第13話 はじまりの日②

__エアスト村に到着し、謎のしきたりに従いツワモノに勝った。入村を許され一行はひとまず宿を探すことに__


「それにしてもまぁ、ずいぶん荒れた村だね。本当に宿なんてあるのかい?」

「どんなにふざけた村でも宿くらいきっとあるわ」


「こんな村、初めて見たな…。これ全部モンスターがやったのか…?」

「いや、村を囲う塀にはあまり傷はついていなかった。中に住む人がやったものだと思う」


みな口々に村の話をしだした。

私は何気なくバロンの方を向いた。何やら考え事をしているようだ


「アルヴィン、ここなら今すぐにでも支配できますよ」

しばらくしてバロンが神妙な顔をしてそう言ってきたので私は慌てて止めた。いったい何を言っているんだ…


エアスト村の荒れ具合を見て、みんなが宿を探すのを完全にやめていた。バロンに至っては「ここが叩き目だな…」などと本気で制圧する気でいた


パンッと私は音を立てて手を叩いた。

「ゲームをしよう。先に宿を見つけた者が勝ちだ」

「勝ったら何かもらえるのかい?」

「そうだな…この村にいる間の方針は勝者に任せよう。」

「方針?」

「建物の修復の手伝いをとるか、近くのモンスターを退治するか…まぁ主に何をメインに活動するかの判断だな」

「宿を見つけたら勝ちなのね?もう目処は立っているわ!」

一通りの会話の後、ライリーがそう言って走っていってしまった。



私は特に目処も立っていないので、とりあえず村民に聞くことにした。

「どこか泊まれる宿はありますか?」

「泊まれる宿…か。いいだろう、私に勝てば教えてやる!」

村民はそう言うと木刀を抜いて襲ってきた。


私は慌ててバリアを張ってそれを跳ね返すと、持ってきた剣を鞘ごと腰から外した。

「これもしきたりなのか?」

「そうだ!」

彼はそういうとまた襲ってきたので、今度はそれを剣で跳ね返し、彼の顔前に突き出した。

「これで満足だろうか?」

私の問いに彼は笑顔で頷いた。


彼から話を聞くとどうやら村が荒れたのはそのしきたりのせいらしい。

この村では以前より村長がよく変わっていた。そして変わる度にしきたりを塗り替える。此度村長が命じたしきたりは[戦え、勝者の要望だけが通る]というなんともシンプルな一文だけだったらしい。


「なるほど。最後に宿について聞いてもいいか?」

「もちろん。ではもう一戦だ!」


結局宿を聞き出すまでに8回も戦った。

そしてやっと村唯一の宿に辿り着いたが、その時にはみな集合していた。


「誰が最初に辿り着いたんだ?」

私がそう聞くと、みなの視線がライリーに集まった

「私よ!」

ライリーが嬉しそうにそう言った。


「だいぶ早かったよね。僕は3回で聞き出せたんだけど、その時にはもういたし…」

「1回戦わされたのに教えてくれなかったから脅したのよ。言わないとコレで消すわよって」

ライリーはそう言って杖を撫でた。15歳の少女がもう交渉術を得ているのかと嬉しくなったが、他のみんなの顔は少し曇っていた。


「で、どうする?私としては早くここを出るか、制圧したいのだが…」

バロンが真面目な顔をしてそう言った。どうやらこの村とは合わないらしい。

「モンスターの被害がひどいんでしょう?ならまずは近くに住むモンスター達を一掃しちゃわないと」

どうやら今はライリーの方が大人らしい。


「でも、結局また別のやつらが住み着いてしまうんじゃないか?」

アキラの質問にライリーは「確かに…」といって考え込んだ。

「ここの人たちみんな、喧嘩っ早いくせに弱いのよね」

ライリーが不満を漏らす。

「彼らが強くなってくれればいいんだけど…」

ショウの呟きを聞いて、ライリーがショウを見つめた

「それよ!強くなってもらえばいいんだわ!ね、バロン!!」

呼ばれたバロンは明らかに嫌そうな顔をしていた


ライリーの組んだ方針はこうだ。

我々は2つに分かれ、片方は近くに住まうモンスターを一掃する。もう片方は村の者を集めて戦い方を教える。



「人に教えられるくらいに武器の扱いに長けてる人が残らないと意味がないわ」

そう言ってライリーは拾った枝で地面に一本の線を引いた。片側にスライムの絵、もう片側に剣の絵を描いた。


「俺達は教えるなんて無理だからこっちにしてくれ」

そう言ってショウがスライムの絵を指差しアキラの方を見た。アキラもそれに頷いた。


「アルヴィン様…じゃなかった、えっと…ダメだわ、呼び方がわからない。」

ライリーが眉をひそめた。

「わかる。王様だから呼び捨てにするのはなんだか気が引けるし…」

アキラがそう言ったのを聞いて、ショウが頷いた。


「"ルカ"ならどうだ?」

3人の会話を聞いてバロンがそう提案した。「なんで?」と不思議がっていたから付け足した。

「私の名はアルヴィン・ロワ・モナルカだからな。エルの愛称と同じ感じだ」


3人が呼び方に納得したようで、再び作戦会議に戻った。

「私は人に物を教えるのがどうも苦手でな。出来るなら討伐の方が良い」

「わかったわ!ならアキラ、ショウそれからルカがモンスター退治に。私とエル、バロンが教える約ね!」


「なら宿で少し休んだ後、酒場に行って話してくるよ。酒場で話した事は翌日には村全体に広がってるってさっき聞いたからね」

エルの言葉にバロンも頷いた。


「じゃあ宿に入りましょ!」

ライリーがそう言って勢いよく宿の扉を開いた。

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