第8話 特訓②

「魔法に慣れる特訓はアタイが見るよ」

エルがそういうと天清殿にクマのぬいぐるみを渡した。

「それは子供の魔力事故を防ぐためのぬいぐるみさ。優れもので一定以上の魔力を吸い込んでくれる。だから暴発なんて心配せずに好きなだけソイツに魔力を込めな」

エルに言われて、天清殿がクマに魔力を込めた。


クマは白い光を帯び始めた。

「もっと強くしても大丈夫だよ。その光の"揺れ"に注意しながら、限界まで込めてごらん」

エルの言葉を聞いて、クマが纏う光がさらに強くなった。そして光が揺らぎ始めた。


「ここでしょうか?」

心配そうに天清殿が聞いた。

「さっき限界を見たが、もっと激しく揺らぐよ」

私がそういうと天清殿は頷いて、さらに魔力を込めた。


光がいっそう強くなり、激しく揺らぎだした。

「そこ!そこが今のアンタの限界だよ。試しにもっと力を込めてごらん?」

天清殿が頷いたとたん、クマを纏う光が消えてしまった。


「止まっただろう?クマが限界を感知したのさ。ベア太郎はアンタにあげるよ。魔法を使ってくうちに限界も変わっていくからね」

「ベア太郎…?」

「さ、限界を覚えてるうちに実演に移るよ!」

天清殿の疑問をエルは無視して、竹刀を手渡した。


「次は武器に魔法を込める練習をしようか!」

エルがそういうと天清殿は顔をしかめた。

「なんだい、暴発が不安か?」

エルの問いに天清殿は頷いた。

「大丈夫。もし暴発してもアルヴィンサマがバリア張ってくれるよ。それに暴発する寸前にちゃんと止めるから」

天清殿はでも…と言ってエルの左腕に目をやった。

「なんだアタイを心配してるのか?昨日の傷は跡形もなく消えたよ」

そういうとエルは左腕を天清殿に見せた。

「王宮神父は治癒専門だからね。ウデは一流なのだよ」

エルは自慢げに笑った。


それでも天清殿は不安そうだった。暴発したのがよほどショックだったのだろう。

私は天清殿の周りにバリアを張った。

「私のバリアは当たった魔力を吸収する。不安なら当ててみれば分かる。これなら暴発しても当たる心配はないだろう?一度このまま魔法を込めてごらん?」

私がそう言うと天清殿は頷いて、竹刀に魔力を込めた。

天清殿の心配をよそに、魔力は安定して剣を覆っていた。私はバリアをといて、刃にだけ込めるよう言った。


一度コツを掴んだからか、その後も暴発することなく訓練は進んだ。

いつの間にか空が茜に染まっていたのに気付き、訓練を終えた。


「そうだアキラ!」

ショウ達が戻ってくるのを待っていた時、突然エルが大声を出した。

「アルヴィンサマがね…」

そういうとエルは天清殿に耳打ちをした。


天清殿がエルの顔を見て、エルが無言で頷いた。

「国王、僕のことも名前で…アキラと呼んでいただいて大丈夫ですよ」

と言いながら笑った。

「エル、気を遣わせてしまったじゃないか」

私がそういうとエルが笑った

「アルヴィンサマだけなぁんか距離が遠いなと思っていたんだ。ちょうどいいじゃないか」

エルの言葉に天清殿も頷いた。

私が気を使わせてすまないと言うと、アキラは笑って大丈夫だと言った。


しばらくして実戦練習をしていた3人が戻ってきた。

「かなり疲れた顔をしているじゃないか」

エルの言う通り、ショウの顔は疲れ切っていた。

「アルヴィン様、バロンったらひどいのよ?魔法は使いこなせも武器は話が別なのに、手加減ってものを知らないの」

ライリーの言葉にショウが何度も頷いた。

「飴を持たせれば自信につながるが、過剰になれば命を落とす。そういう仲間を見てきたからな」

「いくらなんでもあれはやりすぎよ!最初なんて竹刀を振ることすら出来ていなかったじゃない!」

バロンは笑って、話をそらした。

「そっちはどうだったんです?」


「魔力は安定して出せるようになったが、実戦となるとどうだろうね」

私の言葉にバロンは頷いた。

「今から武器を買いに行こう。そして明日の討伐で成果を見ようか」

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