第7話 特訓①

__光魔法が扱いづらいものであることを知った3人。ひどく落ち込む天清にバロンが特訓することを提案した__


翌日からバロンのもとで特訓が始まった。

天清殿は主に体力作りと魔法に慣れる練習、影内殿は魔法の精密度を上げる練習と武器を扱う練習をメインにすることとなった。


天清殿は今、ライリーとバロンに付き添われながら訓練所を走っている。

影内殿はエルに教わりながら、魔法を狙ったところに撃てるよう練習している。


私は影内殿に付き添うことにした。


2人のもとへ行くと、的の魔法に当たった跡がほとんど中央に命中しているのに気付いた。


「すごいだろ?訓練初めてものの数分でこうさ」

エルが自慢げに言った。

「ショウ、元の世界で魔法はさすがに使ったことがないだろう?なにか近しいものをしていたのかい?」

エルの問いかけに影内殿は少し考えて、しばしの沈黙の後口を開いた。

「上司に連れられてダーツを少し…」


「打ち込みの練習は大丈夫みたいだね、範囲攻撃の練習もしたいけどここじゃあ危ないし、次に行こうか」

エルはそう言って弓と剣を取り出した。

「ショウ、どっちをメインにしたい?」


影内殿が迷っているのをみて、エルが説明を加えた。

「弓は遠距離武器だから後方からの支援がメインだ。剣は王道武器。まとめて一掃できちゃったりもするよ」

「弓だと1人じゃ厳しいですよね」

「あぁ、"弓だけ"だとね。だからショウは2つともやるんだよ。前衛も後衛もお手の物にしておけば1人でもパーティー組んでも平気だからね」


影内殿はしばし会話を続けた後、剣を手に取った。

「本当は弓をメインにしたいけど、"勇者として"ならこっちのほうが絵になるだろ?」

エルはそんなに気にしなくていいと言ったが、影内殿が大丈夫だと言うのを聞いて、準備してくるといい去った。


しばらくしてエルが打ち込み台を持って戻ってきた。

立て終わるとすぐに

「ショウ!今日はコイツが壊れるまで打ち込み続けてもらうよ!」

と言った。

それを聞いた影内殿の顔は明らかに引き攣っていた。


「なぁに、普通にやれとは言わないさ。魔力を込めて、魔法の力を借りて打ち込むんだよ」

そういうと打ち込み台に持っていた竹刀を振った。

竹刀は緑の尾を引いて打ち込み台にヒビを入れた。


「アンタのはこっちだよ」

そういうと新品の打ち込み台を指差した。

「もしアンタが先に壊したら、なにかご褒美をあげるよ。アタイの魔法より、アンタの魔法の方が強いんだから無理な話じゃあないだろ?」

そう言い終わるとすぐにエルは打ち込み始めた。


「剣に魔力を込める方法は教えたのか?」

後ろからバロンが聞いた。どうやら走り込みは休憩に入ったようだ。

「弓と一緒だから分かるだろう?」

エルがそう聞くと影内殿は何も言わず、エルから受け取った竹刀を振った。


竹刀は黒と紫の尾を引いていた。

「弓は矢に込めたように、剣は刃だけに込めれば十分さ」

そう聞いた影内殿は静かに頷いた。


「すごいな。禄に説明もされていないと言うのに、ここまでとは」

打ち込み台に小さなヒビが入ったのを見てバロンが感嘆の声を漏らした。

「弓の時もそうだったけど、構え方もやり方も見様見真似で出来ちまうんだから本当にすごいやつだよ」

エルが手を止めて、そう言った。


「ショウ、アタイは手加減なんてしないからね。もうすぐ壊しちまうよ?」

そう言って打ち込むと、先ほどより大きなヒビが走った。


エルの挑発に焦ったのだろうか、影内殿の竹刀に込める魔力が大きくなったように感じた。

「ショウ、魔力の込めすぎには気をつけな。アンタ達の魔法は強すぎるんだから」

それをみたエルが釘を差した。


エルの忠告が聞こえていなかったのか、まだ大丈夫だろうと思ったのか。影内殿の込める魔力はさらに大きくなった。


竹刀に込めた魔力が不穏に揺らめく。だが影内殿はさらに強くしようとしているようだった。

「危ないな」

隣でバロンがそう呟いた。

そのとたん、魔力が一層激しく揺らめいた。

が、影内殿は気付いていないようだ。


「ショウ!止めろ!!」

私は慌てて影内殿を止めた。

影内殿は驚いて私の方を振り返った。


「恐らく、現状アレが限界だろうな。」

バロンが頷いた。

「ショウ、込めた魔力が揺らいでいたのを見たかい?」

エルの問いかけに影内殿は頷いた。

「魔力が揺らぐ魔法は光と闇にしかない、限界の証だよ。」

エルの言葉を聞いて影内殿は謝った。


「謝らなくていい。エルはわざとそうさせたのだろう?」

バロンがエルに目をやった。

「さすが隊長殿。限界を知るのは特訓する上で必要だと思ってね。さぁショウ、さっさと壊して休憩するよ」

そう言い終わると2人は打ち込みに戻った。


影内殿は限界のギリギリを覚えたのだろう。先ほどよりヒビの入る速さが増していた。


しばらくして打ち込み台が壊れた。

先に壊したのは影内殿だった。

「お疲れ。休憩しようか」

疲れ切っていた影内殿を労るようにそういうと一撃で打ち込み台を壊した。


木陰に座りながら、バロンは天清殿に話した魔力暴発の注意を言った。

「限界を知ったんだ、ショウならもう大丈夫だよ」

エルは笑っていった。

「そんなことよりさ、アルヴィンサマ。さっきアタイにつられてショウって呼んだだろ?」

「実を言うと慣れない敬称で言いづらいんだよ」

内心しまったと思っていたことを指摘され少し恥ずかしくなった。


「俺はショウと呼んでいただいて大丈夫ですよ。バロンさんも。」

「ありがとう。私のことはバロンで構わない」

バロンはそう言ったが、私は少し迷っていた。

呼びづらいと思っていたが、果たして勇者をそう呼んで良いものなのだろうか。

「ショウがいいと言っているんだ。"勇者だから"って悩んでるなら別に問題ないだろう?」

エルにそう言われて、私もそう呼ばせてもらうことにした。


「バロン、貴方が組んでくれたメニュー一通り終わったわ」

ライリーがバロンを呼びに来てそういった。

「バロン、ショウと実演訓練をしてくれないか?ライリーも付き添って、ないと思うがもし暴発したら止めてほしい。その間アタイとアルヴィンサマがアキラを見るから」

2人を見ながらそういうエルの提案に2人は頷いた。



天清殿のもとへ行くと2度目の休憩に入っていた。

「魔法に慣れる訓練はアタイが見るよ」

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