フィオレへの降り立ちとリナとの出会い
レンは宇宙船の窓から広がる光景に目を奪われていた。目の前に広がる惑星が、鮮やかな色彩と共に映し出されている。紫がかった大気が星全体を包み込み、その中で青や緑の大地が広がっていた。地球とは明らかに異なる光景に、レンは驚きと興奮を隠せなかった。
「これが…ここはどこなんだ?」
思わず隣のアルノに問いかけると、彼は少し驚いた様子でレンを見やり、淡々と答えた。
「ここは『フィオレ』。お前がこれから暮らすことになる星だ」
「フィオレか…すごい名前だな」
レンはその名を口にし、視界に広がる壮大な景色を目に焼き付けようとした。まるで夢の中にいるようで、信じがたい気持ちと共に、その名がしっくりと馴染んでくるのを感じた。
「…だが、勘違いするな」
アルノが少し硬い口調で続けた。
「お前をここに住まわせる決断は、我々にとっても簡単なものではなかった。我々の星で生活する以上、こちらの規則に従うことが条件だ」
「ここで…住めるようにしてくれるってことか?」
レンが確認するように聞くと、アルノは頷き、慎重に言葉を選びながら続けた。
「そうだ。お前がフィオレで生活し、こちらの環境や文化を理解することが、双方にとって有益だと判断した。だが、油断するな。監視の目は常にある」
レンは、期待以上の答えに驚きと共に安堵を覚えた。アルノの冷静で抑えた態度から、フィオレ側が彼の存在を慎重に受け入れていることが伝わってくる。しかし、それでもこの星で新しい体験ができることに、ひそかな喜びを感じていた。
宇宙船が着陸し、船内に重たい静寂が訪れると、アルノが先に立ち上がり、レンに手短に指示を与えた。
「ここからは私の指示に従え。何も知らない地球人がフィオレを歩き回れば、思わぬ危険を招く」
「了解、アルノ。言われた通りにするよ」
レンは頷きながらも、心の中は好奇心と不安が交錯していた。地球を離れ、見知らぬ星での生活が始まることに一抹の不安を抱きつつも、レンはその一歩を踏み出そうと心を決めていた。
アルノに続いて降り立ったフィオレの大地は、想像を超えた異質さと美しさを感じさせるものだった。レンが足を踏みしめた地面は柔らかく、軽い衝撃を吸収するような弾力があった。空は青と紫のグラデーションで彩られており、空気にはほのかに甘い香りが漂っている。
「ここがフィオレの空気か…地球と全然違う」
レンはゆっくりと息を吸い込み、その独特な感覚を味わった。酸素の含有量や気圧が地球と異なるため、若干息苦しさを感じたが、慣れることができそうだ。
「観察は後にしろ。ここは保護施設への入り口だ。今はお前の体が適応しやすいよう、環境を調整した場所に案内する」
アルノはレンを促し、フィオレの施設の一角に向かって歩き出した。レンはその背中を追いながら、周囲の光景に目を奪われ続けていた。建物は地球のようなコンクリートやガラスではなく、光沢のある青緑色の金属で構築されており、独特の曲線美を持っている。光が反射して淡い虹色を帯び、周囲の植物とも調和していた。
施設の内部に入ると、天井にはまるで星空のようなライトが点灯しており、淡い光が周囲を柔らかく照らしている。周囲の異星人たちは皆、レンと同じような青紫色の肌を持ち、静かに歩みを進めていた。フィオレの住人たちがレンにちらりと視線を向けるも、皆淡々とした表情で仕事に戻っていった。
「ここが、お前が当面滞在する場所だ」
アルノが一つの部屋を指差し、レンに促した。その部屋は広くはないが、異星の技術をふんだんに取り入れた造りで、驚くほど機能的な空間が広がっていた。レンが中に入ると、アルノも部屋に続き、簡単な説明を始めた。
「この空間は、地球の環境に近い条件を整えている。大気、温度、湿度すべてが調整可能だ。ここでしばらく過ごし、適応に努めろ」
「ありがとう、アルノ。なんか…そこまで気を使ってくれるとは思ってなかった」
レンの言葉にアルノは特に反応せず、ただ冷静に頷いただけだった。
「お前には、フィオレの社会に対する理解が求められる。今後はフィオレの文化、歴史、科学について学ぶ場も設けることになるだろう」
「フィオレの文化か…すごく興味がある」
レンがその意気込みを伝えると、アルノは再び頷き、ふと何かに気づいたように時計に目を向けた。
「時間が来たな。今後お前の教育と監視を任される者がここに来る」
「教育と…監視?」
「そうだ。お前のような存在は我々にとっても未知数だ。今はまだ監視対象だが、無用な問題を起こさなければ少しずつ自由も与えられる」
レンは少し複雑な気持ちでアルノの言葉を聞いていた。監視される立場であることは理解できるが、それが彼の行動にどれほどの制限を課すものかが気になっていた。
部屋に静寂が訪れたその時、外から小さな足音が響いた。レンはそちらに目を向けた。ドアが開き、そこに現れたのはアルノと似た青紫色の肌を持つ少女だった。彼女はレンよりもわずかに年下に見え、鮮やかな緑色の瞳が印象的だった。レンが彼女を見つめると、彼女もまた興味深そうに彼を見つめ返した。
「リナ、紹介しよう。こちらがレンだ」
アルノが静かに言った。その声に、リナと呼ばれた少女が軽く頭を下げた。
「はじめまして、リナです。あなたが地球から来たレンですね」
レンは緊張しつつも、彼女の真っ直ぐな視線に引き込まれ、思わず言葉が途切れた。
「…ああ、そう、レンだよ。フィオレに来たばかりで、まだ何もわからないけど」
リナは微笑んだ。その笑顔は純粋で、どこか親しみやすさを感じさせるものだった。その瞬間、レンの不安は少し和らいだ気がした。
「大丈夫ですよ、私がこれから色々と教えますので、安心してください」
リナのその一言が、レンの心をほっとさせた。フィオレでの新しい生活に対する不安は消えたわけではないが、彼女がここでのガイド役を担ってくれることに安堵感を覚えた。
そして二人の視線が一瞬交錯した瞬間、レンはリナの瞳に映る自分が、どこかフィオレの住人として受け入れられたような気がしたのだ。
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銀河の果てで見つけた君は、異星のプリンスでした arina @arina-t
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