第12話 はじまりの日①

朝、集合時間の30前に城前に着いた。

その時にはすでにバロンとエルが着いていて、2人で談笑していた。


バロンは討伐に行く格好よりも動きやすそうな服装で盾と剣を背中に携えていた。

「荷物はないのか?」

そう私が聞くとしばらく考えた後、

「現地調達でいいかと思いまして」

そう言って笑った。


エルはいつもの格好に加えてフードのついたマントを羽織っていた。弓を背負い、矢と短刀を腰に携えている。ふと。足元に目をやるとヒールのついたブーツを履いていることに気付いた。

「歩きにくくないか?」

私がそう言うと

「慣れているからね」

といった。


それからしばらくしてアキラとショウが、今朝使用人に渡すよう頼んでおいた服を身にまとって来た。

その後すぐライリーが小走りでやってきた。


「一つ頼みがあるのだが…」

私がそう言うとみんながこちらを向いた。

「国王が城にいないことがバレるのは分が悪い。それに私のせいでみんなを危険な目に合わせたくない。だから冒険の間は私のことを普通に名前で呼んで欲しい」

「後で不敬罪で捕まえられたりしないだろうね?」

私の頼みを聞いてエルが笑って言った。

「そんな薄情なヤツに見えるかい?」

少し焦ってエルにそう聞いたがエルはただ笑うだけだった。


「私はずっとアルヴィン様って呼んでるわ」

ライリーが上機嫌でそう言った。

「呼び捨てで、対等で構わないよ」




そうして私達はエアスト村に向けて歩き出した。

しばらく歩いていると突然、「そうだ!」とライリーが立ち止まった。

「見て!朝お母さんが新しい杖をくれたの!」

そう言ってライリーが新品の杖を嬉しそうに掲げた。

「見せてごらん」

エルがそう言うとライリーは「どーぞ!」と言って杖を渡した。

「へぇ、いい杖だ。ライリーのお母さんも魔法使いなのかい?」

エルの言葉にライリーは驚いていた

「何でわかったの?えぇ、私のお母さんも魔法使いよ!」

エルはそっと微笑んでライリーに杖を返した。


ライリーはエルが教えてくれないことにさらに驚いて何度も「どうして?なんで?」と言い続けた。

ついにエルが折れてため息をついた

「アタイは武器商人に育てられたからね。いい武器かどうか、見分けがつくんだよ」

「それと同関係があるのよ」


エルはしばらくライリーの顔を見つめていた

「なんでって…その杖に魔法が込められているからさ」

しばらくして放たれたエルの言葉に、ライリーはまた驚いた

「魔法が!?どんな魔法なの?どうして杖に?何でお母さんが込めたってわかるの?」

「アンタ…気になることが尽きないね」

エルが必死に「教えて」とせがむライリーを見て笑いながら言った。


「防御魔法の一種だよ。アンタの事を心配して、杖に込めたんだろうね。アンタの使う魔法の波形とひどく類似しているから、そう思っただけさ」


エルの説明に「なるほど…」と呟きながらライリーは自分の杖を眺めた。



「僕たちの向かう…エアスト村はどんなとこなんですか?」

アキラの問いにエルとバロンはしばらく唸っていた。どんな村…か。恥ずかしい話、私は王国の外の村のことはあまり把握していないのだ。


「森に近いからモンスターの被害がひどいというのはよく報告に上がるが…」

「アタイも"今のエアスト村"はよく知らないや」

2人とも眉をひそめながらそう答えた。

「"今の"って、どういう意味だ?」

エルの言葉にショウが首を傾げた。


「よく変わるんだよ。法とか、文化とか、他にもいろいろ」

「ついこの間まで鎖国だと言って、部外者の入村を一切拒んでいたからな」

「今はもう止めたみたいだけど、なんかまた変なルールが出来たとか出来てないとか…」

2人の話にみな口々に感心の声を漏らした。



そうこうしている間に、ついにエアスト村の門前に着いた。

「ここがエアスト村ね!…思ってたより小さいのね」

ライリーがそう呟いた途端、門の内側に立っていた人がこちらに気付いて振り返ってきた。


「お前たちは誰だ?一体なんの用があってここへ来た?」


みんながそれぞれに顔を見合わせた。

「我々は魔王討伐を目標とする、一介の冒険者だ。モンスターの被害が後を絶たないと聞き、ここへ来た」


バロンの言葉に門番は少し何かを迷った後、

「今呼んでくる。そこで待っててくれ」

そう言い残して去ってしまった。


「呼んでくるって誰をかしら?」

ライリーの問いにみな首を傾げた。

「鍵を持っている人が限られている…とか?」

アキラの答えにバロンが小さく「なるほど…」と呟いた。


しばらくすると、さっきの門番と共にえらく恰幅の良い男が現れた。

「冒険者よ、待たせたな」

恰幅の良い男はそういうと門を開けた。


「さぁ、私を倒せばここを通そう。誰からでもいい。自由にかかってこい!」

そう言って恰幅の良い男がスッと構えた

「倒すって誰を?かかってこいってアンタにかい?」

エルがこめかみを抑えながら恰幅の良い男にそう聞いた。


「この村に住むツワモノを倒せるものだけが入村出来るのです。それがこの村のしきたりなのです」

門番がそう説明した。

門番の説明を聞いたバロンが「そうか」といって一歩前に出た。

「なら私に任せてくれ」

そう言って近くに生えていた木の枝を剣で切り落とした。


バロンはその少し太めの枝をスッと構えた。

そうしてただ歩くようにまた一歩前へ出た。


一瞬、瞬きをした間に、気付けばバロンは恰幅の良い男の後ろに立ち、首元に枝を突き付けていた。

「これでいいか?それともちゃんと気絶させるのが礼儀か?」


バロンの言葉に恰幅の良い男が顔を青ざめさせながら首を振った。門番はただ呆然としている。


門番はしばらくぼーっとバロンを見つめていたが、突然ハッと我に返り

「みなさまどうぞ中へ。まだ再建中ですが、今夜は新村長の就任式でお祭りも開かれますよ。ぜひ楽しんでいってください」


私達は門番に言われるがまま門を抜け、ひとまず宿を探すことにした。

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