第6話 説得

__魔法の暴発により負傷したエルと付き添いで影内が王宮神父のもとに向かい、訓練所に王、バロンライリーそして天清の4人が残された__


「さっきのは一体、なんだったのでしょうか?」

天清殿が不思議そうに聞いた。


「アキラの使う光魔法と影内さんの使う闇魔法は全ての魔法の中で、最も強い魔法だ。だから相当な訓練が必要になる。体が順応できていない…つまり訓練のしていない状態で光魔法を使ったために起こった事故だろう」

バロンの説明に2人はがっかりしたように俯いた。 


「じゃあ次の討伐までには間に合わないのね」

しばらくの沈黙の後、ライリーが呟いた。

「討伐…?どういうことだ?」

バロンの問に焦りの混じった声であっと漏らし、

「もう一人の方、ショウが勇者だとみんなは思ってるでしょ?でもアキラは光魔法を使えるんだから初めからアキラは勇者じゃないって決めつけるのはおかしいと思うの」

と答えた。バロンがただ黙っているのを見て、ライリーは再び話し始めた。


「みんなにもそう思ってもらうためには討伐に出るのが早いと思った。そのためにまずは訓練所で光魔法を使いこなす練習をしようってことになったの」

「まさかこんなことになるとは夢にも思わず、訓練所を壊してしまって本当に申し訳ないです。無用の長物とはこの事を言うんでしょうね、僕はもう部屋に戻ります」

天清殿が去ろうとするのをバロンが止めた。


「訓練を、訓練をしよう。影内さんも含めて。幸い壊れたのはここの一角だけだ。焦げが見られるが特に影響はないだろう。特訓して、体が慣れればきっと使いこなせる。今度は1人で教会まで出掛けられるようになると思うよ」

ライリーの本当?という問いにバロンは頷いた。


それをみて彼女は天清殿の手を取った。

「アキラ、今回は失敗しちゃったけどバロンが教えてくれるのならきっと上手く行くわ!…もう一度挑戦しましょ?」

天清殿はニコッと微笑みバロンにお礼を言った。


「天清殿と影内殿の事は召喚士に一任している。討伐の件も含め一度話してみよう」

私がそう言うとライリーが嬉しそうにありがとうと言った___


 夜ご飯を食べ終え、時計の長針が2度ほど回り終えた後、私は召喚士の部屋へ向かった。

扉を叩くと驚いた顔の召喚士が私を出迎えた。

「先日召喚したお二方の事で少し話がある」

そういうと召喚士は私を部屋の端にある椅子に案内された。


 ベッドと本棚、壁に向かった机と椅子、そして私が座っている椅子と小さな机、召喚士の座る椅子。必要最低限しかない正方形の小さな部屋は2人が入るとかなり狭く感じた。

「単刀直入に言おう。お前の持っているお二方の権限、全てを放棄してほしい。」

そう言うと召喚士は驚いた顔で私を見た。


「あの時、一任すると仰ったではありませんか。今更になってどうして急に…」

「お前の天清殿に対する態度は目に余る。勇者ではないと決めつけ、蔑ろにするのは早計だろう。それに話を聞いて気付いたのだが、影内殿にも訓練すらしていないだろう?これを職務怠慢と言わずに何という。」


彼の顔はますます険しくなっていった。

「お言葉ですが陛下、私も暇な身ではありません。明日から彼の訓練を始めようと思っていたのです。それに、早急に魔王を倒すために見切りをつけるというのは合理的な判断ではないでしょうか?陛下も業務があるでしょう、お二方の訓練まで見るというのは難しいはずです。」

「いや、彼らを見るのは私ではない。兵隊長であるバロンだ。彼なら討伐に出せるかの判断も出来る、特訓を観るのも難しくはないだろう。お前も暇な身ではないのなら、これが最善であろう?」

私がそう聞くと彼は黙ってしまった。


しばらくしてから彼が口を開いた。

「わかりました、特訓は兵隊長殿に任せましょう。ですが彼らの身に何かあった時、責任を取る者が必要なはずです。彼を失うのは陛下の望むところではないでしょう。責任者を明確にするためにも、彼らの権限を放棄することは出来ません。」

「わかった。しかし、彼らの特訓、討伐に関するものは…」


私の話を召喚士が遮り、再び話しだした。

「特訓、討伐に関する権限は兵隊長殿にお譲りいたしましょう。それを彼が持っているままでいるも、放棄するも私の知るところではありません。」


 話がまとまり、私は彼の部屋を出た。

もし今後この事でお二方が不利な状況になるのであれば、今度は私の権力を使えば良い。それにお二方にとって最も関係のするのは特訓と討伐だろう。気掛かりだった2人の"待遇の違い"もこれで変わるだろう。

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