第4話 スーツの勇者

__異世界から召喚してしまった天清、魔法使いのライリー、そして護衛のバロン。3人が教会に出掛けたのを見送り、王は勇者の部屋へ向かった__


 勇者の部屋の扉をそっとノックした。

「勇者殿、貴方と少し話がしたいのだが…」

言い終わらぬうちに部屋の扉が開いた。

「私が何かしたでしょうか?」

えらく萎縮しながら中から勇者が顔を出した。

「驚かしてしまったのなら申し訳ない。ただ貴方のことも知っておかねばと思って。紅茶はお好きですか?」


 勇者を客室に案内しコーヒーを淹れた。

彼が紅茶を飲めないのは非常に残念だが、飲む物が違ってもお茶会はお茶会だ。

「今さらになって申し訳ないが、名前を聞いても良いだろうか?」

「あ、私は影内宵(かげうち しょう)と申します。」

勇者はハッとしたような顔をして名乗り小さな紙を差し出した。私はそれを受け取りまじまじと見つめた。恐らく文字であろうものが書かれた紙。中央に大きく書かれているのが名前だろうか?

「すまない、どうやら貴方の世界の文字を私達は読めないようだ。そしてこの紙も、私は何か知り得ない」

勇者…影内殿は目を丸くして、その後少し顔を赤らめた。

「申し訳ありません、元の世界の癖が抜けなくて…」

なるほど、異世界では名乗った後にこの紙を渡すのか。

「…すまないが少しだけ待っててくれ」

そう言って私は棚から紙とペンを取り出し名前を書いた。

「私はアルヴィンだ」

そう言いながら今名前を書いたばかりの紙を渡した。影内殿は渡した紙を見て笑った。…何か違ったのだろうか?不安に思ったが彼がありがとうございますと言ってケースの中にしまったのを見てホッとした。


 それから天清殿と話したような他愛もない話をした。私は彼がまだ29歳だと言ったのに少し驚いたのだが、顔に出ていなかっただろうか?

 それから今天清殿が教会で魔法が使えるのか調べていること、もし彼が使えるのであれば影内殿も同じように使える可能性があることを話した。

 彼は魔法があることに驚き、自分が使えるかもしれないことを聞いてさらに驚愕していた。

「それは元の世界に戻っても使えますでしょうか?」

「貴方の世界に魔力というものがないのなら恐らく使えないだろう」

そう言うとひどくがっかりしていた。ブラックをホワイトにしたかったと呟いていたが私には何のことか分からなかった。


「討伐は毎日あるわけではないし、この城に1人でいるのは暇だろう。ちょうど私の知り合いに愉快な者がいるのだが、会ってみないか?」

彼は少し考えて紹介してほしいと言った。


 彼に紹介したのはシーフだ。短刀や弓を使って戦い、たまにとんでもないものを盗んでくる。モンスターのパンツを盗んできたこともあった。

「君が勇者サマかい?アタイはエルプティオ。エルって呼んでくれたらいいよ」

彼女は笑って影内殿に手を差し出した。

「私は影内宵と申します。」

そう言って影内殿が彼女の手を取った。

「ショウ、か。いい名前だ。ショウ、アタイなんかに敬語なんて使わないでくれ。対等な立場でいようじゃないか!」

「わかりまし…わかった。」

2人が話すのを見て、やはり彼に彼女を紹介してよかったと思った。エルは強気なところが目立つがちゃんと気を遣えるいい子だ。あとは彼女に任せても大丈夫だろう。私はそっと2人の元を離れエントランスに向かった。


 エントランスに着くと既に教会から3人が帰ってきていた。

「あ、アルヴィン様!」

ライリーが駆け寄ってきた。彼女はいつも私を見かけると駆け寄ってくる、かわいいヤツだ。

「アキラが魔法を使えるか見てもらってきたわ!聞いて驚いて?彼、光魔法を使えるみたい!」

ライリーの言葉を聞いて驚いた。異世界のものが魔法を使えることも、彼が魔族に効果バツグンとされる光魔法を使えることも。

「私は少し国王と話すから2人はどこかで魔法の練習でもしておいで」

バロンが2人にそう言うとライリーがはーいと返事をして2人でエントランスから去った。

「国王、もしや勇者はアキラのことだったのでは…?」

彼は私が心のなかで思っていたことと全く同じことを言った。

「影内殿にも確かめなければならないな」

私がそう言うとバロンは静かに頷いた。

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