戦士 バロン

__つなぎの男…天清に魔法使いのライリーを紹介した。その後討伐隊の到着を出迎えるため2人を庭に残し、王は1人エントランスへ向かった__


 私がエントランスに着くのとほぼ同時に討伐隊もエントランスに入ってきた。初めてのモンスター退治に疲れたのだろう、勇者の顔には疲弊の色が見て取れた。


 勇者を含めた討伐隊がみなエントランスから去った後、隊長であるバロンと2人きりになった。

「国王。古文書に書かれているという勇者の話は本当なのでしょうか?」

思いがけない言葉にじっとバロンの顔を見つめた。怪訝な表情を浮かべている。

「何故そう思う?」

私の問いかけに彼は答えない。小さくため息をついて、私は彼の問に答えることにした。

「実を言うと古文書は、全て解読できているわけではないんだよ」

そういうと彼はますます怪訝な顔をした。

「古文書に勇者の話は出てくる。彼が結界を増強させる力があり、魔に打ち勝つ力を秘めていることも。…そして、勇者の剣を手にし魔王に打ち勝つ事ができるともね」

私の話を聞いてしばらく考えた後、バロンはようやく口を開いた。

「彼には申し訳ないですが、とても魔に打ち勝つ力があるとは思えませんでした。その古文書はどこまで信用できるものなのですか?」

どこまで信用できるか…。はっきり言って私にもわからなかった。もしかしたらおとぎ話なのかもしれない。

「それでも今はその不確かなものに縋るほかないだろう?1%でも可能性がある限り私は信じようと思うよ。だけどそれを君に強要したいわけではない。君が嫌なら他の方法も考えるよ」

バロンはまた黙りこんでしまった。

「別に今すぐとは言わない。答えが決まったら教えてくれ」

そう言って私はエントランスを後にしようとした。


「国王、私はただあなたに雇われて働いているわけではありません。貴方のその人柄に、信念に惹かれた。だから貴方の為に命を賭して戦う。貴方が信じるというのであれば私もその1%を信じましょう」

彼は跪き手を胸に当てた。古来より伝わるこの国の忠誠を誓う体勢だ。

「君には心労をかけるな」

私はそう言うと彼をエントランスに残し、この場を去った。


 庭へ戻ろうと廊下を進んでいると、図書室の方から賑やかな笑い声が聞こえた。ちらっと窓から覗くと天清殿とライリーが一つの図鑑を共に見ていた。

「こんなところにいたのか。」

私がそう言いながら図書室へ入るとライリーがぱっと笑みを浮かべながら私のもとに駆け寄ってきた。

「アキラに魔法を見せたら今度は使ってみたいと言ったの。でも私上手く使い方を教えられなかったから魔導書の力を借りようと思って!」

彼女の話を聞いてふと疑問に思った。はたして異世界のものは魔法を使えるのだろうか?

「やっぱりこの国の人じゃないと魔法は使えないですよね」

そう言いながら天清殿が苦笑した。

「教会に行けば分かるかもしれんな。明日2人で行ってみてはどうだ?」

「…アルヴィン様、教会は国の外にあるでしょう?私1人でアキラを守りながら行くなんて少し自信がないわ」

そう言われてハッとした。神聖な光の元にという理由で教会は国の外、"聖なる森"の中にあるのだ。

「なら頼れる護衛を紹介しよう。彼ならきっと2人を守ってくれる。少しここで待っていてくれ」


 そうして自室に戻ったであろうバロンを呼びに行った。彼は二つ返事で了承してくれた。


 明日3人が教会へ行っている間に、出来れば勇者と話がしたい。私は彼のことを何一つ知らないのだから。

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