ」と言ったが返事がなかった。

どうやら話している最中に寝てしまっていたようだ


私はそっと1つだけ灯ってるライトを消した。

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