才能
バロンと共に影内殿とエルの元へ戻った。
「アルヴィンサマと兵士サマじゃあないか!早く戻ってこいと思ってはいたが…。これが噂をすればと言うやつだね」
エルは私を見るなりそう言って、はやくはやくとまくしたてた。そして彼女について行くと兵士の訓練所についた。
「私は兵士以外の使用を許可した覚えはないのだが…?」
バロンが怪訝な顔をした。
「アタイはシーフ。許可なんかなくともアンタの心を盗んでやるから、とりあえず彼を見ててくれ!」
そういうと影内殿に手を降ってみせてやれと叫んだ。
彼は黒いモヤをまとった不思議な弓を持っていた。そして彼が弓を引くと矢が木をめがけて一直線に飛んだ。
驚いたのはそのスピードと威力だ。矢を全く目で追えなかった。そしてその矢は木を貫いて、かろうじて羽根だけが引っかかっていた。
「な、すごいだろ?流石のアタイでも、あそこまですごい弓は射れないよ」
「あぁ、驚いた。弓の威力も、彼の使う魔法も…。」
バロンは絶句していた。
「アタイが魔法は使えないのかと聞いたら分からないと言うから適当に何か出してみろって軽くコツを教えたんだ。そしたら見たことない魔法を出すもんだから驚いたよ!そんなすごいもん出せるなら弓の1つや2つくらい、軽く射れるだろって渡したらアレだもんな!」
エルは嬉しそうに話し、なぜかドヤ顔をしている。
「どうでした?討伐ではあまりお役に立てませんでしたが、これなら自分の身くらいは守れるんじゃないでしょうか?」
「…あぁ、そうだな。」
バロンは複雑な表情を浮かべてそういった。
「すまない、この後にも少し用事がある。後のことは頼んだよ」
そうエルに言うと、バロンと共に私の部屋に戻った。
「彼にまさか弓の才能があるとは…。お茶会では武器なんぞ持ったことはないと言っていたのだが…。」
「国王、彼の魔法は闇魔法。つまりモンスターが最も得意とする魔法です。」
「お前の気持ちも分からなくはないが、彼のあの才能は討伐に役に立つだろう。以前より研鑽を重ねていたのならなおさらだ。もう少し様子を見よう」
私は不服そうなバロンをなだめ、天清殿とライリーの元へ戻った。バロンも私の後をついてくる。
庭にも天清殿の部屋にも2人の姿はなく、仕方がないのでエルと影内殿のもとへ戻ろうとすると訓練所から激しい爆発音が聞こえた。バロンと顔を見合わせ慌てて向かうとそこには先ほどいたエルと影内殿に加えて、探していたライリーと天清殿もいた。
訓練所の一角がひどく崩壊し、訓練所全体に焼け焦げたような臭いと白い稲妻のような激しい光が広がっている。光の中心にはひどく混乱し慌てた様子の天清殿がいた。影内殿は少し離れた場所に、エルは影内殿を護るようにして立っている。ライリーは天清殿の後ろで腰を抜かして座り込んでいた。
私はライリーのもとへ駆け寄り、彼女を支えながら距離を取る。バロンはエル達の方へ向かい盾を構えた。
「ライリー、魔法を止まる魔法-アスタナヴィーツ-を!」
私の言葉にハッとしてライリーが杖を振った
「アスタナヴィーツ!(魔法よ止まれ)」
杖から放たれた光が天清殿を包み、一面に飛び交っていた白い稲妻が消えた。彼は地面に座り込みじっと手を見つめた。
「ライリー、一体何があった?」
バロンが盾を背に戻しながらライリーに聞いた。
「…少し前に魔導書を読み終えたから、実演しようとここに来たの。そしたら、そしたら既にエル達がいて、3人でアキラが魔法を出すのを見守ることにしたの。それで…」
ライリーはまだ動揺している様子だった。あれほどの魔法の暴発はあまり見られない。すぐに気を持ち直せというほうが無理があるだろう。
しばらく沈黙が続いて、今度はエルが説明を続けた。
「一発目は何ともなかったんだ。的に当たるより前に消えちまったから今度はもっと強いのを出してみろって言ったんだ。そしたらすごく強い光が出て、塀に当たった瞬間爆発したんだ。その後白い稲妻みたいな…さっきのが溢れ出たんだよ。一つ一つがかなり強い力を持つようだからアタイとショウは距離を取ったんだよ。近くにいた彼女に怪我がないのは幸いだったね」
そういうとエルは左腕を私とバロンに見せた。
熱した剣で斬りつけたような傷が大きく腕をえぐっていた。まだ出血が止まっておらず抑えているハンカチが赤く染まっていた。
「すまないが王宮神父のもとに行かせてもらうよ」
エルが城へ向かい、影内殿が1人では心配だと彼女の後を追った。
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