第11話 登録テスト

__冒険者ギルドに登録することになった一行。登録はギルドの指定するテストを受けなければならず、一行はテストを受けるため森へ向かう__


「ここがテスト会場です。テスト内容はモンスターを5匹倒しここへ戻ってくることです。こちらの鈴を5回鳴らしていただくとリタイアとし、係の者が救助に向かいます。一人ひとつ渡しますので無くさないようお願いします。」

試験管は淡々と説明をし、最後にベルを渡した。

「時間は1時間、協力等は皆様のご自由です。それでは試験開始です。ご武運を。」

そう言うと手に持っていたタイマーのスイッチを入れた。


「みんなで行っちゃあ時間がかかるだけだ。3つに別れよう」

エルの提案にみんな賛成した。

「すまないが、私は国王と行かせてくれ」

「じゃあライリー、ショウを任せていいかい?」

「もちろんよ!私に任せて!」

「頼んだよ」


そうして私とバロン、エルとアキラ、ライリーとショウに分かれ、森へ入った。

私とバロンは順調に3匹倒したところでエル達と出会った。


「なんだせっかく別行動したのに出会ってしまったら意味ないじゃあないか」

エルが笑いながら言った。

「僕たちはこれで4匹目です。そちらはどうですか?」

「私達はこれで3体目だ」

アキラの問いにバロンが答えた。その後すぐ、バロンが後ろを振り返った。

「今、何か居なかったか?」

「いや。アタイはなにも感じないよ」

エルの答えにそうかと呟く。


しばらく共に森の奥へ進むと、突然エルが振り返った。

「バロン、さっきあぁ言ったけど前言撤回だ。何かいる。それも大きな…」

エルが言い終わる前に近くから悲鳴が聞こえた。


私達は慌てて声の方へ向かった。

…がそこには誰も居なかった。

「てっきりライリー達に何かあったのかと思ったんだけど…」

エルがそう言いながら辺りを見渡す。

森の奥に行けば行くほど、強く賢いモンスターが住んでいる。気付かぬ内に遠くまで来てしまったようだ。

「どうせなら6体くらい出て欲しいね」

エルが呑気なことを言った瞬間、近くからスライムが飛び出した。


スライムが地面に着地するよりも前に反射的に剣を抜いたバロンが切り刻んだ。

「スライムは何度か斬らないと死なないけど…さすがにそれはやりすぎじゃあないかい?」

エルが細切れになってしまったスライムに目をやりながら呟いた。

「すまない。少し警戒しすぎているな」

バロンがそう言った瞬間、地面が揺れ、少し遠くにまたスライムが現れた。


たまたま近くにいたアキラが5匹目を倒した。

「1人で戻るのは危ないから、みんな終わるまでそばにいてくれ」

バロンの言葉にアキラは頷いた。


その後また何体かスライムが出てきた。ソイツらは私とバロンが1体ずつ倒した。

もう1体いるはずだが姿が見えない。見間違えたのだろうか…?


「やけにスライムが出るね。あと一匹出てきてくれば試験は終わるのにな」

エルがそう言った。ここはスライムの住処の近くなのだろうか…?

そう思った途端、周りの草がガサガサと揺れた。


姿を見せたのはスライムではなく、大きい虎のようなモンスターだった。

「やはり罠だったか…。」

バロンが呟いた瞬間、エルが叫んだ。

「みんな逃げろ!!」


エルの声でみんな来た道を走った。モンスターはしつこく追ってくる。

「もっと速く走って!追いつかれちまうよ」

エルの声でみんなさらにスピードを上げた


私はエルの声が遠くから聞こえたような気がして後ろを振り向いた。

エルはもう走っていなかった。ただ虎のようなモンスターと睨み合っていた。

みんながそれに気付き、戻ろうとした。


「アタイはまだ5体目を倒していないからね。コイツを5体目にするよ」

そう言って虎の方へ走った。


エルの戦う様は実に見事だった。


虎が前足を振り下ろした瞬間、高く跳び、まず弓で目を狙った。

片目を潰された虎がデタラメに攻撃を繰り返す。

その攻撃を全て避け、背中に乗ると虎の首に短刀を刺した。刺された虎はエルを振り降ろそうと暴れた。エルは虎の首から剣を抜き、飛び降りながら3発矢を射た。

虎はエルを目掛けて飛び上がったが、エルは虎の下に走り、魔力を込めて矢を放った。

放たれた弓はありえないほど速く、一瞬で虎の心臓に刺さり、虎は動かなくなった。


エルは矢を全て回収しながら

「これでみんな試験は終わりだ。戻ろうか」

と言った。


「あの虎みたいな奴は何だったんですか?」

「アレはここに住み、人間を呼び寄せるモンスターだ。スライムが沢山出て来たが、恐らくアレは虎の仕業だろう。」

アキラの問いにバロンが答えた。

「試験に来たやつを狙って、悲鳴とスライムで呼び寄せてから人間を殺す。悪賢い奴さ」

エルが付け足した。


「じゃあ、あそこで戦っていたらスライムが出て来たってことですか?」

アキラの問いにバロンとエルは頷いた。

「虎と応戦して、周りに沸いたスライム達に殺される。残念ながらかなりの数がその罠に掛かっているよ」

バロンの言葉にアキラは絶句した。こんなモンスターがうじゃうじゃいるとしたら、ライリー達は大丈夫だろうか…?


私達が試験官のもとに戻ると、なんとすでにライリー達が待っていた。

「森の入り口近くを往復して、スライムを5匹ずつ倒して戻ってきたの」

「悲鳴が聞こえましたが…」

「あんな悲鳴4人は出さないし、近くにいる誰かが助けるわって私が言ったの。任せてごめんなさい、誰かいた?」

「いや、罠だったよ。2人の判断は正しかった。さすがだよ」


突然ピーっと音がして私達は会話をやめた。

「時間です。お疲れ様でした、全員合格です。ギルドに帰りましょう。」



私達はギルドに戻り、手続きを全て終えた。

「これで手続きは全て完了です。それからこちらがチーグルヴィスチェの討伐料です。回収もこちらで完了済みですが引き取られますか?買取も可能ですが…?」

「あんなでかいの回収したのかい?」

試験官の言葉にエルが驚きの声を上げた。

「買い取ってくれると嬉しいよ」

エルがそう言うと試験官は金貨の入った袋を追加した。

「チーグルヴィスチェの討伐料は金貨15枚、買取料は金貨30枚です。ギルドに預けることも可能です」


結局エルは買取料を預けることにして、ギルドを出た。ギルドから受け取った会員証を見せれば他の冒険者ギルドの利用も可能らしい。


チーグルヴィスというのは試験の最中に出会った虎のようなモンスターだ。



「貰った金でアキラの盾を買おう」

エルの言葉にアキラは驚いて、その申し出を断った

「アキラはバロンと同じ位置で戦うことになる。盾は必要不可欠になるよ」

「アキラ、エルはシーフだ。今買ってもらわないとコイツは盗んでくるぞ」

バロンが笑いながらそう言うのを聞いて、エルがバロンを蹴った。

「アンタは相変わらず失礼だね!アキラなら強奪物でもありがたく使ってくれるよ。な?」

「ちょっと2人とも!アキラがわかりやすく困ってるでしょ!アキラも遠慮なんてしなくていいのよ?だって私達は魔王を倒すでしょ?魔王の死体を持って行ったらきっと金貨30枚どころじゃないわよ」

ライリーの言葉にアキラは少し考えてから頷いた。

「エル、ありがとう」

アキラが礼を言うとエルは微笑んだ。


アキラの防具を買い、さっそく明日から発つ事になったので、夕日が沈んで間もないが今日はもう休むことになった。

エルは家に、バロンは兵舎に、アキラとショウは自室に戻り、ライリーは母を探すというので私も付き添うことになった。


5分ほど探したあと、ライリーの母を見つけた

「ソルシエールさん、今少しいいか?」

ライリーの母…ソルシエールさんは少し驚いて、頷いた。

「貴女の娘を、ライリーをしばらく私達に預からせていただいても良いでしょうか?」

私はそう言って、事の経緯を話した。

ソルシエールさんはひどく驚いてライリーの顔を見た。

「お母さんお願い!」

「そう簡単に魔王を倒すなんて出来ないのよ?志半ばに死んでしまうかもしれない。」

ライリーの言葉にひどく悩んでソルシエールさんはそう答えた。


「私、行かせてもらえないならきっと永遠に後悔すると思うわ。お母さん、私本気なのよ」

しばらく沈黙が続いた。

「わかったわ。ただし約束よ、絶対に生きて帰ってくること。良いわね?」

ライリーはもちろんと答えた。

「必ず私が、私達がライリーを生きて家に返します」

ソルシエールさんは私の顔を見て頷いた。

「王様が冒険に出るのは良いのですか?」

彼女の質問を私は笑って済ませた。


ライリーと分かれた後息子に会ったので、跡取りとして相応しいかのテストとしてしばらく国を任せるというと息子は自信満々に任せてと言った。



気掛かりだったことも、私がいない間の国のことも全て解決した。

明日はさっそく王国を発ち、まずはモンスターの被害を受けているというエアスト村を目指す。


私は部屋の電気を消した後も中々寝付けなかった。

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